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メルちゃんの友達(6)

 

 七月二日 午後五時五十分 甲々寺本堂内 



 カメ子の父がさつきに会釈をして前に座り、さつきが、急にこんなことになって。と恐縮していると、本堂入り口からタオルで包まれたメルちゃんを持ったショーコとカメ子が戻ってきた。


「ねえ、カメ子ちゃん。まだ四十六回目だったけどいいの?」

「いいから!ここに座れ!」


 カメ子に促される形でショーコはさつきの横、カメ子はカメ子の父の横に座りった。ショーコは最初メルちゃんを抱えていたが、あ!そうだ。と思い出したように後ろにあった座布団をさつきとの間に置き、メルちゃんを座らせた。



「準備が整ったので、あの始めていいんでしょうか?」

 ショーコは手を挙げてカメ子の父に言った。


「どうぞ。ではここに来た理由を教えてください」


 それではまず昨日の話からなんですけど。わたしが・・・。とショーコがこれまでのことをカメ子の父に話し始めた。



「経緯はわかりました。要はショーコさん、あなたは怖いんですね」

 カメ子父は語りかけるようにショーコに言った。


「そうなんです、怖いんです、とにかく怖いんです!」

「高野さんは、どうですか?」

「わたしですか、わたしは。怖いのは同じですけど。どちらかというとメルちゃん、あ、この人形が何かした時の、わたしやショーコに生まれる感情というか。その事象そのものより、その影響のほうが怖いですね」

「なるほど、うん。わかりました。やはり人形は供養するべきですね、香代子準備を」

「わかった」

 カメ子は真剣な顔つきになり小走りで住宅側に入る。


「あの、すいません。いきなり供養というのも」

 さつきはカメ子を目で追いながら言った。

「今日はそれが目的で来たのでは?」

「それは、あの、そう、なんですけど」


 さつきが口ごもりながら答えると、あ、さつきちゃん。大事なことを聞いておかないと。え?なによ。ほら、あれだよ。ショーコはさつきを肘でつついた後、目の前のカメ子父を見た。


「すいません。住職さんは、霊見えるんですか?」

「ば、ばか!何で今そんなことを」

「さつきちゃん。重要なことだよ、だってメルちゃんを預けるんだし」

「いや、そうは言っても。それとこれとは」

「見えませんし感じたこともありません。あなた達は?」

 カメ子の父は笑顔のままさつきとショーコを交互に見ながら尋ねた。


「いえ、わたしたちもそんな全然」

 顔の前で手を振りながらさつきは答える。


「そういうもんなんだねえ、これがわかっただけでも今日来たかいがあったよ」

 ショーコが頷いていると、

「用意できました」

 書道道具を持って戻って来たカメ子が、カメ子父の横に座った。


「すいません。どちらでも構いませんので、この半紙に人形の名前を」


 カメ子は神妙な手つきでさつきとショーコの前に、筆、墨、硯、半紙を準備し始めた。


「名前って、そのままでいいんですか」

 さつきはそう言いながら筆を取る。

「はい。いいですよ」

 さつきは半紙の中心から少し上に大きく、片仮名で『メ』と書いた。


「え、さつきちゃん。それじゃあ入らないよ」

「なんで?あと一文字だし」

「メルちゃん、って書くんじゃないの?」

「いや、ちゃんは愛称っていうか違うでしょ」

「でも、元々メルちゃんの友達って」


 さつきとショーコが言い合ってると、普段から呼んでいる名前でいいですよ。とカメ子の父が間に入る形で言い、横に座っているカメ子は小さく頷いていた。


「ほら、普段からの呼び名だったら、やっぱりメルちゃんだよ」

「大丈夫だから。別にこうすれば」

 さつきは『メル』と大きく書いた左の小さな空白に『ちゃん』と付け足した。


「読めればいいのよ。こういうものは」

「それでは香代子、もう一枚を」

 カメ子が半紙を入れ替えた。


「これに、二人の名前を書いて下さい」

「はい、ショーコ。次あんた」

 さつきはショーコに筆を渡した。


「あいさー、任せなよ」

 ショーコは、半紙の中央に、さつきとショーコ、と書いた。

「はい、出来た!」

「ちょっと待って。わたしの分も書いちゃってるじゃない!」

 さつきは半紙を持ってカメ子の父をちらちらと見る。


「ああ、そうですね。うん、でもいいですよ。二人で所有していたということですから」


 ありがとうございます。さつきは礼を言った後、ショーコに向き直り、

「あとこの順番!元はと言えばあんたが言い出したことなんだから、ショーコとさつきでしょ!」

「ええ、なんか字面がこっちのほうが良くない?」

「だからそういう問題じゃ」


 あのすいません、さつきさんがあなたで、ショーコさんがこちらかな。カメ子父はさつき、ショーコの順に顔を確認して言った。


「はい、わたしです!」

「あなたのここに書いた名前は本名ですか?」

「そうです。漢字はちょっと筆だと潰れちゃって書ける気がしなかったんですよ。あと最近みんなが呼んでる語感が片仮名っぽいなーって思って」

「おい、ショーコ。ふざけてんじゃねえぞ、これは正式な手続きなんだよ!」

「まあまあ、香代子。本名なら問題ありません。では供養は裏で行うので、ついてく来てください」


 カメ子父とカメ子は立ち上がり本堂の裏に向かい、さつきは半紙を、ショーコはメルちゃんを持って二人に続いた。

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