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異世界の物語  作者: もぐな
第⒉章
62/71

44.

 


 そんなやりとりをしているようだが、こちらとしても戦況を維持するのは難しく、なんとか3つに分断できているが、同時に相手をする事になれば、逃げるにしても犠牲が出る確率がかなり高い。


 特に3等級の者で、逃げながら連れてきたヤツは怪我も負ってるようで恐らく一番最初に殺されるだろう。


『どうする? あいつを囮にして、依頼主のウマを起こして逃げるか?』


 同じく2等級の冒険者の一人がこちらに聞こえるぐらいの声で聞いてくる。

 最悪の場合、3等級のやつらは全滅してしまうだろう。


『はぁ、はぁ。おい! 俺たちを見捨てないでくれよ! あんたら2等級だろ! どうにかしてくれよ!』

『エルフの兄ちゃんもしっかりと魔法を当ててくれ! 役に立ってねぇぞ!』

『うるせぇ! こっちだって必死なんだ! お前こそ足止めしやがれ!』



 グレイブも目の前に対峙している魔獣を自分以外の所に行かせないように注意深く行動しているため、大胆に攻撃を仕掛けることもできず、手をこまねいている。



『くっ! おめぇら、逃げるなら一斉にいくぞ! 遅れた者は死んじまうから必死に走れよ!』


 できる事なら1人も死なせたくないが、自分の命の次に依頼主を守らなければならない。

 そうしなければ報酬も手に入らない。

 冒険者なのだから、最悪の場合も想定して依頼を受けているだろう。



『合図はどうする? 俺がするか?』


 2等級の男が言う。


『あんたの方が俺より足が速そうだし、俺の合図でもいいか? 10数えた時に依頼主の元まで駆け寄るぞ? お前らも聞こえたか!?』


『ま、まってくれぇ! 俺はもう走れねぇよ!』


『死にたくねぇなら走れ! 無理なら俺たちのために残れ!』


 皆が顔に汗を浮かべ、呼吸が徐々に激しくなって来ている中、やはり原因をもちこんだ張本人がもっとも息を切らせており、対峙するにしても防御に徹しているおかげで、なんとか対応出来ていたが、さすがに限界を迎えかけているようで『もう知らねぇ! お前達がそこにいたからわりぃんだ!』といって魔獣に対して背中を向ける。


『おい! お前が連れてきたんだろ!』と冒険者の一人が声を上げるが、魔獣に背中を向けたまま、逃げ込んできた冒険者は馬車に向かい走り出す。



 合図を待たずしての行動の為、グレイブを含む冒険者はまだ動き出すことが出来ずにいたが、魔獣は待ってくれず、獲物を逃がすまいと魔獣の1匹が対峙してい者を無視して逃げ出した冒険者の穴を追跡する。


『あぁ! たすけてぇえ!』


『依頼主の所までいかすな!』


『おい! 赤髪! どうにかしろぉおお!』


 持ち場を離れてしまうと3匹とも馬車に向かってしまうが、一時的にでも今馬車に向かっている1匹を足止めできれば、もう一度体勢を立て直すことができる。




『あー、もういいや。お嬢さん、しっかり捕まってろよ?』



 魔獣は逃げ出した冒険者に飛びかかり、進行を妨害するように立ちふさがる。

 冒険者の男は突然目の前を防がれた為に、驚きから足を滑らせ転倒してしまい、今にも体をかみ砕かれんとするように大きな口を開けながら迎えられる。



「だけど、そいつは噛まれることがなかったんだ」


「ぇ? 絶体絶命じゃないですか! どうなったんです?」



 グレイブは一旦酒を飲みながら一息入れる。


「うはぁー、うめぇ。まぁ、結論だけ言っちまえば、赤髪の男が全部倒したってので終わりだな。それで俺たちは大きな怪我も、誰かを犠牲にする事も無く依頼を達成して帰ってこれたって事さ」


「いやいや、グレイブ。それはいくらなんでも横暴すぎねぇか? もう少し詳しく教えてくれよ、そいつがどんな方法で魔獣を討伐か撃退したんだよ。それが一番話したかった事じゃねぇのかよ?」



 面白い話しと言ってたわりに、危ないところを一番何もしてなかった赤髪の男が魔獣を倒したって話しで、何も詳しく語っていない。

 結局どうやって魔獣を倒したんだろうか。


 とても強い魔法を使ったのか、グレイブたちと連携を取りながら1体づつ確実に仕留めていったのか。

 それでも恐らく1等級冒険者の部類になる強さなのだろう。

 そこまで追いやられていたのに2等級に部類される冒険者が加わっただけなら、グレイブももったいぶって話を伸ばしたりしないはずだ。



「それがよぉ、説明するっつっても信じて貰えるかわかんねぇしなぁ」


「ははは、その人は自分みたいに異世界人で、能力を使ったとかですかね?ははは」



 スズキのような能力でなく、もっと攻撃的な能力をもっている者なら確かに強力な攻撃を行えてもおかしくないだろう。



「どうだろうな~。能力はどうかわかんねぇが、スズキみたいにおどおどとしてもいねぇし、こっちの人間だと思うが、とりあえずよぉ」


 グレイブはもう一度酒を口に含む。



「依頼主のお嬢さんを抱えながら、3匹とも1撃で倒したんだとよ」


「は? さすがにそれは……ねぇだろ?」


「俺だってそう思ったさ。でもよぉ、横目で襲われそうになっていた冒険者の側にそいつがいたと思ったら次は俺の対峙している魔獣の目の前にいてよぉ? 何をしたのか一瞬わからなかったが、魔獣がいきなり地面に倒れ込んだと思ったら、すぐに残りの1匹の魔獣も同じように伏せたと思ったらその側に赤髪のやつとお嬢さんがいたんだぜ?」


「言ってることがよくわかんねぇよ。結局何したんだよそいつは!?」


「俺を含めて全員が一瞬の出来事すぎて理解できなかったんだ。そいつが移動してきたって分かったんだが、どうやって攻撃したかがわかんなかったんだ」



 そいつが依頼主の娘を抱えながら言ったことが『まだ生きてるかもしれねぇから、とどめを刺すならやってあげてくれ。売るならそれなりの価格にもなるんじゃねぇか?』と俺たちに向かって笑顔を向けながら話しかけてきたんだと。


 魔獣は3体とも強い衝撃を等部に与えられたように頭に大きな窪みが出来ており、そのため首の骨も折れているいるのか即死に近く、微かに動く素振りもただの身体反応なのか、苦しそうに息をはき続けるだけで入れる事のできていない呼吸音が微かに聞こえるぐらいだったとか。


「でもグレイブ、目の前で見てたんだろ?」


「あぁ、見ていたはずだ。それでもあそこにいた俺らじゃ目で追いかけることもできなかった。抱きかかえられていたお嬢さんなんか何が起きているのか全く分かっていない様子で目と口を大きく開けてやがったぜ」


「ははは、さすが異世界。チート設定の持ち主がいるんですね~」


「スズキさん、チートってなんですか?」



 グレイブを含む全員がどうやって倒したのか気になって問いかけたらしいが『近寄って頭を叩いたんだよ。損傷は少ない方が売りやすいだろ? 助けるのが遅くなって悪かったが、しっかり助けたんだから許してくれよな? なんでそんなに強いんだって? まぁ俺は最強だからな~』と笑顔で返事をされただけだ。


 魔法を使った痕跡もなかったので、信じるしかないのだろうが、武器も持たずにただただ素手で殴るだけで単体だけで2等級の強さを持つ魔獣を倒せてしまうほどの強さを持つ青年。

 依頼主はとても感謝した言葉を口に出しながら旅は再開し、無事終了した。



 名前を聞いても『んー、最強っていったら俺だって覚えてくれてたらいいんじゃねぇか? また会う機会があったらならその時にでも教えてやるよ』と言われ、これ以上は聞き出すことができなかった。


 最初につっかかていたヤツですら、強さを見せつけられて『せめてお名前だけでも!』『1等級になられてどれぐらいなのでしょうか!』などと改まった言葉を使い質問攻めしていたが、そいつは街につきしだい『また会うことがあったらよろしくな-、じゃ!』と言い残して俺たちから離れていった。


 依頼主の貴族にあいつは何者だったのかと聞いているやつもいたが『皆様も冒険者でしたら、自分で調べて下さいな』と笑いながら返されてしまい依頼は終了した。



「……ってな訳で、お前らがそっちで色々やっている間に俺も危ない目に遭いながらも、バケモノみてぇに強えヤツに出会ったってのが話のオチだな」


「オチって、あんまりオチてねぇだろ。それ以上は何もわからなかったのか? せめて等級とか、そんなに強えならもっと噂になっていても良いと思うんだが」


「あぁ、だから冒険者組合や酒場にいた奴らに探りは入れて見たら、なんでも数年前ぐらいから『俺は強えから任せろ』って言いまくってるガキが色んな所に現れては依頼を受けていて、本当に強いってので一部の地域では結構な噂にもなっていたらしいぜ?『自称最強を名乗る生意気なガキが現れたと思ったら本当に強ぇ』ってので、1等級以上の実力なのは間違いないだろうってな」



「名前とかわかんねぇのか? 1等級のやつで赤髪ってならもっと名前だって広まっててもおかしくないだろ?」


「俺だって聞いてみたさ。でもよぉ、誰かが流したのか、勝手に流されてたのか名前が色々ありやがって、【ルイス】だの【ガイ】だの【クレセンス】だの【サイカ・リーガル】だの、予想以上に出回ってやがって正確なのが分かってねぇんだとよ」



「でもそんな強い人が冒険者の中にもいるんですね~?」


「あぁ、だからこそ魔王が冒険者のフリして潜入してきているとか言ってるやつまでいたぐらいだ」


「魔王がわざわざ冒険者のフリなんてしねぇだろ?」


「ははは、でもわかりませんよ? 魔王は強さで決めているんですよね? 前の東の魔王は人間だったって聞いてますし」


「あそこは別だろ? 結局は戦争によって討伐されてるしよ」



 名前の通り魔の王。

 魔族を従える王様で、魔族は強さで物事を計るので、場合によっては人が魔王になってしまう事もある。


 全世界で、魔王の席は人の王と違い4つしか存在しておらず。

 それぞれ4つの方角にちなんだ東の魔王などといった呼び名で知られている。



 その魔王の中でも、東の魔王を除き、他の魔王はあまり好戦的ではないため、世界は比較的安全だ。


 北の魔王は、数百年といった単位で発見報告をされていないため、姿を記した者もなく、死亡していて交代しているのなら、もっと何かしらの出来事があってもおかしくないが、その様子もない。

 西の魔王は、魔族の住みやすい国を100年以上前に作ってから、人間だろうが拒否することなく住む権利を与えているが、姿は見た者はおらず、想像上の絵で描かれているぐらい。

 南の魔王は、他魔王と違いかなり有効的でアルストラス国周辺の街によく現れているらしいが、姿を変える力があるとかでこちらも想像上の絵で描かれているものしか見たことがない。


 そして、残る東の魔王。

 こいつは歴代戦い好きが王座を狙い争いを行っているらしい。

 力さえあれば、たとえ人だろうが魔獣だろうが王になることができる。


 好戦的なものが多く集まるため、かなり荒れているらしく、中途半端な実力の持ち主が立ち寄ると二度と戻ってこれない。


 そう言われていたが、数十年前についていた人間の魔王が、各地に攻め入り過ぎたため、近隣であったバルストルガ帝国がかなりの兵力を上げて魔王を討伐したが、そろそろ新たな魔王が生まれてもおかしくないと言われている。


 魔王たちが住む地域は、人には暮らすことが本来難しい環境で、そこら中に魔獣も居るため長く滞在すると体調を壊す者が多いのだ。

 だからこそ、手をこまねいてしまう。


 

 魔族たちを含み、なぜ東以外の席を狙わないのかは解明されていない。

 北なら行方知れずな事もあり、わざわざ東の座を狙わなくても良いと思うのだが、北の大陸地方はどこよりも魔獣の脅威度が高いため、人も殆ど暮らしていないのだ。


 国を挙げて時折調査に向かうが被害は毎回大きいらしい。

 だから魔族も住みたがらないのではないだろうか。



「とりあえず、俺に起きたことはこんなもんだ。そして次が最後だな」


「ははは、ようやくジン君にとって嬉しい話が聞けるみたいですよ」


「お兄ちゃんにとって嬉しい話しってなんだろ? 昔の知り合いが来てるとかですか?」



 先程までのグレイブによる奴隷の話、そして自称最強の本当に強い冒険者。

 どれももっと詳しく聞きたいがそろそろ良い時間になっている。


 アオに至っては、すでに眠たいのか話を全く聞いておらず食事を済ましたと思うと目を閉じ、コクコクと頭を揺らしている。


 話を聞いている間は短く感じていたが、すでに長い時間が経っていたようで夜もより深くなる。



「だな。今日は良い時間だし、さっさと聞かせてくれよ」


 そういって俺は自分の目の前にある酒をいっきに飲み干して、話を聞く用意をする。


「お前の大好きな【ジェシカ・ベルフォーラ】がこの街に来ているらしいぜ?」


「ミーシャ、明日からしばらく街を離れるぞ」


 俺はすぐさま立ち上がり、財布から金を取り出す。



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