ポルターガイストローネ(7)
七月二十三日 午後九時十五分 さつき(アメリカ人の空間)
三角の屋根、天窓、広い敷地、車寄せ、ガレージ、二台車を停められるスペース、ポスト、ある程度整っている芝、自転車、ドア、大きめのドア、土足、声、母親の声、男の子の服、ソファーの後ろ、右に階段、上、踊り場、壁に掛けられた写真、四人、父親、母親、姉、弟、左に部屋、書斎、父親、ロックグラス、大きな机、開いている引き出し、前のダイニング、テレビ、木の枠、テレビ、ダイニングテーブル、花瓶のような大きな透明のもの、白い、牛乳、オレンジジュース、二つ、マッシュポテト、皿、ナイフ、皿、スープ、パン、肉、皿、野菜、ナイフ、ろうそく、「早く座りなさい(英語)」「まだ、お姉ちゃんが来たら食べる(英語)」ソファー後ろ、隠れているように、木、床、絨毯、薄いオレンジ、模様、花、「いいから呼んできて(英語)」肉、切られた肉、皿、鍋敷き、皿、ナイフ、大きな鍋、壁に掛かった道具いくつか(使途不明)、「もう少ししたら行く(英語)」車、窓、犬、車、ガレージ、下りている男、窓、「あ、帰って来た(英語)」ガレージの中、外、曇り、犬、「何度も言ってる。お姉さんを呼んできて(英語)」チェックの布、白、赤、母親、弟、母親、「早く!(英語)」、弟、「先に父親のほうにいく、だって何か手に持っている。おみやげに違いない(英語)」階段、踊り場、左ドア、右ドア、奥ドア、右ドア、姉、ベッド、椅子、机、ベッド、シーツ、ベッドカバー、柄、柄、白、シーツ、姉、目を閉じている。姉、横になっている、ベッド、姉、母親、階段、踊り場、右ドア、父親、ポスト、玄関、土足、弟、キッチン、振り返る。弟、キッチン、振り返る、皿、皿、フォーク、皿、弟、キッチン、弟、キッチン、皿、コップ、皿、弟、弟の目、宙に浮くコップ、音、食器が合わさる。音、音、音。
さつきは閉じていた目を開き、テーブルに載っている食器を見た。
コップが浮かぶ、コップが浮かぶ、コップが浮かぶ。フォークが浮かぶ、スプーンが浮かぶ、スプーンが浮かぶ。皿が揺れる、皿が揺れる、揺れる、皿が揺れる。あるはずがない、今ここにはない、テーブルクロスが浮く、テーブルクロスが浮く、コップが乗ったまま浮く、浮く。
さつきは床に座り込み再び目を閉じた。
棚が揺れる、棚が揺れる、コップが落ちる、コップが落ちる。重ねている皿が音を出す、音を出す、音を出す。皿が浮く、皿が浮く、皿が浮く、浮く、浮く、浮く。目線まで浮く、浮け、浮け、浮け。コップが浮く、浮け、浮け、浮け、浮け、浮け。
さつきは足が痛くなったのでマットレスに移動し、そのままパタンと横になった。
「さつきちゃん、さつきちゃん!」
ショーコはさつきの二の腕を掴んで体を揺らした。
「ん、あ。戻ったんだ、ショーコ。そっか、わたし」
額に腕を乗せて眠っていたさつきは目を覚ました。
「ねえ、大丈夫?やばいよ、意識消失してたよ!揺れた皿が直撃でもしたのかい!?」
「ごめん、ちょっと横になってたら寝ちゃった」
「えええ、ね、寝てた。ばかな」
「集中してたらいつのまにか。でも、今回はわたし失敗したかも」
さつきは起き上がりマットレスに腰掛けた。
「失敗って。なんで?」
「わたしさ」
さつきはテーブルにある食器を見た。
「ポルターガイストを起こすっていうか、単純に手を触れないでコップを動かそうとしてたかもしれない」
「え、えええ!さつきちゃん。それだとサイキックの実験に・・・」
「正直に言うと、体勢変えたり、集中するために目を閉じたりしてて。正直、途中からアメリカ人の感じ?忘れちゃったってたし。だから今日のは失敗」
「じゃあ、バンドは。ホラーバンドはやることになったんだね」
「それは違うわ。まだ余地はあるし。もともと十七歳が三人っていうからやったけど、理恵いないから」
「な、なんてこったい、理屈もなにもないよ!ひどいよおお、わたしのホラーバンドが!」
「もう十時半じゃない。わたし帰るから。せっかくだし食器は朝まではそのまま置いといて」
「ねえ、さつきちゃん。わたし一人だしさ、じゃまっていうか。それに何かあったら困るから片付けたいんだけど・・・」
テーブル、棚に置いてある食器を見てショーコは言った。
「一応カメラもお願い。明日の朝までは録画しといて」
じゃあ、また。鞄に荷物を詰めさつきは立ち上がった。
「ね、ねえ。考えなおして。あ、行かないで!ちょっと、ちょっと待ってよ。さつきちゃああん!」
床に座ったままショーコはさつきに向かって手を伸ばした。
ポルターガイストローネ 終わり