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十五前後物語(2)


 

 八月十七日 午前十時四十分 乗り換え駅内



「んと、次で一旦降りて乗り換えで。次までちょっと待つ感じだから」

 さつきちゃん、カメ子ちゃんも。そろそろ着くよ。ショーコは端末を見ながら話しかけ、寝ているさつきとカメ子を起こした。


「あ、ああ。ごめん、寝てた。もう着いたの?」

「ここで乗り換えなんだよ。時間あるから立ち食いそばでもどうだい、さつきちゃん」

「起きていきなりって・・・。というか、あんたほんと好きだよね、そばとかラーメンとか」

「立って食べるとなんか倍おいしいんだよねえ。そしてさつきちゃん、隣のカメ子ちゃんを」

 ああ、そうね。さつきは亀山さん、と声を掛け二の腕を揺らした。

「ごめん、高野さん。ありがとう、もう着いたの?」

「ここで乗り換えだって」

 数分後、電車はホーム到着し、降りた三人は改札の中にある立ち食いそばに向かった。



「そういえば理恵って連絡したんだよね?」

 そばを注文し待ってる間、さつきは端末を触っているショーコに言った。

「うん、イノシシの駅出るときにしたんだ。それで今返信が『はやく言え!今からじゃ無理だ』と」

「まあそうよね、普通」

 さつき、カメ子、ショーコの前に、たぬき、たぬき、きつね、のそばが並んだ。


「いやあ、この揚げはいつ食べても最高だよ!」

 ショーコは揚げを一口食べた後、汁を飲んだ。

「ここ初めてでしょ、あんたは」

「大丈夫、大丈夫。こういうとこって大体同じ業者から冷凍のを卸してるから一緒だよ」

「・・・。だからそういう事をここで言うんじゃ」

 さつきは店員が少し離れたのを確認してショーコに言った。

「でも、高野さんもこういうそばって食べるんだね」

 カメ子は七味を大量に入れながら言った。

「うん、まあ食べ始めたの最近なんだけど。でもおいしいよね、こういうそばも。イノシシの鍋はちょっと苦手だけど」

 さつきは髪が邪魔にならないよう、少し耳に掛けて食べた。


「高野さんイノシシ鍋食べなかったもんね。わたしは大丈夫だったけど」

「なんかあの場所で食べるのが、よりね。気持ち的に」

「さつきちゃん、だめだよ。場所と物で好き嫌いしたら、ベトナムではねえ。あんなもんじゃなかったんだよ。雨が降り続けるジャングルの中、口に合わない現地の米を食べるとか、大変だったんだから」

 ショーコは揚げを箸で挟んだまま言った。


「なんであんたはそっち視点なのよ。でもそっか、理恵来れないのか」

「それで『いっつも急すぎるんだよ!何時間掛かると思ってるんだ』というのが追加で来たよ。場所は一応調べたと見たね」

「垣内さんも来れればよかったのにね」

「カキウチ?ああ。理恵ね」

 さつきは一瞬戸惑ったような目をした後、そばを食べ始めた。

「おお、理恵ちゃんの名字かあ。字で見たことはあったけど、初めて音で聞いたかも。でもさつきちゃんは戸惑っちゃだめでしょ」

「うるさい!あんた達といるときは言わないから」

「これは理恵ちゃんに報告案件だね。あ、それで現地についたらさ。こういうのあるみたいなんだけど」

 どう?と言ってショーコはさつきに画面を見せた。


「坐禅体験?なにこれ」

「ほら、寺で住職が後ろからパーンってやつ」

「へえ、そんなのあるんだ」

 さつきは箸を置いてショーコの端末を手に取った。

「おい、おまえあほか!なんで観光地行くっていうのにそれなんだよ!どこでもあるだろ!」

「いやあ、カメ子ちゃん。どこでもはないよ、坐禅体験」

「大体、わたしからしたら日常なんだよ。なんでそんなもんに金払って、え?」

 カメ子は端末を凝視しているさつきが目に入った。


「高野さん、まさか・・・?」

「あ、うん。別に行くとかじゃ。ただ、どんなのかなって」

「カメ子ちゃんの家でもやってるの?」

「い、いや。体験とかそういうのはやってねえけどよ!うちは供養が専門だ、あ。いいぞ、やってやる。こんどうちに来い、お前は金属バットで後ろから思いっきりやってやるよ。掃除面倒だから外の砂利んとこで」

「まあまあ、亀山さん。ほら一つの案っていうことで。着くまでまだ時間あるから、わたしもいろいろ見てみるよ」

「うんうん。それがいい、それがいいと言いました」

 ショーコは汁を全部飲み干してどんぶりを返却場所に置いた。


「食べるの早過ぎでしょ」

 ショーコを横目で見てさつきは言った。

「さつきちゃん、ここでは早く食べるのがマナーなんだよ。外の世界のルールはここでは無意味さ!」

「はいはい、もう」

 さつきは急いで食べ終え、箸を置いた。


「乗り換えは?」

「あと六分。まだ余裕はあるよ」

「ちょっと、ごめん。高野さん、わたし。ま、まだ」

 カメ子は必死に箸を動かした。

「いいよカメ子ちゃん。ゆっくりで」

「てめえ、ショーコ。油断させてまた置いていくつもりだろ!」

「・・・ごめん、ちょっと水買ってくる」

 

 さつきは自動販売機でペットボトルの水を買い、一息で半分飲んだ。


 端末で乗り換えの時間を確認した後そば屋を見ると、カメ子が食器を下げながらショーコに何か言っているのが目に入った。


 さつきはペットボトルを手に持ったまま、先いってるよー。と二人に言いエスカレーターに乗ってホームに向かった。

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