寺依存型降霊術(4)
八月五日 午後四時四十分 ショーコ宅
さつきはノートを四枚破り、それらをセロテープで合わせて大きな長方形を作り、そしてそれに五十音、数字、さらに上部に『はい』『いいえ』と書きこみ、最後にもう一枚破り、大きな鳥居のマークを描いて長方形の上に置いた。
「さつきちゃん、これさ。ぜんぜんいいんだけどさ」
凸の形になった全体像を見てショーコは言った。
「鳥居大きすぎない・・・?」
「こんなもんよ。小さすぎて失敗するよりこっちのほうがいい」
「おい!高野さんがいいって言ってんだ、余計な口をはさむんじゃねえ!」
「まあそうだよね、大は小を兼ねる。じゃあ十円玉を置いて、あとメルちゃんを」
ショーコは紙の上に十円玉を置き、メルちゃんの手を添えた。
「じゃあ、最初はメルちゃん一人で行くね」
メルちゃんを持ったままショーコは振り返って、二人を見た。
「ちゃんとやれよ、手を抜くんじゃねえぞ!」
「少しでも異変を感じたら、すぐやめなさい」
「では・・・」
ショーコは息を吸い込んだ。
「うーん、思ったような反応はなかったねえ」
こっくりさんを帰した後、ショーコはメルちゃんを置いた。
「まあこんなもんだろ、お前がクズ野郎だからこうなったっていうのもある」
「あのさあ、カメ子ちゃん。二人でやってみない?」
「はあ!?なんでお前なんかとやらないといけないんだよ!」
「降ろした人と降ろされた人形。それが同時にっていうのもなかなかめずらしいパターンだと思ってさあ」
「たしかに、あんまり聞いたことないかも」
さつきは十円玉を初期位置に移動させた。
「あ、でも。高野さんが言うなら。別に」
「おお!カメ子ちゃん!じゃあ、気が変わらないうちに」
ショーコはメルちゃんの手を十円玉に添えた。
「いいけど、お前は触るなよ。硬貨が腐る」
メルちゃんの手の横で、カメ子は十円玉に触れた。
「じゃあ、カメ子ちゃん合わせて言うよ」
「指図すんな!こっちのタイミングにお前が合わせろ!」
「・・・」
カメ子は十円玉を見つめて、口を開いた。
「うーん、やっぱりだめかあ」
「ショーコ、あんた最初数字が並んでる列に寄せたでしょ!」
さつきはこっくりさんの紙を畳みながら言った。
「いやー、こっくりさんにもわかってもらおうかなって。口だけじゃなく体で示したんだよ」
「やっぱりおまえが動かしてたんだな、勝手なことしやがって!」
「やばい、スタート地点に逆戻りだよお。さつきちゃんも、あと一時間で帰っちゃうし」
「でもとりあえず、メルちゃんから101号室の人を抜いといたら?何かあぶないこともあるかもしれないし」
さつきはメルちゃんをテーブルに置いた。
「おお、そうだね。じゃあ」
背中にある封筒をショーコが抜こうとしたとき、
「やめろ、ボケが!先に101号室の人を抜いてからだ!」
カメ子がテーブルにあったボールペンでショーコの手を刺した。
「ぎゃああ!そ、そんな順番があったなんて」
「勝手なことして。今回は亀山さんにまかせましょう」
「ありがとう、高野さん」
カメ子はテーブルの上のメルちゃんをじっと見つめた後、目を閉じた。
数十秒後
「おし、いいぞ」
目を開けてカメ子は言った。
「はいよおっと」
ショーコはメルちゃんの背中から髪、爪が入った封筒を抜いた。
「ちゃんと抜けたかな?」
ショーコはメルちゃんを回転させながら全身を見た。
「どう?変わった」
「うーん、なんとも。さつきちゃんも見る?」
「うん、ちょっと貸して」
メルちゃんを受けとったさつきは、ショーコと同様にメルちゃんを前後左右に回しながら確認する。
「ちょっとわたしにはわからないかも。でもぱっと見はおかしなところはないと思うけど」
「ごめんね、高野さん。わたしが」
床に正座しているカメ子は、こぶしをを握りしめて震えていた。
「いや、そんな!亀山さんは頑張ってくれたよ!」
「うんうん、カメ子ちゃんのおかげで一周回ってスタート地点に戻ってこれたし!」
「おい、ゴミのくせにお前。またふざけやがって・・・」
カメ子はショーコをにらんだ。
「ま、まあまあ。亀山さん、ショーコの言うことだから気にしないで」
「でもさっきカメ子ちゃんが抜いてるとき、思いついたことあるんだよねー」
ショーコは端末を操作しながら言った。
「なにそれ。一時間で終わるの?」
さつきは自分の腕時計を見て時間を確認する。
「ばっちりさ、なんで今まで思いつかなかったんだろう」
「おい、クソ野郎。引っ張っといてくだらないものだったら、まじでこの部屋めちゃくちゃにするぞ」
「ふ、心配ご無用さ」
ショーコは口元を緩めた。