心霊探偵助手の補佐から(4)
八月十三日 午前十時二十分 プールサイド
「そういえばさあ、さつきちゃん」
「なによ」
さつきとショーコはバインダーを片手に持ち、もう片方の手で温度計をプールに入れていた。
ショーコは学校指定ジャージを、さつきは紺色のワンピースに、ショーコが、暑さ対策が必要だよ、と渡したオリックス・バファローズの前身球団のオリックス・ブルーウエーブの野球帽を頭に軽く乗せる程度でかぶっており、またショーコはオリックス・ブルーウエーブの前身球団である、阪急ブレーブスの帽子をきっちりと着用していた。
「さっき用務員さんに聞いたんだけど、今年の七月末にさ。要は二週間ぐらい前に、このプール工事したんだって。詳しい内容まではわからないけど」
「決まりね。やっぱり昨日言ってた流れじゃない。未遂でも一応事故があって、告発、修理。誰かがあれに気づいたんじゃない?あんたがわかるぐらいだし」
「でもね」
お!ここ温度高い!ショーコはバインダーに挟んでいる紙に数字を書き込んだ。
「あまりに自然すぎて、逆に不自然じゃない?まるで誰かがわたしたちを誘導しているように思えるよ」
「都合がよすぎるってこと?」
「そうそう、もし仮にだよ。ここに霊がいるとしたら、って考えるとさあ。霊の思い通りの展開っていうか」
「まあいるならね、そうかもしれないけど」
さつきは取り出した温度計を凝視し、バインダーに記入した。
「あとさ、このコース十分割を半分にっていう提案をだね・・・」
「いや、必要でしょ。これくらいは」
さつきの提案によって、プールの一コースを十個に分け、七コースで合計七十の枠をつくり、さつきとショーコはそれらの空間の水温を一つひとつ測って、プールの図を描いた紙に記入していた。
「あと周りはなんとかなりそうだけど、二から六コースがさ。ええと、図でいうと二ー二から二ー九とかさ」
「そうよね、一番知りたいのが四ー五周辺だし」
さつきはプールの図を見ながら言った。
「一応わたしは水着持って来たんだけど。さつきちゃんは?」
「は?入るわけないでしょ。午後から模試なのに」
「まあ入る雰囲気はないのはわかってるけど。一応ね。聞いてみたよ、わたし」
「あんたはいいよ、その恰好だし」
「ふっふ、ジャージ最高だよ。やっぱり学校の生徒だと判断してもらったほうが話が早いからねえ。用務員さんの心もすぐに溶けたよ」
「でもそうね、中心部か」
さつきは立ち上がって手を伸ばしたが、一つ奥のコースの温度は図れそうになかった。
「あ、そうだ。さつきちゃん!近くの百円ショップでさ、こう長い棒と糸を買ってだね」
ショーコは釣り竿を振るしぐさをしていた。
「ああ、そういうこと。釣りみたいに温度計を投げるのね」
「うんうん、何回か投げればいい感じのとこに温度計落ちるんじゃないかなーって。中心も横からやればさ。そんな遠くないし」
「じゃあ試してみる?でもわたし午後一時には出るからね」
「大丈夫さ!ぱっといって糸くくればすぐだよ!」
さつきとショーコは百円ショップに向かった。
「いやー、なかなかいいのが買えたねえ。さつきちゃん」
「これだけあったら大丈夫でしょ」
さつきが改めてビニール袋の中を確認すると、糸をくくりつける竿はプラスティック製で伸縮する棒を選び、釣り糸、蛍光で夜間もわかる浮き、そして必要かどうか迷ったが、ショーコが雰囲気も大事だと提案しルアーを二個入っていた。
「なんかすごく水の温度計れる気がするよ、今のわたしたちなら。そして、これ地味に釣りの練習にもなるし、経験値的においしいよ。さつきちゃん、がんがんやっちゃおう!」
「はいはい。でもわたしお昼ご飯も食べたいし、あとちょっとだけやって終わるから」
さつきは荷物をカゴに入れ、自転車にまたがった。