寺依存型降霊術(5)
八月五日 午後五時二分 ショーコ宅
「おし、では発表します」
ショーコは立ち上がり、床に座っているさつき、カメ子を見渡した。
「我が国に伝わる伝統的な降霊。これを見落としていました、わたしは」
「なんかしんどいんだけど、なに?この発表の仕方」
さつきは頬杖をつきショーコを眺めた。
「だからさっさと言えっていってんだろ!」
カメ子は怒鳴りながらテーブルを叩く。
「だらだらだらだら、だん!ずばりイタコです!これがあったのだよ、我々日本人には!」
「は?それでどうすんのよ」
「さつきちゃん。簡単なことだったんだよ、この事件は。要はイタコに電話してさ、向こうで降ろしてもらって鍵の番号聞けばいいんだよ」
「イタコ、か」
カメ子は黙って何かを考えているようだった。
「でも電話で降ろすなんてできるの?」
「理論上は可能だよ。たぶん」
ショーコはさつきの対面に座った。
「あれって基本的には死者を降ろすんじゃないかったっけ。あんまり知らないんだけど」
「いやー、なんかのやつで見たことあるよ。生き別れた兄弟の気持ちを知るみたいな。生口っていったかな、そっちもやってるみたい。そしてその場合は、対象者がリラックスした状態がいいとかなんとか」
「101号室の人が?」
「そうだよ、さつきちゃん。だから101号室の人にさっき連絡しといたんだ。早急に寝てくれ、と」
「・・・いや。それは」
「だいじょうぶ、自転車のため!って強調しといたから」
「よけい不安になりそうだけど」
「あ、でも。高野さん、これ見て」
カメ子は端末の画面をさつきに見せた。
「実際あるみたい。電話降霊」
「え・・・、まじで・・・?」
う、嘘でしょ?ショーコはふらふらと2人の後ろに立つ。
「あ、ほんとだ。なんかいろいろあるみたいだね」
「ほら、これとか」
さつきとカメ子が端末を見ている時、そんなばかなことが。とショーコは慌てて検索した。
「どうなの、これ。三十分で八千円って」
「なんか相場がわからないよね。高野さんはやったことある?」
「さすがにこれは」
カメ子とさつきが話していると、ぎゃー!まじだ、めっちゃある!ショーコが端末を握りしめて叫んだ。
「いいんじゃないの?あんたが言い出したんだし」
さつきはいくつかのサイトを確認していた。
「いや、そのなんだろ。流れとしてはだね、『そんなんあるわけないじゃない』『えへへ』ってなって、『じゃあ、こういうのはどう?』って最後さつきちゃんがぶちかましてくれる、っていうのやつね。そのためのクッショントークというか。まさか、ほんとにあるなんて・・・」
ショーコはうなだれてぶつぶつと呟いていた。
「おい、ショーコさっさと電話しろ。適当なの探してやるからよお。支払いは何でやるんだ?」
「ちょっと待って、カメ子ちゃん!八千円はやばいよ、自転車屋の人呼べちゃうよ!」
「しょうがないじゃない、あんたが言い出したんだし。あ、会話興味あるからオープンにしといてね」
「高野さんも探してるの?」
「うん、いくつかみてる」
さつきは検索ワードを変えながら、サイトをまとめていた。
「あの、今回のコンセプトとしては、勇気と知恵で乗り切ろう!っていう感じなので、ちょっと金銭的なのは企画の趣旨に合わないというか」
そう言いながら、ショーコはテーブルに両手をつき、すいません、ご勘弁を!
やるなら最悪割り勘で!と頭を下げた。
「もう、しょうがないわね。無理ならいいよ。とりあえずイタコまとめといたから。なんかのときに使うかもしれないし」
「高野さん、やさしすぎるよ!延長、延長で破滅するまで払わせないと!」
「ありがてえ、ありがてえ」
ショーコは頭を下げて手をすり合わせた。
「あ、でも高野さん。そろそろだよね、今五時十五分ぐらいだから」
「うん、でも六時半ぐらいまでならなんとかなる。まあ、わたしも使いたいんだよね。だれでも自転車」
「なんかいい案はあるかのう」
三人はメルちゃんを置いたテーブルを囲み話していた。
「イタコで思ったんだけど」
さつきは座り直してスカートを整えた。
「ほうほう、なんだいなんだい」
「うまく行けば無料、だめなら通常の実費。その場合はわたしも半額出すから、ショーコはどう?」
「おお、ありがてえ。それなら!」
「でも亀山さんにほとんど任せることになるんだけど」
「大丈夫、高野さんが言うならわたしやるから!」
「あ、さつきちゃん。101号室の人どうする?このまま寝かせとく?」
「とりあえずそのままでいいかな」
じゃあ、まずは。さつきはテーブルに手を置いて話出した。