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02:少女と白銀狼

 少女は俺を立たせてくれると、左手に獰猛な怪鳥を抱えたまま、こちらをジロジロと見つめていた。

 舐めるように上から下までそりゃ念入りに……。

 おや?コレはあれかな?ちょっとダメなところが可愛い!的な恋の始まりかな?ちょっと左手の怪鳥さん、こっち見ないで下さい。

「お兄さん、こんな森の中にどうしていたの? 一人じゃ危ないよ」

 おっと。どうやら恋の始まりではなく、ただ単に俺がどうしてここに居たのか気になったらしい。それは俺も知りたいので、寧ろ教えて貰いたいところなのだが、当然この少女が知っているとは思えず、取り敢えずは無難に返答する事にした。

「あーー、ちょっと用を足そうと思ったら森に迷っちゃって」

「ここめっちゃ深い森の奥だよ!?」

 どうやら無難に受け答え出来たらしい。彼女はそれ以上深く追求してくる事はなかった。

 今更だが、目の前にいる少女はとても可愛らしかった。

 歳は十五、六といったところか。艶のある真紅の長い髪を両端で括り、長い睫毛の下には淡い水色の瞳を覗かせている。小さな唇とぷっくりとした頬は触ったら確実に気持ちいいだろう事が容易に窺える。

 何が言いたいかというと、つまりどストライクで可愛いかった。こういう時自分の語弊力の無さに泣きたくなる。

「お兄さん、ここら辺じゃ見ない顔立ちしてるよね? 目も髪も黒ってなかなか見ないよ?」

「そうなの? でも君の髪も真っ赤で……」


 ピクッ


 少女が髪について触れられた瞬間、何故か強張る様に体を硬直させる。

 どうしたんだろ?と、一瞬思ったものの、既に口を衝いて出てしまっていた為に引っ込める訳にもいかなく、

「……凄い綺麗だよな」

「…………んっ?? んんっ??」

 何故かポカンと口を開けて目をクリクリとさせてこちらをマジマジと見つめてくる。

 あら、可愛い。ほんと可愛い。

「え、ごめん。髪褒められるの嫌だった?」

「いやぁ……お兄さん、変わってるよね。いや、嬉しいよ! ありがと」

 あまりにも無垢な笑顔を向けてくるので言ったこっちが照れてしまい、直視出来ずについ目を逸らしてしまった。

 そんなに髪を褒められるのが嬉しいのなら秒間で褒めてあげたいくらいだが、それは流石に気持ち悪すぎるので自重する事にする。

「そうだ、遅くなったけど助けてくれてありがと。危うくその怪鳥さんに美味しく頂かれるところだったわ。……てか、どうするの? それ」

 左手に抱える新鮮な怪鳥の首を指差して問いかける。すると、軽々と胸の前まで持ち上げて俺の目の前に突き出してくる。

 そう、それだからそんなに近づけないで、怖いから。

「管理組合に提出するといくらか報酬貰える魔物だから持って帰えろうかなって。そうだ、よかったら私がお兄さんを街まで送ってあげよっか?」

 街っていうと、さっき丘の上から見えたところだろうか?この世界に来たばかりの俺としては、一人でウロウロするのは余りにも危険過ぎた。さっきみたいな事はもうこりごりである。俺は少女の提案に甘え、近くの街まで送ってもらう事にした。

「あーい、じゃあちょっと待ってねっ」

 すると右手の指を咥えて大きな口笛を鳴らした。

 深い森の中に響き渡わたる少女の口笛の音色はあるものをこちらに呼び寄せたのだった。

 森の奥から静かに現れたのは、白銀に輝く一匹の狼。全長は五メートルは優にあろうかというその姿は、昔見た有名なアニメ映画の犬神を連想させる。

「アル、なんだ? そいつは?」

 低く唸るように声を発した白銀狼は眉間に皺を寄せて燻しげに俺を見据えている。下手な真似をしたら直ぐにでも噛みちぎるぞ、と無言の圧力を感じた。

「ヘルグライフに襲われてたから助けたんだよ。悪い人じゃないと思う、だから落ち着いて、サン」

「……アルがそういうならば」

 サンと呼ばれていた白銀狼は、ギロリとこちらを見て、

「下手な真似はするなよ」

 と一言だけ俺に告げてその場に屈んだ。

「さ、じゃあ乗って。送って行くからさ」

 マジで?その狼に乗るの?めっちゃ睨み効かせてるんですけど……。

 躊躇していても、早くしろというように更にに怒気を放ち始めたので尻込みしながらも狼の背に乗ったのだった。

「……お、お邪魔しますぅ……」

 胃がキリキリする。誰か俺に胃薬ください。



 もの凄い勢いで駆け抜けて行く白銀狼によって僅か三十分ほどで森を抜け、広大な広野まで出て来ていた。

 既に小さくではあるが街の様子を窺えるようになっている。

「そういえば名前言ってなかったね。私はアルテリア、周りからはアルって呼ばれてるよ」

「俺は……」

 ここでふと、ここが海外のような名前だという事に気がつく。普通に不動 守では訝しまれるかも知らない。ただでさえ黒髪黒目は珍しいらしいのだ。

「マモル・フドウだ。マモルって呼んでくれればいい」

「マモルね! じゃあマモルっ、もう少ししっかり掴まってくれて大丈夫だよ。また落ちそうになったら笑えないし」

 目まぐるしく変わる視界をよそ目に落ちないよう躊躇いながらも腕に力を込めた。

 情けないが俺は少女の腰に腕を回し、しがみつくように騎乗していた。というのも、狼のあまりの速さに俺が落ちかけてしまいこういう構図になってしまったのだ。

 正直俺は彼女、アルに後ろから抱きついて貰いたかったのだが、これはこれで良いものだと今は思っている。アルの髪の毛の良い匂いが鼻腔をくすぐり、気分が高揚してくるのだ。決して変態じゃないぞ、男なら仕方ない筈だ。

「取り敢えず街に着いたら管理組合に行ってもいいかな? コレを早く換金して貰いたいからさ」

 アルは両手で抱きしめるように抱える怪鳥、ヘルグライフを示して問いかけてくる。

 おい、羨ましいな生首よ。

 僅かな嫉妬の言葉を心の中で零してしまう。

 初めは街に届けて貰うだけのつもりだったのだが、ヘルグライフとの全力疾走と死ぬ前は減量地獄でまともな食事をしていなかった俺はお腹の虫を盛大に鳴らせてしまい、アルが街でご飯を奢ってくれると言う話になったのだ。

 なんせ今の俺は一文無しである。

 それを告げると、どうやってここまで来れたんだ、と盛大にアルは笑っていた。

「確かに街でそれを持ち歩くのは躊躇われるよな。もちろん、俺はオッケーだ」

「……オッケーって何さ?」

「え? あーー……オッケーって言うのは、大丈夫だって意味だ。俺の地方の言葉だから気にしないでくれ」

「変な言葉だねぇ。……あ、でもタルタニア言語で使ってた人がいたような……ここら辺はミルティニア言語が主流だからマモルは苦労するかもね」

 言語か……。確かに今まで気にせずアルとサンとは会話が出来ていたが、今後もそうとは限らない。ミルティニア言語が全て日本語で通じる事を祈るしかないな。

「因みにだが、今アルが話しているのはミルティニア言語なのか?」

「ん? 私が今話してるのはフロムディア言語だよ。マモルだって今普通に話してるじゃない」

 冗談だと思われたらしく、可笑しなこと言うな、と笑われてしまう。

 主にミルティニア言語、フロムディア言語、タルタニア言語の三つの言語が用いられるそうだ。この地域は主にミルティニア言語が主流だという。

 ちなみにだが、アルはミルティニア言語とフロムディア言語は話せると言っていた。

 しかし俺は内心かなり驚いていた。自分が今まで日本語だと思い話していたのが、アルにはフロムディア言語に聞こえていたと言うのだから。

 これも何か異世界転生の恩恵なのだろうかと考えてしまう。有難いが都合が良すぎる待遇に何か裏がありそうで怖いものだ。

 しかしそれなら存分にその恩恵を使わせて貰おうと思う。

 恐らくミルティニア言語やタルタニア言語も日本語で通じるだろうと、確証のない自信が湧いて来ていた。

 そして翔けること、しばらく。

 今まで遠目には小さかった街は近くまで来てみると予想よりも遥かに大きく、街の正門前にはたくさんの人や荷馬車が列を成す光景が広がっていたのだった。

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