プロローグ~あたしの独白~
わたしらは外道かもしれないけれど、悪人じゃないよ
ーーリン。おまえは何で破魔師となったのだ。
師匠が昔、そんな質問を投げかけたことがあった。
その時、あたしはその意味がわからなかった。
だって、その道はあらかじめ決められたものだったから。
あたしの家が代々ダキニ天の末裔を輩出する家計で。
それに適していたのがたまたま、あたしだっただけ。
理由なんてどこにあるのだろう?
疑問に思ったこともない。
ほかにやりたいことも思いつかない。今考えたところで無駄だけれど。
しいていえば、家族のためだろうか?
あたしがこれになることで、身内には将来の保証と金が約束される。
あたし自身にとっても、これは栄誉なことだと、彼らから教わった。
でも、すべて、どうでもいいことだった。
言葉は上滑り、あたしの中にしみこむことはない。
家族には頭では感謝しているけど、心の底から……って訳じゃない。。
自分自身、お金使いが荒くて困ったことは何度あったけれど、もうそんなこと考えなくてもいいぐらいの大金がーー前金だろうかーー転がり込んできた。
それを見た父と母が、あたしを挟みながら肩を抱いて喜んでいたときーー
あたしの胸に、大きな穴が開いていた。
もーなにもしなくてもいいんだ、って感じ。
ぼーぜんと、ぽっかりと
胸がいっぱいの両親に対して、空っ風が吹きすさぶ秋のようで。
彼らは喜んで、あたしを送り出した。
それ以来、両親には会っていない。
それからは、修行の毎日だった。
つらいことも結構あったけれど、不思議と辞めたくなったことはない。あの時は、胸にあいたどうしようもない何かを埋めるために、がむしゃらに動いていたような気がする。
だから、家族のためというのは、結局のところ結果論だ。
半分正解で、半分不正解。
ただ、あたしの後ろで誰かが膝をつき、泣き崩れ、二度と立ち上がれないほど打ちのめされて……そんな人たちが少なからずいたということに、その時ではなく、後になってようやく気づいたのだ。
……我ながら随分とひどい話だけれど。
あたしはその屍を乗り越えて、骨を拾うことなく、あの時、そこにいた。
だから、その人たちのためでもあるのだろうか?
違う。あたしはそんなお人好しじゃない。
だから、コレもーー結果論。
それともあたしの相棒であるトウカのため?
そうだ。それがしっくりくる。
ああ、燈火。あたしだけのキツネ。
あたしはあなたを、愛している。
実の家族よりもーー家族以上に、もう、あなたはあたしの家族だから。
ーーそうか。これから例の施術を行う。そうなったらもう、後戻りできぬ。その意味、わかっているな?
師匠はその時、微笑んでいた。
驚いた。
あんなに優しい笑顔は、修行の最中では見たことがないのに。
ずるいな……と思いながらあたしは、こくり、とうなずいた。
それは《究極の外法》。
あるいは《至高の冒涜》。
あたしはもう、ただの人間ではなくなる。
たぶん、これはーー