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メルちゃんの友達(3)


 六月三十日 午後五時四十五分 神社内



「いやあ、夕方なのに暑いねえ。また今度イカダ行っちゃう?あそこ気持ちよかったし」

「行かない。どうせ落ちるだけだし、あんたが」

 さつきとショーコは神社の境内に座っていた。


「ごめん、落ちるのはちょっと。あれは落ちた人しかわからない。あの感じは、うう」

「まあ落ちたっていうか飛び込んでたけど」

「あ。ねえ、さつきちゃん。そろそろ漫画倒れたかなあ」

 ちらちらとアパートの方角を見ながらショーコは言った。


「ちょっとあんたメルちゃんをどうしたいのよ!それにまだ早すぎる」

「わたしカップ麺は一分ちょっとで開けるんだよー。もう待てないよー」

「いいから黙って待ってなさい、せめてあと十分ぐらい」

「あと十分、ってその基準はどの辺から・・・」

「一回コンビニでも行って来たら?」

「いやー、あそこまで行って戻ってきたら麺が伸びてるよ。あ、そういえばさつきちゃん。この夏の予定は?」

「予定?特にないけど。夏期講習行くぐらい」

「ねえ、なんか夏っぽいことしようよ。池じゃない水があるところとか、ほらプール的な」

「プール?意味なく服脱いで、また着て。そんなことして楽しいの?」

「ま、まあそういう捉え方も、あるね。じゃあさあ、墓参りなんてどう?」

「親の転勤でたまたまこっち来てるだけだから。家のお墓は全部あっちだし」

「いいんだよ、他の人のところでも。少し汚れているのを綺麗にしてさ。わたしたちの心もきれいに」

「はあ?たまに帰ってくる家族が掃除するかもしれないでしょ。それを中に入ってる人も楽しみにしてるかもしれないし。わたしたちがやるなんて余計なお世話だから」

「あー、そうかもねえ。それとっちゃったら双方に申し訳、あ」

 ショーコは端末を見た。


「時間だよ。さつきちゃん!戻ろう」

「あんた、この会話はあくまで繋ぎだということね・・・」

「さっきから七分たったから、家に戻るころには十分たってる」

 ショーコはアパートに向かって歩き出し、はいはい、わかったから。とさつきは続いた。


 ショーコは歩きながら、大げさに身振り手振りを交えて喋り、さつきはその横を腕を組んで歩く。


 ねえ、さつきちゃん。倒れてるかな!ねえ、倒れてたらどうする?まだ早い気がするけど。あんたもうちょっと待てないの?いやー、気になるねえ、梱包して発送する間に何か起こって呪いの人形になる、っていう可能性は捨てきれないからねえ。それはそうだけど、だからといって確かめる必要があるほど可能性は高くないと思うけど。でも、もし呪いの人形だったらむしろよかったね。我々のようなセミプロのところに来て。だからわたしは別にこういうのが・・・・・・。



「しゃあ、着いた!」

 アパート敷地内に入ったショーコは鍵をポケットから取り出しつつ走り出した。


「なんでそんなに気合入ってんのよ」

「おらおら、行くぜー。待ってな、メルちゃんの友達!」

 勢いよく階段を駆け上がるショーコを、さつきは歩きながら見ていた。


「ねえ、さつきちゃん。漫画倒れてるかな!」

 ショーコは急いで部屋の鍵を開け、遅れて階段を登っているさつきに向けて言った。


「大丈夫だとは思うけど。確信を持つには」

「先入ってるね」

「ちょっと、一人で行くのは」

 さつきは慌てて階段を登った。



「うーん」

 ショーコは部屋の真ん中でテーブルにある人形を見ていた。


「ね、ねえ。どうなの?」

 遅れて部屋に入ったさつきはショーコの横に立った。


「変わったようには見えないねえ。どう、さつきちゃん」

「そうね、うん」

 じゃあ、帰るから。さつきは部屋にあった鞄を肩に掛ける。


「え、さつきちゃん、帰るの?」

「そう。これなら大丈夫じゃない?」

「ちょ、ちょっと早いよ!さっきはすぐ戻りたかったけど、今はまだ早いよ!こうやって油断したところを狙うのは人形の常套手段だよ!」

「しょうがないじゃない。だっていつか帰るんだし」

「いや、帰るのはいいんだけど。まだ、まだ早いって!」

「あ、初日はちゃんと見てたほうがいいよ」

 さつきは玄関に行き靴を履きながら言った。


「ちょっと待ってよ、さつきちゃああん!」

「じゃあ、また」

 そう言ってさつきはドアを閉めた。

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