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霊を撮るには、前からそして後ろから(3)

 

 五月十八日、午後四時四十六分 ショーコ宅



 ショーコが一人で住んでいるワンルームのアパートで、さつきは座椅子に座って「自主製作映画の作り方」というタイトルの本を読み、ショーコは昨日撮った動画をパソコンのモニターで繰り返し観ていた。


「いやあ、主演女優を拘束しながら撮影できないなんて。すまないねえ、もうちょっと確認したくて」

「気にしなくていいよ。やらないし」

 座椅子に座っていたさつきは、時折モニターに目を移しながらページをめくる。


「またまたあ。どんどんイメージは固まって来てるよ。そういえばさつきちゃん、音声どうする?」

「音声?」

「ほら、セリフとかさ。今回のやつ喋ってて使えないから、後で撮り直さないといけないんだよ」

「ああ、それならあんたが一人でやればいじゃない」

「か、監督が自ら、ふ、二人分?それはアグレッシブだけど。あ、あともう一つ問題が、いやもう二つ」

「問題?何を今さら。あるとすれば全部だから」

「いやー、手厳しいのー。それで霊役なんだけど、女でいこうと思ってたんだよ。その辺は先人達のおこぼれをね。でもさあ、やっぱ女のわたし達がやるんだから、男の人がいたほうが盛り上がるんじゃないかなあとね。こう撮影の合間におかし食べたりしてるときとかさ。でも同級生の高校生女子二人以外出ない予定だから、余ってるの霊役しかないんだよ」

「・・・色々言いたいことあるけど。それで?」

「誰か知り合いの男の人に女装してもらって霊役にって考えてるんだよね」

「それだったら理恵に頼めばいいじゃない。髪短くなってたし」

「ええと、男の人を呼べないから、男の人っぽい髪型の女の人に女装をしてもら、いや、一回男装してわたし達が盛り上がって女装?ちょ、ちょっと。ええと、性の倒錯が・・・」

「じゃあもう普通に理恵でいいじゃない。別の人なんてわざわざ入れなくても」

「あ、なんかそれでいいかも。理恵ちゃん二役ね」


 そうか、その手も。ショーコは顔を上げて目を閉じ頷いた。


「んでさ。もう一つの問題がさ、心霊シーンなんだよ。どうしてもこう、例えばね、白い影が画面の端からすっと出るとかさ」

「よくわからないんだけど。何か加工するソフトとか使えばいいんじゃないの?」

「そうなんだけど、いろいろと敷居が高くてねえ。それと使いこなす能力が」


 ふーん。さつきは本を置いて座椅子にもたれかかる。


「それでさ、さつきちゃん。わたし思うんだけど、お金、労力その他を考えたらさ。加工するよりも実際に霊を撮る方が近道なんじゃないかって」

「いや、たしかにそうかもしれないけど。仮に霊を撮ったとして、どんな霊かもわからないのに、あんたの映画に使えるの?」

「・・・確かに。霊が撮れたとしても、いい感じに映像に映るタイミングまで、こっちの脚本に合わすのはさすがに難しいよねえ。はい、今振り返るから横に立って。とかさあ」

「今回は取りあえず霊だけでいいんじゃないの?適当にその辺撮って」

「で、でもさつきちゃん。その」

「え、なによ」

「さつきちゃん、それだと自主制作映画っていうか」

「うん」

「自主制作のホラー映画っていうか、単なる心霊動画では・・・?」


 ねえ、ショーコ。さつきは体勢を変えてショーコを正面から見た。


「誰だっていきなり二時間のホラー映画を撮るわけじゃない。最初は短いものから始めてるはずよ。そしてそのノウハウを次に生かす。ここで霊を撮るやり方をわかっておくというのは、それだけでも意味はあると思うけど」


 その言葉にショーコは一瞬動きが止まり、そうだ、そうだ!本に書いてあったことだけど!そう言って意味もなく周りを見渡した。


「そうだね!ここで慣れておけば、次ちゃんとしたの作るとき霊をコントロールして映せるかもしれない!」


 よし、よし!ショーコはカメラを持ったまま右手を高々と上げた。


「決まった!とりあえず自主制作の心霊動画を撮ろう!」

「よかったね。やることが決まって」 

 さつきは再び「自主製作映画の作り方」を手に取る。


「ちょっと、いいところなのに!本読まないでよー。おしおし、やったるでー。いったるでー。まずは衣装から用意しないとね」

「はあ?何でそうなんのよ」

「具体的に言うと、礼服が必要なんだよ。わたし聞いたことがあって」


 録画を始めたショーコはカメラのモニター越しにさつきを見た。


「昔、ああいった黒い服は《霊服》と表記してあったらしいんだよ。それがある時期から、読みはそのままで《礼服》に変わったんだって」

「そんなの聞いたことないけど・・・」

「ふっふ、さつきちゃん。意味があるんだよ、言葉にはさ。そして今必要なのは礼服、いや霊服を買って心霊との距離を縮めることだよ」

「それならそういう場所に行けばいいんじゃないの?あるでしょ、この辺でも」

「さつきちゃん、それは違うよ!」


 ショーコはさつきの肩を掴み会話をさえぎった。


「ここは大事なとこなんだよ!だから肩を掴んで言うよ!心霊スポットに行って撮っても意味がないんだよ、だって映画を撮るときその場所が心霊スポットとは限らないから。普段使いの場所で霊を撮るということが大事なんだよ!」

「大体服を買ったからって何が。ああ、もういい。わかった、どうせ行くんでしょ」

「よしよし、さつきちゃん。物分かりがいいねえ。ここではそれが長生きの秘訣だよ。そして、そうと決まれば準備を!」

 ええと、あれと、これが。ショーコはリュックの中身を確認し始めた


「あんたに物分かりがいいって言われたくない。どうせ準備ってまた下らないもの入れるだけなんだし。さっさとやってよ」

 さつきは鞄に「自主制作映画の作り方」を入れ立ち上がった。

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