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08:旨い飯は籠の中で

「んなっ! ななななぁっ!?」

「……やってくれたよ、あのオヤジ……」

 一抹の不安と共に部屋に入ると、確かにオスカーの言った通り良い部屋であった。調度品も統一され、細かなところまで掃除も行き届いてるようだ。

「よし、一旦落ち着こうか。アル、おもむろに素振り始めるの辞めてもらっていいか?」

 何故か頭から煙を吐きながらブンブンと大剣を振るって素振りをしている。

 危ないからマジで辞めて欲しい。

 取り敢えず大きめのテーブルに各々の装備を置いて動きやすい格好となる。と、言っても俺は肩掛け用の鞄とアルから貰った短剣があるのみであったのだが。

 アルは少し重量そうな胸当てと籠手をつけていたのでそれを外し、腰から吊るしていた小さな鞄と背中に背負う大剣も下ろしていた。

 意外とアルは幼い外見に見合わぬ素晴らしい胸をお持ちのようで、胸当てが外された事で二つの陵丘がハッキリと窺えた。

 ーーCかDはありそうだな。

 胸当てという守りがなくなった事で、動くたびにその二つの陵丘もプルンと上下に揺れるため、嫌でも目がいってしまう。

 まあ全然嫌ではなかったのだが。むしろガッツポーズで歓喜する俺であった。

「マモル、あのさぁ……。そんな見られると恥ずかしいから……」

 がっつりアルに視線を向けていたようで、こちらに気づかれてしまったようだ。ここは本当の事を言って謝る他ないだろう。

「いや、すまんな。随分と重そうだなって思ってさ」

 胸が、とは言わなかったおかげか、アルは装備の事だと勘違いしてくれたようだった。

「ああ、持って見たらわかるけど、軽量化の魔法をかけてあるから見た目ほど重量はないんだよ。私は基本的に機動力を重視するからさ、重い装備は苦手なんだ」

 確かに持たせてもらうと見た目ほど重さを感じられなかった。

 魔法って便利なんだなってつくづく思う。そう言えば俺も魔法って使えないのだろうか?

 魔法攻撃 1 では効果に期待は出来ないが、今度アルに教わるのも良いかもしれない。

「それでマモル。……コレはどうするのさ?」

 コレとは勿論、寝床の事である。店主の気遣いと俺の願望によって生まれてしまったこの問題をさてどうするかと考える。そして導き出された結果はーー。

「よし、なら俺を縛れ、アル」

「えっ、そういうプレイが好きなのっ!?」

「違う!! それならアルも安心だろうと思ってだな!」

 そういうプレイという発想に思い至るアルの頭が心配になる。まあ嫌いじゃないが。

「はぁ……私が間に入って寝る。もうそれでいいだろう……」

 ガックリとうなだれ、疲れたように下からサンの声が二人の耳に届く。

「「それだっ!!」」

 アルも揃ってサンの素晴らしい提案に頷いたのだった。

 そんなこんなしているうちに下から夕食の支度が出来たと声がかけられたので俺たちは揃って階下に降りていく事にする。

 階段横の通路を通り奥の部屋に行くと、アンリが食事を運んでくれているところだった。

「なんか今朝を思い出すよねぇ〜〜ささ、座って座って」

 本日は俺たちの貸切切りのようで他のお客さんの姿は見受けられなかった。

 俺たちが席に着き、サンが床に伏せると向かいの位置にアンリがやってくる。

「私も同席していいかなぁ〜?」

 まだ夕食を取っていないらしく、一人で食べるのも寂しいから是非一緒にとお願いしてきたのだ。

 俺たちが快く了承すると、満面の笑みで同じ食事を用意して着席した。

「そう言えばまだ自己紹介してなかったよね。私はアンリエッタ。アンリでいいよぉ〜」

「俺はマモル・フドウだ。マモルで構わない、よろしくアンリ」

「私はアルテリアだよ! アルで大丈夫!」

「サンだ。しばらく世話になる」

 各々話に花を咲かせながらアンリが作ってくれた食事を口に運ぶ。

 それがまた絶品であり、今朝食べたお店の料理に引けを取らない美味しさに舌鼓を打っていた。アルなんか既に器を空にさせており、おかわりをしている始末であった。

 食べたものが全て一部に行くタイプなのか……。

「……アルはよく食べるなぁ……それでそんな細くて綺麗だもんなぁ」

「ンンッ!? ゴホッ! ゴホッ!」

 食べていた物を盛大にむせらせ涙目となり、辞めてよね!という表情を向けてくるアルに素直に謝る。

「……いや、ごめん。心の声が漏れてたわ」

 自重するとは言ったもののコレばっかりは癖らしく、思った事を口を突いて出てしまうらしい。

「ねぇ、二人って付き合ってるわけじゃないのぉ?」

 アルと俺のやり取りを見ていたアンリが半眼でニヤニヤとした笑みを貼り付けて聞いてくる。

「そんなんじゃないからっ……それに、ほら。私はこんな見た目だし……」

 赤毛をクネクネと指で弄り、目を伏せてしまう。その表情がどこか寂しそうで、つい抱きしめたくなる衝動に駆られてしまう。

「魔人の系統のこと? 別にそこまで悲観することじゃないと思うんだけどなぁ。私たち親子はそういったの気にしない質だから魔人のお客さんもたまにいるしねぇ〜。まぁ、それでも現状はそういった人って一部しかいないのも事実なのよね……でもマモルだって気にした素ぶりなんて一度も見せてないじゃない? そうよねぇ?」

 アンリがこちらを振り向き訴えてくるので、即答で首を縦に振って答える。

「寧ろその赤毛を見たときはすっげぇ綺麗だと思ったからなぁ。なんでその良さがわからないかねぇ〜」

「……んふっ。そんなこと言ってくれるの、マモルくらいだし」

 伏せていた瞳からは悲しさが消え、擽ったそうに口を緩めて微笑んでくれる。

「でもね、私の職種の人ってそもそもそういった魔人に対する頓着って少ない方なんだよね。流石に褒めてくれる人はいなかったけど」

「……そういえばさ、アルってあんなに武装してたけど何してる人なんだ?」

 アルの話を聞いていて、今更ながらアルが何をしている人なのか知らない事に気がついた。あの危険な森の中にいた理由も、そこでヘルグライフをあっさりと倒してしまうこの少女の事をまだ何も知らないのだ。

「あれ? 言ってなかったけ?」

 アルは豊かな胸の懐から管理組合の手札を取り出してこちらに見せてくれる。



 −管理組合発行手札【金札】−

 この手札を以って狩り人として汝を認めるものとする。

【アルテリア・アストレイア age:16】

【レベル41《ステータス》レベルのみ表示】

【使い魔】サンドレイク=シルバーファング

【組合ランク】A−

【悪魔討伐数】10

【魔物討伐数】241

【達成依頼】34

【最終履歴】ハーベルス管理組合



 そこには狩り人というものを認める文面と、下にはアルの事細かな情報が記載されていた。

「一応狩り人なんて大層なものしてるよ。さっきマモルが作って貰ったとのは違って、こっちは狩り人の手札。マモルのは管理組合を利用する為だけの手札なんだよ」

 先程の管理組合では気にしていなかったが、確かによく見ると俺の物とは材質が異なっており、こちらは銅に対してアルのは金をしているようだった。

「ええっ!! 金札!? 凄いねぇっ!」

 俺に見せてくれているアルの手札を見て驚いたのは正面にいるアンリであった。

「金札ってそんな凄いもの?」

「当たり前だよぉっ!!」

 話を聞いみてると、金札とは狩り人としてランクがAに到達した者に授与される証だと言う。

 だがそもそも狩り人とはなんぞ?って俺にしてみたらまずはそこを説明して貰いたいものなのだ。

 手札の記載内容からして魔物と悪魔を狩る職業だと言うことは察せられたが、この世界ではそもそも住む社会が違うと聞いていた悪魔を狩るという事に違和感を覚えてしまう。

 確かに昔は悪魔によって連れされた者たちがおり、そこから魔人が生まれたと聞いていたが、現在は人間、悪魔、魔人の三つの社会に区分されていると言う話であった。過去の因縁からだとしても、むやみに争いの火種になるような行為はしない方がいいだろうと思ってしまう。

「……アルは何のために悪魔を狩るんだ?」

 少しでもその理由が分かればと思い聞いたのだが、それがこの世界の悪魔を狩る理由の核心を耳にする事となるとは思わなかった。

「悪魔狩る理由? 決まってるよ。いつか悪魔の支配下から私達が抜け出すためじゃないか」

「……悪魔の支配下? どこが?」

「ーーマモル、何言ってるのさ? ココだよ、この人間社会は僅かに生き残った、唯一悪魔達と対抗している人類最後の世界だろう?」

 部屋に静寂が訪れ、ここにいる俺以外の全員が一様に顔を曇らせているのがわかった。

 そしてやっと理解したのだ。

 そう、なぜ管理組合などと言う悪魔や魔物を狩る人たちがいるのかを。

 なぜ彼等を狩らなければならないのかを。


 ーー人類は籠の中の鳥であるーー。


 どうやら俺が来てしまったこの異世界は、既に悪魔達によって支配された中にある僅かばかりの人間社会だと、今ある世界は悪魔達の物だと、この時知ってしまったのだったーーーー。

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