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寺依存型降霊術(1)

 

 八月五日 午後二時五十分 ショーコ宅



「ねえ、さつきちゃん。だれでも自転車使ってる?」

 ショーコはこたつテーブルに頭を乗せて、タブレット操作しながら言った。


「ああ、あんたのアパートにあるやつでしょ。たまに使ってる」 

 さつきは座椅子に腰掛け『アーリーアメリカンの歴史』というタイトルの本を読んでいた。


 夏休みに入りさつきは概ね一日置きに夏期講習に通っていたが、いつの頃からか塾に行く前、もしくは帰りにショーコの家に寄ることが習慣となっていた。


「あれさあ、このアパートの住人で共有してるんだけどね。鍵が壊れて新しいの買ってくれたひとがさ、番号忘れちゃったらしいんだよ。ダイヤル式の鍵の」

「へー、そうなんだ」

「101号室に住んでる大学生の人なんだけど。どうしても思い出せないらしく、結果数日稼働できてないんだ、だれでも自転車。だからわたし、こっくりさんに聞いてみようかと思うんだけど」

「はあ!?あんたばかじゃないの!」

 読んでいた参考書を置いてさつきはショーコを見た。


「いや、うん。ビイオに入ってる自転車屋に持っていけばいいんだけどさ。しんどいし、暑いし。こっくりさんのほうが早いかなーって」

「そういう問題じゃないから!こっくりさんだけはやめなさい、あれは遊びで手を出していいもんじゃない!」

「な、なんかすごい反応だね。やってないよ、まだ。でもね」


 ほら、こういうのもあってだね。ショーコはさつきの横に座り、タブレットの画面を見せた。


 画面には五十音と数字、そして上部に鳥居のマーク。その下に『はい』『いいえ』と表示されていおり、さつきは、なにこれ・・・。こんなものが出回ってるの?と

 動揺しつつ画面を凝視する。


「でねえ、こういうふうに」

 ショーコの指が画面に触れると十円玉が浮かび離すと消え、ほらほらこれが現代のこっくりさんだよ、とショーコは同じ動作を何度か繰り返した。


「紙より指がなめらかにうごくからさ。よりダイレクトにこっくりさんと繋がれるんだよ」


 ちょっと貸して!さつきは画面に手が触れないよう慎重かつ強引にタブレットを奪い取る。


「勝手に十円玉が動くのもあるんだけど、わたしは自分でやりたい派だから。こっちのシンプルなのがいいかなーって」

「それ以前の問題ね。これは使えない」

 タブレットをこたつテーブルに置きさつきは腕を組んだ。


「やっぱりさつきちゃんは紙派かい?でも時代の流れだよ、こういうのも受け入れていかないと」

「そういう問題じゃない。見て、この鳥居。全体に対して小さすぎるのよ。こんなんじゃこっくりさん帰れないでしょ」

「え?そこに基準ってあるの・・・?」

「あるから、ちゃんと。こっくりさんが鳥居に引っ掛かって帰れなかったらどうするの!?ずっとあんたの中にいることになるのよ!」

「ええ、う、うそでしょ。そんなことが」

「忘れてるみたいだけど、降霊術だから。こっくりさんは」

「あ、じゃあ、さつきちゃん。その辺を踏まえ、いい感じの鳥居を」

 ほら、これにだね。ショーコはテーブルにあったノートを一枚破いてさつきに渡した。


「だから」

 さつきはショーコが指しだした紙を手に取り、丸めてゴミ箱に捨てた。


「やるわけないでしょ、わたしが」

「ひいい、なんていう固い意志。紙一枚入れないよお。あ、じゃあさ、降霊違いでだね、メルちゃんに鍵を買いたての101号室の人をってのはどう?」

「ああ、鍵の番号を覚えている状態の101号室の人を降ろすってことね」

 さつきはテレビの横に座っているメルちゃんを見た。


「そうそう。ちょっと手間かかりそうだけど。自転車持って行くよりは」

「うーん、でもその場合生霊でしょ?どうなんだろう、やり方としては」

「ふ、われわれには人形のスペシャリストのフレンドがいるじゃないか。さつきちゃん」

「人形って、あ。亀山さんね。でも供養でしょ、あそこは」

「大丈夫だよ。ほら、人形について学ぶの技術を六角形の図にしたらさ、供養の横は降霊だよ。系統的には似ているはず。ちょっと亀寺に電話してみるよ、出張できないか」

 ええと、亀寺、っと。ショーコは端末を操作して甲々寺の電話番号を検索した。


「どうせ出張なら自転車の店の人呼べばいいじゃない」

「だってたぶん高いもん。それに鍵も新しいの買うことになるし」

「あんた結局そこなんでしょ、だからって」

「お、あった。じゃあいくよー」

 ショーコは甲々寺に電話を掛けた。

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