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07:どうやら俺は試されているらしい

 日も暮れ、ハーベルスに着いた俺たちはアルの案内の元、商業区に店を構えるリゴンの籠という宿に向かっている最中であった。来た時と比べると街の喧騒も落ち着きを見せ、街灯が点々と灯り始める。

 既に管理組合に寄って熊、スモールベアーガを換金して貰っている為足取りは軽いものだ。

 第一級危険生物とはいかないものの、アレも街近郊では危険な生物であり、換金額も銀貨三枚という結果になったいた。因みにヘルグライフは金貨一枚であったので、比べるとやはり少なく感じる。

 日が落ちた事で一気に気温も下がり、俺はブルっと体を震わせていた。

「この辺りは夜になるとこうも寒くなるのか?」

「いや、この辺りに限った事じゃ無いけど、日が落ちるとこれくらいにはなるかな? エーテルリアスとシュトロノーツが眠りに着くと朝に比べて十度以上は変わると思うよ」

「へ、へぇ〜〜なるほどねぇ」

 え、なにその強そうな名前。

 話の流れから恐らく空に浮かぶあの太陽と月に類するものだと思っていた二つの球体の事だろうと察する。

 色々聞きたい気持ちはあるのだが、流石に余りにも無知すぎると怪しまれてしまうだろうし、開き直って異世界転生して来ましたと伝えたところで病院送りにされるのがオチだろう。

 取り敢えずは知っている風な顔を装い、頃合いをみてさり気なく聞こうと思うことにした。

「……そんなに寒いんだったらさ、手繋いであげようかな、なんて……えへへ」

 チラチラとこちらを窺うように上目遣いで攻めてくるアルに一瞬で心を掴まれてしまう。

 オイオイ。ここまでチョロイン具合が酷いと他の男に騙されないかちょっと心配になってくるよ。まぁ俺もチョロいのでアルの誘いに有無を言わさず乗るんだけどね!!

 差し出された手を取ろうとしたところで、小さな毛むくじゃらの塊に邪魔をされてしまう。

「残念だったな。私の目が黒い内はイチャイチャさせるつもりは毛頭ないのだよ」

「……サンさん……随分と可愛らしくなりましたよね」

 地面にチョコンと足をつけるこの小さな子犬は先程まで熊をその背に乗せてここまで運んできてくれた白銀狼のサンであった。

 腕に収まるサイズ感に良質なクッションのようなモフモフ感で、表情もどこかデフォルメされたような可愛らしいものとなっていた。

 なぜこんな姿なのかというと、サンはアルの使い魔とやららしく、使い魔は主人から一定の魔力を貰ってその力を最大限発揮する事が出来るらしいのだ。しかし魔力を与える量を絞ると、縮んでしまい子犬の姿になるという。

 街は獣の侵入は禁止なのだが、家畜や小動物に限りは入国を許されている為、現在ハーベルスに俺たちと一緒にいる訳である。

 それなら何故今朝は入国してこなかったのか聞いみたのだが、単純に長距離移動で休みたかったのと魔力量を絞られるとお腹が空くのだと言われた。このサイズ感で食事量は元の姿の時と変わらないそうだ。一体どこに入るのやら。

 今日はもう宿に泊まるので、流石に外の小屋で待っててもらう訳にはいかなかったのでアルがサンを連れてきたのである。

「べっ、別にイチャイチャなんてしてないから!? ただ、寒いだろうなぁって思ったから親切心で言っただけだしっ」

 マモルの方を時折チラチラと見やり、必死に手を振ってサンに抗議するアルだった。

 サンは一つため息を零して一言。

「……今まで周囲から受けてきたものに対する反動か……私の主人のなんてチョロい事よ……はぁ……」

 使い魔にまでチョロい扱いされだすアルは未だに顔を赤らめて抗議をしていたが、既にサンは聞く耳を持っていなかったのである。

 商業区に着く頃にはアルもすっかり調子を取り戻しており、軽快な足取りで目的の場所に着いていた。

 商業区の表通りから僅かに逸れた位置にあり、少し古めかしい外観だがしっかりと手入れされている事が窺える店構えだった。

 アルがここだと言い両扉を開き入ると、カランカランと軽快な鐘の音が鳴り、奥から低い男性の声が聞こえてきた。

「いらっしゃい! ……ってあれ? 嬢ちゃん確か前にヴェルマさんと一緒にいた……」

「うん、お久しぶりオスカーさん。あの時はありがと。この外見だからどうしてもなかなか宿が見つからなかったからさ。今日も泊まりたいんだけどお願いしてもいいかな?」

 どうやら以前はアルの師匠ヴェルマとここへ来たことがあったらしい。

 アルの今の会話から、その魔人の血を引く赤髪だと宿を取る事もままならないのだと嫌でも知らされる。

「おう! 勿論良いぜ! ただ食事に関しては娘に任せっきりなんだがまだ戻らないんだよな。済まないがそっちは帰ってきてからでも……」

 と話している間に、後ろの扉が開かれ鐘の音が鳴り響いた。

「ただいま〜〜いやぁ今日はちょっと忙しくって帰り遅くなっちゃったよぉ〜〜」

 聞き覚えのあるおっとりとした口調に振り返るとそこには、アルに連れていってもらった飲食店でおしぼりを渡してくれた店員さんがそこにいた。

「おうアンリ、良いタイミングで帰ってきてくれたな。お客様なんだ、ちょっと料理の方頼むな」

「うん、わかったよぉ〜〜……ってアレ? 今朝お店に来てたカップルさんじゃないですかぁ!」

 唐突なカップル発言で顔を赤くしているアルをよそ目に、アンリと呼ばれた女の子が亜麻色のフワフワな髪を揺らし、青い瞳で俺に詰め寄ってくる。

 凄い勢いでこちらに詰め寄ってくるものだから俺との距離が余りにも近く、正直ドギマギして目を逸らしてしまった。

 それを見ていたアルが少しムッとした表情を浮かべた事に気がついたのはサンのみである。

「なんだ、アンリの知り合いだったのか?」

「知り合いと言うか今日初めて会ったんだけどねぇ〜〜今朝バイト先に来てくれたお客様なんだよぉ」

 俺たちは今日あった一連の事をオスカーに説明し、彼女には少しお世話になった旨を伝えた。

 おしぼりは偶然の産物かもしれないが、それでもアルの危機を救った事には変わりないのだ。あの時のお礼も言えてなかったのでこの場を借りて感謝を述べていた。

「あっアレはテンパって何とかしないとって思っておしぼり渡しちゃっただけだから感謝なんていらないよぉ!」

 と、やはり偶然だった事が判明したのであった。

「まあ何はともあれコレも何かの縁って事だな。じゃあアンリ、支度始めてくれ。お前さん達、どれくらい居るつもりなんだ?」

 アンリは食事の支度をする為部屋の奥へと消えていった。

 滞在に関しては管理組合からの連絡待ちなので、正直いつまでいるかはまだ分からない。なので取り敢えずはこの街を見て回りたい事もあり一週間分の宿泊を決める事にした。

「あいよ、じゃあ部屋は……一緒のがあんちゃんはいいよなぁ?」

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて聞いてくるオスカー。

「当たり前じゃないですか」

 それに対して真顔で即答する俺に、店主のオスカーは大笑いをしてアルに顔を向ける。

「と、あんちゃんは言ってるけど、どうする?」

「どっ、どうするって……確かに私も泊まるって言ったけど同じ部屋とは……んぅ……」

「私は反対だ! 断固として反対だ!!」

 頭から煙吹き出すアルの足元でキャンキャンと鳴く子犬がいるが、今はぬいぐるみのように可愛らしいので全く威厳がない。

 アルは手をモジモジと遊び出し、暫し考え込んだあと潤んだ瞳で振り向いて一言。

「…………襲わない、よね?」

 …………自信ないなぁ……。

 そんな憂いを帯びた表情をされたら理性のたかも一撃で粉々であろうて。

 内心の感情を押し殺した表情を必死に作った俺は、勿論そんな事しないとアルに伝える。

「……じゃあ……いいけど」

 アルの返答を聞いていた子犬のサンが、手を出したら噛みちぎると俺の下半身へ視線向けて呟いていた。

 怖すぎるですけど。

「良かったな、あんちゃん!!」

 そんな俺の期待と不安の狭間で揺れているところに全力で応援してくれるオスカーに205と書かれた鍵を渡される。

「いい部屋、使ってくれや」

 耳元でボソッと呟くオスカーに礼を言って二階にある205号室へ向かった。

 部屋に入ると、落ち着いた綺麗な洋室で窓も大きく日当たりも良さそうなところだった。

 しかしそんな事がどうでも良くなるくらいの衝撃をすぐに受ける事となってしまう。

「……おいおい……ダブルベッドかよ……」

 どうやら俺は本格的に試されているらしい。

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