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寺依存型降霊術(6)


 八月五日 午後五時二十五分 アパート駐輪場



 部屋の外に出たカメ子は、1人だれでも自転車の前に立ちすくんでいた。


 前に人形供養の後、ショーコに高野さんのことを聞いたとき、あいつ「さつきちゃんは普通じゃない。ほんとにすごいから!」と繰り返してたけどよ。

 合ってるわ、高野さんは確かにすごい。想像以上だよ、クソショーコ。カメ子は二つの封筒を握りしめた。

 

 わたしが頼まれたこと、わたしがやることは。カメ子はさっきの会話を思い出す。


 わたしが自分自身に101号室の人の霊を降ろす。そして、その後起こるであろう二パターンの展開に対応すること。


 ①降ろした101号室の人が番号がわかる場合。


 わたしはイタコと同様に《《ある程度耐性があるから》》、自分に降ろした101号室の人にわたし自身が番号を聞き、その場で鍵を外して、忘れないように番号を端末に保存し終わり。

 

 この時点でかなりきつい、そうとうに無理がある。他人を自分に降ろしつつ自分で質問をするなんて。これができたら、正直もう信仰とかそんなものは必要ないかもしれない。

 

 しかし問題は次だ。


 ②降ろした101号室の人が番号が分からない場合。


 おそらくわたしは番号を知ることはできない。しかしその状況は②によってのみ起こると高野さんは考えている。

 そして高野さんは、番号がわからない101号室の人が鍵を開けようと、タクシーを呼んで自転車を後ろに積み、ビイオに行くかもしれないと予想した。

 その場合、101号室の人は自転車屋に行って、鍵を外してもらい、また必要であれば新しいのを購入し、帰りは自転車に乗れるのでそのままショーコの家に帰ってくる。

 普通なら101号室の人が降りてるので関与できないが、《《わたしはある程度耐性があるので》》、タクシーの領収書をもらったり、自転車屋で、できれば同じ鍵を使えるように頼む、また鍵を買うことになってもできるだけ安い鍵を買う等、店員とのやりとりもできる。


 これはやばい、まじでわからない。そもそも降ろした後って、自分で制御できないのか?勝手にビイオ行くぐらい101号室に体をもっていかれるって。いや、そもそも101号室が降りてきてもビイオ行くのか?なんで行くんだよ、ビイオに。それに、仮に、仮に乗っ取られるとして、そして101号室がビイオに行くとして。そういう状態なのに、わたしに耐性があるからって、そんないい感じに領収書をとかもらったり、自転車屋の店員に説明できるか?

 

 そもそも、わたしが101号室を降ろせる前提で高野さんは考えてるけど、それ自体がけっこうやばい。


 カメ子は髪、爪が入っている封筒を袈裟の中に入れた。もう一つの封筒には、さつきとショーコが出し合った現金が入っていた。


 タクシーの料金と自転車屋での金はこれを使って、おつりと領収書はこの封筒の中にまとめておいてって言われたけど、四千円は明らかに足りないと思う。

 これはどうすれば、早く決断しないと。どうすればいいんだ、わたしは。さっきはなんとなく雰囲気もあってメルちゃんに降ろせるかもって。人形は慣れてるし。そんな気もした。だけど今は。


 カメ子はだれでも自転車を見た。


 ぜんぜん降りる気がしない。なにも起こる気がしない。でも高野さんは降りる前提でいろいろ言ってたし。

 

 カメ子は空を見上げた。


 降りたふり、か。それしかないか。高野さんに合わせるには。やろう、それで。なんとなく理由は後から雰囲気で付け足せば。要は鍵さえ開けばいいんだ。お金は足りなかったらわたしが自分で出せば、ああ、だめだ!レシートで後で合わせるから、おかしなことになる。あ、でも、足りないとわかった瞬間、耐性あるからわたしが出したでいいか、どうせ一緒だし。いや、でもなんかあるんだよ高野さんには。あの人なりのルールが。それはおかしい、とかって言いそう。


 でも今日でより興味を持った。あの容姿で勉強できて、身に着けてるものもわたしたちとはちょっと違うし。

 

 だけど、だけど。カメ子は今日あった一連の流れを思い出した。

 

 あの人はぶっこわれてる、確実に。

 

 ある意味ショーコ以上かもしれない。しかし、そういうところがいい。そういう視点は是非うちの寺に欲しい。あの人がうちの寺にいたら、わたしがあの人が気になるとかじゃなく、寺としてだ。あの人がいれば寺としてもっと先にいける。いや、違う。それは後から考えればいいことで、これを乗り切らないとあの人がうちの寺にくる可能性も。ええと、降りたふりを。でも、降りたふりってなにから始めれば・・・。



「ねえ、同じクラスの亀山さんだよね?」

 カメ子が101号室の人が自分に降りた感じを作っていると、理恵がショーコが住んでいるアパートの敷地に自転車で入ってきた。

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