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わたしたちはイノシシの霊を(5)

 

 八月九日 午後十一時十五分 公民館内



「おし、起きた!」

 アラームの音が鳴りショーコが布団から勢いよく飛び出る。


「てかもう起きてただろ。何回目のスヌーズだよ」

「あんた、次の休憩から抜くからね。遅れた分は」


 暗闇の中、さつきはステージ近くで窓枠に肘を付け外を見ており、理恵は座布団を並べてた上で腹這いになり端末を操作していた。


「いやあ、面目ない。ただわたしはバイトリーダー。これから一気に取り返すよ」

 ショーコは電気を付けて、ソフトケースからエアガンを取り出し、組み立て始める。


「おい、やめろ、急に電気を。つーか、それなんだよ。スナイパーライフルか?」

 理恵は起き上がり、組み立てているショーコの横に移動した。


「ちょっと、なんでそんなもの持ってきてるのよ」

 さつきは監視を続けながら、ちらちらとショーコを見る。


「さすが理恵ちゃん。おし、これで」

 ガチャという音がして組み立てが終わった後、ショーコは再び電気を消し、窓を少し開け銃口を外に出して暗視スコープを覗いた。


「おお、見える、見えるよ!これなら行ける!」

「お、ショーコ。それ暗視か?すげえな」

「理恵ちゃん、ちょっと覗いてみる?」

「おお、みるみる!」

 理恵はスコープを覗いた。


「すげー、割と見えんな。これ」

「でしょお、いいでしょお」

「でも、これさ」

 理恵は銃からスコープを外し、手で持って覗いた。


「どうせ撃たないんだし、この方が楽じゃね?」

「ちょ、ちょっと理恵ちゃん!何を言ってるんだよ。使うってー、ほら」

 ショーコは理恵の持っていたスコープをもう一度銃に付けて覗いた。


「こい、イノ野郎!てめえの鼻の穴にプラスチックの塊をぶち込んでやるぜ!」

「おまえそれ言いたいだけじゃん。あ、さつき先休んでいいよ」

「あ、そう。じゃあ」

 さつきはステージに登りショーコが使っていた布団を畳んで背もたれにした。


「え、さつきちゃん。布団に入らないの?」

「あんたが使った布団なんて入れるわけないでしょ、気持ち悪い。ていうか、布団全体がイノシシ鍋の匂いがするんだけど」

「ああー、だってショーコ最前線で一番食べてたからなー」

「いやー、どうしても服についちゃうんだよねー、イノシシって」

「・・・」

 さつきは布団から離れて、畳にそのまま横になった。


「ちょっと寝る。じゃあ頑張って」

「ぐ、最終的には布団に触れないって。こんな屈辱はかつてないよ」

「おし、ショーコはさつきのとこ頼むぞ」

「あいあいさー」




 え!?なに。これまで聞いたことがない動物の鳴き声がして、さつきは目を覚ました。


「ねえ、ちょっと、今のなに?」

 さつきは、そう言って起き上がり端末で時間を確認する。


 午前一時か、一時間半は寝てたんだ。


「今なんか聞こえたよな、イノシシか?」

「うん、わたしも聞こえた。あ、理恵ちゃん。そっちの建物さっき人いたよ」

「お、まじか」

 理恵とショーコは向かい合い、端末を操作していた。


「・・・あんたたち。それ明らかにゲームしてるじゃない!」

 さつきはステージを降りて電気を付け、二人に近づいた。


「ま、まぶしい。あ、いや。ほら、さつきちゃん。む、昔からさ、こういうとき兵士は遊びをだね。あれだよ、ポーカーとかを、ね。やってるというのが」

「さあて、監視するかなあ、っと」

 理恵は独り言のように呟き、端末をショーコに渡して、部屋の奥にある非常階段に向かった。


「ちょ、ちょっと理恵ちゃん。これ二アカ操作はできないって!」

「大丈夫だろ?もともとショーコがやってたのを、一瞬手伝っただけだし」

「な、なんていう裏切り行為、これは軍法会議ものだよ!」

「だから、あんたたちは!」

 さつきがショーコに詰め寄っていると、もう一度動物の鳴き声のような音が聞こえた。


「おいおい、また外から声したぞ」

 非常階段にいた理恵が戻って来た。


「ショーコ、連絡を」

「お、おし。バイトリーダーが連絡をとるよ!」

 ゲームを閉じて、ショーコは電話を掛けた。


「あ、はい。こちらバイトリーダーです。今、対象と思われる声がしました。え?そうですね。なんというか、うおおん、いや、きおおん、といった感じで。あ、いえ。目視はできてないです。はい、はい。わかりました。では目で対象を確認でき次第再度連絡を。はい、まかせてください。休養はばっちりとれています。はい、ではまた」


 うーん。大体聞こえてたと思うんだけどさ。電話を切ったショーコは振り返って二人を見た。


「んとね、まだこの段階では猟友会は呼ばないらしいよ。目で確認して位置がわかったら連絡欲しいって。うう、モノマネをさせられたよ。とんだ辱めを」

「はっは、いやー似てたよ、うん。いいんじゃないかな」

 理恵はショーコの肩を叩いた。


 そうなんだ、来ないんだ。そう言ったさつきは口に手を当てて黙った。


「あれ、さつきちゃん。どうしたんだい?」

「ちょっと気になってね。とりあえず監視しましょう。あ、理恵休憩ちょっと待ってもらっていい?」

「おお、いいぞー」


 さつきは電気を消した後、元いた場所に戻り、ショーコは奥側の窓、理恵は非常階段のドアを開け監視を始めた。

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