心霊探偵助手の補佐から(2)
八月十二日 午後九時五十分 ショーコ宅
「布石ってどうするつもりなのよ」
さつきは観ていた映画を再生した。
「さあ、いよいよわたしの計画の全貌が明らかになるよ!」
「いいよ。こっち観てるからゆっくりで」
スナック菓子を食べながらさつきは言った。
「ふっふ、まあそう慌てるでないよ、さつきちゃん。今日の昼のことだよ。わたし学校に連絡しておいたんだ、忘れ物があるから夜取りに行きたいってね。それで夕方から来る守衛さんに預けといてもらうってことになってさ。あ、忘れ物の財布は午前中の早い時間にとある場所に置いといたんだ」
「別に慌ててないし。というか計画って言えるほどのものなの?それ」
「これでスムーズに夜の校舎に侵入できるよ。それで守衛さんに言うんだ。『もう一つ忘れ物をしたのでプールに取りにいっていいですか』ってね」
「なにそれ・・・」
「そして夜のプールに潜入し、調べ上げる。どうだい、補佐のさつきちゃん?この計画は」
「それさ、昼の忘れ物の連絡いる?」
「直接夜守衛さんに連絡してもいいんだけど。ほら、より安全かつ確実にだね。これで問題なく行けるはず、ということで一旦っと」
ショーコは映画を一時停止した。
「では、行こう。補佐のさつきちゃん。助手が案内するよ」
「いちいちそれ言うの?」
さつきはスナック菓子を畳んでこたつテーブルの上に置いた。
「最初が肝心だからね、探偵業務に気持ちを持っていかないと」
「はいはい、いいよ。好きに言えば」
さつきはだれでも自転車、ショーコは自分の自転車で夜の高校に向かった。
学校に着いたさつきとショーコは、生徒が使う通用口は門が閉まっていたので周りをうろうろと歩いた後、逆にこっちなんだよ。というショーコの提案によって正面の入り口から学校敷地内に入った。
玄関前に自転車を停めショーコは、
「校舎の裏口のとこから入ってすぐが守衛室だからさ。ちょっと話してくるよ」
と校舎を指差して歩き出した。
「うん、ここで待ってる」
さつきはショーコの自転車の横に停めて、校舎を見た。
昼は意識したことがなかったが校舎には多くの窓があり、そのどこからか視線を感じたさつきは一瞬窓をいくつか見た後、すぐにやめて目を逸らした。
そしてしばらくは窓が目に入らない方向にあった、グランド、テニスコートを眺めていたが、再び視線を感じたしたさつきは、ショーコが向かった裏口の方向に、最初は歩いて、徐々に早足になり、その後さらにスピードを上げ、全力で走って向かった。
「あ、さつきちゃん」
裏口付近にいたショーコはさつきを見て手を振る。
はあふう、いや、ショーコ。はあはあ。さつきは息を整えながら歩いて近づいた。
「どうなの、大丈夫なの?」
「ばっちりさ!今日はプールに行き放題だよ」
ショーコは鍵の束をぐるぐる回しながら言った。
「あ、鍵借りたんだ」
「うん、一時間後に戻すって言っといた」
「一時間って、どんだけ忘れ物探す設定なのよ・・・」
「いやー、少ないぐらいだよ。ええと、今十時十五分。脱出時間も考えると、十一時にはプールを出ないとね。じゃあ、向かおう」
「早く終わったらあんた一人で待っててよ、わたし帰るから」
「またまたあ。こういうとき一人で帰る危険性をわかってるくせにー」
さつきとショーコはプールに向かって歩いた。
「うう、この形だって言ってた気がするんだけど」
「大丈夫?あんたが好きなゾンビ映画なら、もう太腿食いちぎられてるけど」
プールのフェンスにある南京錠に何度も鍵を入れているショーコを、さつきは腕を組んで後ろから見ていた。
「この世界が普通でよかったよ」
ああ、また違う・・・。ショーコはその場に座り込んだ。
「束すぎるんだよ!これ二十個以上あるよ、うう」
「貸しなさい、どの形なの?」
「ええと、これだと思うんだけど」
ショーコは束にある鍵の一つをさつきに見せた。
「ふーん、それね」
鍵を受け取ったさつきは、ショーコが示した鍵以外の形を何回か入れた。
「わたしに聞いたのは、それ以外を試すため・・・」
「それもあるけど」
あ、開いた。さつきはフェンスのドアを開けた。
「暗いし守衛さんが間違ってるかもしれないでしょ」
「な、なんと。そっちも疑うとは。さすがさつきちゃん!助手の補佐として、めきめきと頭角を現しているよ!」
「はいはい」
さつきは階段を登りプールサイドに立つ。
「あれ、鍵はそのまま?」
フェンスを閉めながらショーコは言った。
「いや、わかんなくなるでしょ。閉めるときに」
「ひゅう!そう言えばそうだね。さすが美人補佐。有能だなあ、頼りになるなあ」
「なんかむかつくんだけど、それ」
さつきは階段を登ってくるショーコをにらんだ。