ポルターガイストローネ(5)
七月二十三日 午後四時五分 ショーコ宅
「はあはあ、暑い・・・。まだエアコン直らないの?」
ふらつきながらドアを開け、さつきは玄関に食器を置いた。
「おお、おかえりー。早かったねえ」
首にタオルを巻いてラーメンを食べていたショーコは、箸を持ったまま手を振っる。
「この室温でよくラーメンなんて食べられるよね。今、ちょっと準備してからわたし図書館行ってくる」
「いやあ、わたしラーメンはフルシーズンおっけーだからさ。しかし、やる気がはんぱないね。さては高校野球に影響を」
「それとこれとは別だから。単純にここが暑すぎるだけ」
「あ、じゃあ。戻ってくるときにさ。夕食をついでに買ってきてくれまいか?」
「夕食?いいけど。何にするの」
さつきはショーコの横に座って、テーブルに食器を並べ始めた。
「気分的にお好み焼きが食べたいなーと」
「銀ビルの惣菜でいいの?」
「あー、コンビニにあるやつでもなんでもいいよー」
「はいはい、わかった。そういえばあれってさ」
さつきは部屋の奥に立てかけてある三脚を見た。
「あれカメラ立てるやつでしょ」
「おお、立つよ、あれはがんがんに立つよ」
「いや普通でいいし。あれ使ってこのテーブル録画しといて。揺れるかもしれないから」
「おお、時間を目いっぱい使うつもりだね、さすがさつきちゃん。抜け目ないのう」
「とりあえずこういう感じで。あんたが食べ終わったら適当にずらして。四人分の設定で。今は皿置いただけだけど、グラスと」
あとこの辺も一緒に。さつきはテーブルの上に四組あるナイフとフォークを置いた。
「あるんだね設定が。いるんだね、四人家族がここに!」
「まあ、そんな感じね。じゃあ、行ってくる」
あ、そうだ。さつきは玄関で振り返った。
「下にある『誰でも自転車』借りていくから」
「おお、いいよいいよ。あれは誰でも使えるやつだから。ではまた後でねー」
外に出ていくさつきを見ながらショーコは手を振った。
同日 午後七時半 ショーコ宅
「入るよー」
さつきは玄関に入りながらショーコに声を掛けた。
「おかえりー、さつきちゃーん」
「あんたとやるより勉強全然進んだ、っていうか何?あんたまたそれ着てんの」
さつきは礼服を着てマットレスに横たわっているショーコを見て言った。
「いやー、エアコン生き返ってさ。それで夏を取り戻すためガンガンに冷やしてたら寒くなってねえ。それにさつきちゃんも本気だからなんか盛り上がっちゃってさー」
「別にいいけど。集めるだけじゃ不利じゃないの?」
「可能性が上がるのは承知の上さ、公正とはまた違う。この感じ」
「はいはい、お好み焼き買ってきたから」
「おお!やったあ!」
「とりあえずお皿二枚用意して」
「いいねえ、食事時も大事なガイストタイムだからね。このー、抜け目なく狙ってー。やっちゃおう、やっちゃおう」
さつきとショーコはお好み焼きを温めて皿に置き、こたつテーブルでナイフとフォークを使って食べ始めた。
「ねえ、さつきちゃん」
「なによ?」
さつきはシャンパングラスで買ってきたペリエを飲んでいた。
「お好み焼きをさ、こう。皿でさ。ナイフとフォークで食べてもさ」
「うん」
「おいしくないんだね。わたし今、学んだよ・・・」
「別に変わらないでしょ。結局はお好み焼きだし」
「それに美食を生業にしている倶楽部に怒られるよ。こういう食べ方」
「なによ、それ。あ、そう言えばあれ」
さつきは三脚の上にあるカメラを指差した。
「何にも言わないってことは、わたしが図書館に行ってる間、あんたは現象を確認できなかったんでしょ?」
「うん、揺れも飛びもなしさ」
「ちょっと今観たい。あ、それとパソコンにデータ落としといてね」
「おっけー、家で家の映像を観ながらの食事も新鮮でいいね」
ショーコはパソコンを操作してテレビのモニターに映像を映した。
「完了だよ!」
「うん。じゃあ流しておきましょう」
さつきとショーコは、現在使用しているテーブルを映している動画を観ながら、お好み焼きを食べ始めた。
「いやー、食べた。銀ビルの惣菜は最高だねえ。これをホットプレートで食べられたらねえ」
「食器、シンクに置いとけばいい?」
「おお、ありがとー。でもほらやっぱり動いてないでしょー」
「まあね。でも、もうちょっと流しといて」
さつきは、ショーコと自分の使った食器をシンクに持って行き、食器を水で軽く流した。
「わたしちょっと残ってたのやっちゃうから。あんたこれ洗って」
「おうやあ、洗う洗う。明日洗う」
近くにあった漫画を手に取りショーコはマットレスに横になった。
「今からこれ使うんだから!スポンジとかの場所わかんないからあんたやってよ!」
さつきはテーブルに戻りティッシュでテーブルを拭いてテキストを並べた。
「まじで?食事の後、即勉強って。さつきちゃん、そんな本当にあった冗談みたいなことを」
「三十分くらいだから、ええと」
さつきは時計を見た。
「八時四十五分には終わる。それまで食器を洗って棚に置いておきなさい」
「あ、棚で揺れるように使うんだね、食器」
「まあ、ね」
テキストを開きながらさつきは言った。