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06:ビビるな、闘え!

 戦闘が始まってからアルはいつでも動ける用意をしつつ、その様子を見守り続けていた。

 アルがマモルに魔物狩りを進言したのは単にお金を得る為などでは無い。レベルアップでパラメーター異常を治すというのも実は建前であり、本音はその数値が本物かどうかを確かめるというのがアルの目的であった。

 先程の管理組合でマモルのパラメーターを見たときは正直かなり動揺していた。まず間違いなくあんな数値はあり得ないのだ。

 自分の師匠であるヴェルマでさえ、レベル70で防御力4000程なのである。

 対してレベル 1 でそれを軽く凌駕するマモルは、パラメーターの異常で無ければ確実に伝承に現れる悪魔狩りの英雄に達する者であった。

 これは確かめる必要があると考え、合流したサンにも話しをしておいたのである。

 そして現在、マモルはスモールベアーガと対峙し、危機的状況が迫りつつあった。

「ーーーーっ!! マズイッ!!」

 スモールベアーガが魔力を纏い、僅か一瞬でマモルの懐に入られてしまっていた。

 アルが大剣を背中から抜き、マモルに迫るスモールベアーガを斬り伏せに動こうとしたところで、

「待て!! アル!!」

 サンに呼び止められてしまった。あと数秒でマモルはスモールベアーガの餌食にされると思われた瞬間、マモルは後ろに跳びのき下からの振り上げを躱していた。

 ギリギリのところで危うくも回避に成功し、そのままの勢いで再び距離を離していた。

 アルは沈痛な面持ちのままに、そっと胸を撫で下ろした。

「サン、よくマモルが避けれるって気がついたね」

「避けれる確信があった訳じゃないさ。ただ、そんな気がしていただけだ」

「えーー、勘なの……?」

 そんな事を話している間にも再びスモールベアーガが先手を打とうとしている様子であった。再び魔力を身体に纏い身体強化を行なっている。

 この世界では全ての生物に魔力が宿っている。そのため魔物は勿論、植物にだって魔力を扱えるのだ。

 身体強化はその中でも基本中の基本で、魔力を鎧のように纏って身体能力を向上させる役割を持っている。

 先程よりも大量の魔力で身を固めるスモールベアーガが地面を抉りながら猛進を開始した。

 マモルは大きく息を吸い、腕をダラリと下ろしたままその場を微動だにしなかった。つまり逃げるのではなく、受け止める態勢であるようだ。

 もう何度目かわからない心配をマモルへ向けて、サンに助けた方が良いのか窺う。

「……サン……」

「大丈夫、アイツの目はそう語っている。信じるしかあるまい」

 大剣の柄から手を離す事は辞めずに、その場に立ち止まる事を決意する。

「……死なないで、マモル……」

 呟くアルの目の前で、マモルは大きな咆哮を上げていた。



 ーービビるな、俺。闘え!!!

 スモールベアーガは大地を踏みならし、獰猛な瞳を爛々と揺れしながら接近する。

 筋繊維が凝縮し、驚異的な脚力で跳躍するとその巨体が宙を舞った。俺の胴体ほどはある毛むくじゃらの巨腕を上段に構え、一気に俺へ目掛けて振り下ろす。

 一歩も引く事なく、相手の迫る勢いに合わせるように短剣を熊の首元へと構えた。

 そう。相手の勢いを利用し、相討ち上等で全力の一撃を首元に叩き込むだけでいい!!!!

 ブンッと風を裂く音が鼓膜を震わし、鋭い爪が俺の頭頂部から股までを一線した。

 熊は勝利を確信し、目を細め口角を釣り上げる。ニヤリと歪な笑みを浮かべたその表情が数秒後には畏怖のものへと変わっていた。

 両断したはずであるマモルは倒れる事もなく、傷つく事もなく、変わらずそこに立っていた。


 パキンッ


 熊の爪が呆気なく砕け散り、ボロボロと地面に落ちていく。

「グェ…グェ…」

 喉元には短剣が突き刺さり、その声は既に熊の咆哮とは程遠いものとなってしまっていた。

 短剣を伝って真っ赤に染めあげる両手に力を込め、更に深く突き刺した。

 キュッと短い悲鳴を上げると、ダラリとその巨腕を伸ばし、後方へ倒れ込みその生命に終止符が打たれたのだった。

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 カランと短剣をその場に落とし、倒れるようにその場で仰向けとなる。既に息もたえだえで、体力も精神力も共に限界となっていた。

「ーーーーマモルッッ!!!!」

 勢いよくこちらに駆け寄ってくるアルとそれを追うようにやって来たサン。アルは倒れ込む俺の前身を見てはペタペタとあちこち触ってくる。

 擽ったいからやめてほしいのだが、疲労困憊の俺はされるがままとなっていた。

「……なんともない?」

「見ての通り、平気だよ。……それ、めっちゃ良い切れ味だったわ、ありがと。ちょっと今動くのキツイから拾ってくれると有難いわ」

 落ちた短剣に視線を送ると、アルは手に取り俺の腰に吊るした。

「コレは戦勝祝い、受け取って」

「えっ、いいのか? コレ凄い高そうだけど……」

「マモルが頑張ったご褒美だよ」

 ……それとこの戦闘を企んだ償いだから。

 心の内で謝罪するアルは、マモルの背中に手を滑り込ませゆっくりと上体を起こし上げる。

 その時、超至近距離まで迫ったアルがすっごい良い匂いだなぁと、アルの心の内を知らないマモルは頬を緩ませていたのだった。

「どうして避けなかったの?」

「んーー、守りきれる自信があったからかな? 熊と闘っててわかったんだよ。こんなにも切れ味の良い短剣を装備しても軽く傷つける事しか出来なかったという事は、パラメーターの物理攻撃 1 が正しい数値を示してたって事にさ。つまり、あの異常なまでの防御力も正しいと思ったんだ」

「だから、避けなかったと?」

「そういう事だな」

 あっけらかんと言うマサルだが、どこか浮かない表情をするアルであった。

 どうした?とその表情の理由がわからないマモルである。

「……この戦闘をさせた私が言える事じゃないのは分かってるんだけど……もしパラメーターが間違ってたら死んじゃってたんだよ。……私は怖かったよ……」

 薄っすらと瞳を潤ませ、こちらを見つめるアルは俺の胸に手を添えて訴えてくる。

 俺のために涙を浮かべてくれたこの時のアルほど美しいと思った事はないと断言できる。そして、確実に心を奪われていた。

「……ごめんな」

「うん……」


 二人が見つめ合いーーそして。


 ピコンッ!……ピコンッピコンッピコンッ……


 鬱陶しい電子音のようなモノが周囲に鳴り響き出した。それも一回などで無く複数回繰り返されるようにである。

「……あっ、えっとーーーーレ、レベル上がったねっ!」

「……これレベルアップ音かよ」

 アルと折角の良い雰囲気を盛大に邪魔されてしまっていた。

 なんと悪いタイミングなことか。システムの悪意としか思えなかった。

「もう数値が正しいって証明されてるけど、パラメーターの方はどうなった?」

「待って、今確認してみる」

 すぐさまステータスを開き、パラメータを確認する。するとそこにはある変化が見受けられた。


【マモル・フドウ age:18】

【レベル:8】

【体力:224】

【物理攻撃:1】

【魔法攻撃:1】

【素早さ:58】

【物理防御:9999+】

【魔法防御:9999+】


 ………………+って何やねん。

 関西出身でも無いのについ関西弁が漏れるくらいに動揺していた。

 その他の数値は正常(攻撃力 1 は除く)に増加の確認ができた。

「なんか……9999の端に可愛らしくプラスがついたな」

「限界値突破っ!?」

 この表記の仕方を見る限り、数値化されるのは9999までであることが窺える。そしてそれ以上の数値はプラス表記が横に着くようだった。

「ではそろそろ帰るぞ。重いし汚いこちらの身にもなってみろ」

 サンが後ろからやって来て俺の襟元を噛むと、そのまま荒く持ち上げられて背中に放り投げられた。サンの背中には既に先程倒した熊が先客として乗っていた。

 正直全身バキバキに痛いからもっと優しく扱って貰いたかったものの、そんな事を口走ったら熊よりも恐ろしい結末が待っていそうで黙ることにする。

「さあ、アル。続きは戻ってから話せばよかろう。もう日が暮れるぞ」

「そうだね、わかったよ」

 サッとアルはサンに飛び乗り俺の後ろに着く。すると後ろからアルに抱きしめられた。

 ……えっ!?

「アルさん? どうしたの、急に?」

「まだフラフラしてるみたいだから……私が支えてあげるよ……」

 おぅ……さいですか。

 俺はアルを背中に感じながら、ハーベルスへと戻るのであった。

 時折振り返るサンの怒気の込もった視線を見ないように努めるのに相当苦労しながらであるのだが……。

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