心霊探偵助手の補佐から(6)
八月十二日 午前十二時三十五分 インドカレー店内
「だってさ、今日水温測ってたけど時間帯で条件違うじゃない」
「あ、確かに。そうことかー」
「これ食べ終わってからショーコが戻ってやっても、やり始めた午前十時頃と比べて全体的にプールの温度上がってるから」
「うう、じゃあ今日の一連の動きは」
「意味なかったかも。もしやるなら今回は七十のブロックに分けてるから、七十人で一斉に測るとか?」
「さつきちゃん、今ちょっと想像したけど。七十人で温度計投げるのをさ。もう、ぐっちゃぐちゃになる感じしか浮かばないよ」
「そうね。現実的でなないかも」
さつきはカレーとライスを食べ終えていたが、ショーコは、カレーだけを食べきり大量のナンが余っていた。
「ショーコ六月の排水溝に引き込まれたっていう人。水泳部のキャプテンとか、そういう人?」
「その辺昨日理恵ちゃんに聞いてみたんだ。横の繋がりがあるかと思って。そして大当たりだよ。三年のキャプテンだね」
「やっぱり。大事な大会の前に水泳部のやる気を下げるにはちょうどいい」
「あ、じゃあ。霊はそれを狙って。水泳部の成績を落とすために!?」
「何度も言うけどあくまで可能性よ。わたしもちょっと調べたんだけど、四コースって上位タイムの人が入ることが多いらしいよ」
「へえ、なんで?」
ショーコはナンを掴んで食べた。
「水の抵抗がさ違うんだって。うちだと、一コースとか、七コースとか一番端に行くほど跳ね返りがあるらしいのよ。だから中心のほうが泳ぎやすいらしい」
「ほー、なるほど」
「そして今の遠征ってさ。大会でしょ?」
「うん、全国らしいよ」
「それ終わったらさ。新キャプテンとか決まるよね」
「あ、じゃあもしかして霊は・・・」
「新キャプテンが決まって最初の練習。わからないけど四コースに入る可能性は高いんじゃないかな。そこで」
「霊としたら最悪無事でもいいよね。新キャプテンが一発目の練習で引きづりこまれたってなったら全員失笑。それ以降、求心力が激下がるよ」
ショーコはナンを掴んで食べた。
「そして結果的に部全体の意識低下につながる」
「そうか、霊の目的は水泳部を衰退させることかあ。なんか地味だけど。でもさ、霊が引きずりこめるんなら、もっとがんがんやればいいんじゃないの?そしたらあのプール誰も使わないよ」
「もしかしたらそんなに力がないタイプなのかも、回数制限があるとか。だからピンポイントで代表者を狙って」
「ふーむ。仮だけど霊がいるとして、能力が回数制限付きということであれば、やっぱり効果的なのは、さっき言ってた最初の練習だねえ」
「いたとしたら、ね」
「でも温度作戦で失敗してるし。どうすれば確かめられるかなあ」
さつきは水を飲み、ショーコはナンを掴んで食べた。
「もう一度最初からやるしかないんじゃない?水温が変動しない今日の夜に」
「え、今日の夜?また・・・?」
「いいじゃない、もう一回昼から連絡して、忘れ物があるので夜に取りに来ますって」
「いくらなんでも連日連夜忘れすぎだよ!忘れ物の限界を超えてるって!」
「いいでしょ、なんか適当に理由作って」
「ねえ、さつきちゃん」
ショーコは食べかけのナンを置いた。
「今回の件はこの辺が引き際じゃないかと。正直見ず知らずの水泳部だし、あくまで可能性だし。そしてその可能性もさ、霊が新キャプテンを襲うっていうの。ないとは言わないよ、ありえるけど。わたしはその可能性は薄いというか低いと思う。けっこう条件が厳しめだしさ。だから、ねえさつきちゃん。さつきちゃんはもう見習いじゃない、ここまで来たらもう探偵だよ。補佐から一日で!これは大出世だよ!だからこそ、助手の意見も」
「ここまでやったんだし、一応確かめないと気になるじゃない。とりあえず、わたしそろそろ行くから。終わったらあんたの家行くようにする」
さつきは自分の分のお金をテーブルに置いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、さつきちゃん。まだ話が!そしてナンが!わたしさっきからずっと食べてたけどまだ全然残って!」
店を出て行くさつきに向かってショーコは手を伸ばした。