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寺依存型降霊術(7)


 八月五日 午後五時四十五分 アパート駐輪場前



 この人は高野さんとたまに一緒にいる人だ。ショーコとも知り合いなのか。101号室の人になりきっていたカメ子が自分を取り戻していると、

「なにしてんの?ショーコいないの?」

 理恵はカメ子の横に自転車を停め、アパートを見上げる。


「あ、いや。うん。そ、その自転車がえっと鍵が」

「大丈夫?なんか服が、ああ。お寺だよね、家。それでどうしたの?」

「ええ、と鍵が。あかなくて、困ってて・・・」

「ああ、そうなんだ。いそいでんの?」

「う、うん。あ、そう。急いでるかな。六時半までに行かないとだめで。用事が」

 わ、わたしは嘘は言ってない、一応は急いでるし。カメ子はだれでも自転車を見た。


「そうなんだ。ちょっと待って」

 ええっと、と言いながら端末をしばらく操作した後、電話を掛けた。


「どうもどうも。三草の妹の、はい。そうそう。それでさ、今暇?ちょっと自転車の鍵が壊れてさ。いや、わたしのじゃないんだけど。形状?ちょっと待って」

 理恵はかがんでだれでも自転車についている鍵を確認した。


「あー、やっぱりだめだわ。めちゃくちゃがっちりしたやつ。んでさ、ちょっと来てくれない?うん、大丈夫。ビイオから近いよ、車で二、三分ぐらい。んでさ、新しい鍵も持って来て。え、いいじゃん。料金は後で兄が払うからさ。うん、適当に貰っといて大丈夫だから。あ、切ったら地図送るから。すぐ来れる?うん、いいよ出張料金も乗せといて。そのかわり早く、十五分以内で。はいよー、うん。じゃあまた」

 電話を切った理恵は、しばらく端末を操作して、

「おっけー。来てくれるよ。地図も送っといたから」

 そう言って自分の自転車にまたがった。


「え、ちょっと。え!だれが来るの?」

「えーっと、ビイオに入ってる自転車屋の人が兄の知り合いでさ。何回か合ってて仲いいんだ。お金もかからないから大丈夫だよ」

「で、でも。そんなわたし」

「なんとなくわかるんだよね、ここにいるってことはさつきとショーコのなんかでしょ。あいつらめちゃくちゃやるからな。んで、これもなんかの、ってことで。ごめん、行くわ。なんか気になったから寄っただけなんだ。これからちょっと用事あって」

「ありがとう、こんな。ほんと何からなにまで」

「いいよー、じゃあねー」

 そう言って理恵は自転車に乗って敷地内から出て行った。



 理恵がいなくなった後、カメ子は自転車の横で茫然としていたが、数分後に自転車屋の軽トラックが来た。

 

 カメ子は二十前後の若い男に状況を説明し、鍵を外してもらった後、新しいダイヤル式の鍵を受け取った。そして自転車屋の車が見えなくなってから、我に返ったカメ子はアパートの階段を登り、ショーコの部屋のドアを開けた。



「さ、さつきちゃん。まさかこんなことが。さっき話していた確率を超えた可能性、ルートCが・・・」

「想定していない外部の干渉、ね。でも本当に起こるなんて」

 さつきとショーコはだれでも自転車の前に立っていた。

 

 その横にいたカメ子は、もってけ、返す。と言ってショーコに封筒を二つ渡した。


「ありがとう。ねえ、カメ子ちゃん。なにが、なにがあったんだい。鍵取れてるよ!」

「それはわたしも聞きたい。だってまだ三十分ぐらいしか経ってないよ」

「・・・」

 新しい自転車の鍵を持ったカメ子は無言で、鍵をみつめていた。


「降霊だと鍵開いて終わりだし、失敗降霊だとしたら速すぎる。ビイオ行って戻るだけでも、もうちょっと時間かかるよ。そしてほら!」

 ショーコは封筒の中の四千円をさつきの目の前に出した。


「お金も使ってない!これはマジックだよ、オカルトをマジックが超えた!」

「ねえ、亀山さん。一体どうして」

 さつきはカメ子を見た。 


「・・・たまたまね、通りがかったんだ」

 カメ子は口を開き、起こったことを説明した。



「なるほどねー。そういうことかー」

「結局、また理恵に助けられたのね」

「ごめんね、高野さん。わたし役に立てなくて・・・」

 三人はショーコの部屋に戻り、こたつテーブルの前に座っていた。


「いやー、気にしないでいいよカメ子ちゃん。最高の結果だよ、後で理恵ちゃんにはお礼を言っておこう」

「そうそう、よかったじゃない。わたしからも理恵に伝えとく」

 あ、そろそろ時間だから。さつきは鞄を持って立ち上がった。


「だれでも自転車借りてくね」

「あ、さつきちゃん。新しい鍵の番号の登録どうする?」

「そうね、ええっと。あ、今日の日付でいいんじゃない?」

「おお!後に語られるわけだね。三人は理恵ちゃんへの感謝を忘れないため、鍵をもらった日を登録番号にしましたとさ、と」

「はいはい、それでいいよ」

 さつきは玄関に向かい、それを見たカメ子は、じゃあ、わたしも。と言って立ち上がった。


「ねえカメ子ちゃん、元気だしなよ」

 ショーコはカメ子の肩をぽんと叩いた。


「カメ子ちゃんと寺の頑張り。その過程があったからの結果だよ。胸をは、ぎゃー」

「だまれ、クズが!」

 カメ子が蹴り飛ばしたコーラのペットボトルがショーコのすねに当たる。


「次は見てろ、得意分野ならわたしだってなあ!」

「ごめん時間ないから行く。亀山さん、今日はありがとう。また」

 さつきはドアを開け外に出た。


「ちょ、ちょっと待って!高野さん!」

 カメ子は袈裟の裾を持ち小走りで玄関に向かい、

「じゃあ、またねー」

 ショーコは2人に手を振った。





 寺依存型降霊術   終わり

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