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異世界の物語  作者: もぐな
第⒉章
55/71

37.

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 気がついた時にはもうそこに居た。


 小さな部屋に石の壁、鉄の柵が人の通れる唯一の出入り口。

 向かいにも同じような部屋がある。

 壁には大人が手を伸ばしても届きそうにない小さく空いた窓口、日の光や雨風、そちらか入ってくるが、多いわけではないので、部屋の中に限らず、見渡す限り暗い。


 部屋もよく変わるし、人も良く変わる。


 親っていうものが皆にはいるらしいけど、自分の親という人は見たことがない。


 物心ついたときには手には鉄の輪っかをはめられていて、ここか似たような場所での記憶しかない。


 部屋の中には色んな見た目の人がいたけど、自分と同じ目を持った人はいなかった。


 今よりもっと小さい時に、一緒の部屋になった人に言葉を教えて貰った。


 言葉は難しかったけど、言葉の意味を少しづつ覚えていくことができた。

 いつの間にかその人はいなくなっていた。


 自分達と違って鉄の柵の外を自由に歩き回る人達からご飯を貰う。


 みんな、お腹が減っているから一杯食べたいって思ってたけど、あんまりくれなかった。


 ご飯を忘れられた事もあった。

 ご飯を同じ部屋の人に取られた事もあった。

 少しでもお腹がいっぱいになるようにとゆっくり食べてると無理矢理取られることもあった。


 だから、一人の部屋の時が一番安心できた。



 柵の外を歩く人達に時々、呼ばれる。連れて行かれる。


 普段見慣れない人の前に、いつもより明るく、名前もわからない物が沢山の部屋に連れて行かれる。

 あれは、話で聞いた本ってやつかな。


 そんな事を思っても口にはしない。

 したら怒られる。


 来ている服を脱がされて、体を見られて、何か話をしているが、自分には難しくてわからないし、結局部屋に戻される。



 戻る前や戻った後も部屋の中で叩かれたり蹴られたりするけど、今日はあんまり痛くなかった。



 自分はこんな事をしてたのにどうして捕まったんだ。

 どうして奴隷になってしまったんだ。


 部屋のあちこちでそんな声が聞こえるときは、新しい人が入ってきた合図。

 いなくなる時はいつの間にかいなくなってる。



 一緒の部屋にいた、同じ歳ぐらいだって言っていた子は、だんだんと話さなくなって、ご飯も食べなくなって、いつの間にか部屋からいなくなっていた。


 自分が叩かれていて、それをかばってくれた人は、どこかに連れていかれて、次の日にはボロボロで戻ってきた。

 その人も数日でいなくなった。



 優しい話方をしてくれる人もいた。

 自分にも同じ歳ぐらいの子どもがいた、一緒に連れてこられたんだといっていた。

 母親だから心配だ、自分の分も食べて良いと言ってくれた。

 その人も知らない間に居なくなって戻ってこなかった。



 時々、部屋を変えられる、同じ部屋の人に殴られたこともあった。

 この人は、あの人よりは痛くない。

 だからまだ耐えられる。



 痛いと叫べば、もっと強く殴られる。

 だからじっと我慢して、満足するまで待つのが唯一できる事。



 今日は、外を歩いていた人が加えていた火のついた臭いものを自分の上に落とした。



「……ぁああ!!!」



 熱かった。

 いつ以来かわからないが、思わず大きな声を上げてしまった。



「おい聞いたか? このガキ、全然反応しなくなってきたし、気色悪い目のせいか全く売れねぇ。もう処分しちまおうと思ってたが、なんだよ、ちゃんと反応しやがるじゃねぇか! 熱かったか? おい、聞いてるか!? どうせ売れねぇんだ、ならこいつでもう少し遊ぼうぜ!」


 その日から良く、熱いものを押しつけられるようになった。


「ああぁあぁあああ!……あぁあ!!! やめ……たすけ……」


「ハハハ! こいつはいい! お前らもやんねぇか? 商品だからよぉ、あんまり目立つ傷はつけたく無かったんだけど、こいつならもういいだろ!? なんならそっちの趣味があるやつに売れるかも知れねぇ!」



 最初は小さい焼き跡。


 だんだんと大きくなっていく。

 腕を焼かれた。

 お腹を焼かれた。

 背中を焼かれた。

 顔を焼かれた。



 自分の焼ける匂いは、本当に臭かった。



 泣いても、声を出しても、暴れても、無意味に、抵抗できる程の力なんて自分にはない。

 殴られるのも嫌だけど、こっちの方が痛みが続く、服に焦げ跡がひっついて、服も脱ぐことも痛い。


 今日も一生懸命逃げようとした。それでも押さえつけられる。

 腕を思いきり押さえつけられて、嫌な音が聞こえる。



「ぁあああ!」


「んだよ、いきなり腫れてきたな、折れたのか。まぁ、ほっときゃ直るだろ」



 痛みが続いて、動けない時。

 体が熱を帯びて、咳も止まらない。

 焼かれても悲鳴一つあげるのがやっとな日。


「んだよ、つまんねぇな。てかさ、お前のその目なんだよ、いい加減気色悪くなってきたわ。旦那はほっとけっていってたけどよぉ、そんな目があるから売れねぇんだよ。潰しちまうか」



 抵抗なんてできない。

 どうせ見えてもない目のような何か。


 あっても無くても関係ない。

 逆に、今日はそれで許してくれるのか。



 男は、先の尖らせた字を書くときに使うものを胸のポケットから取り出す。

 男の手は、瞼を無理矢理開けてくる。


「最近は何しても反応がわりぃ、飽きてきてたんだよなぁ。たまには言い声聞かせてくれや!」


 男は目に向かって腕を振り下ろす。



「は?」


 振り下ろされる手は、いくら見慣れていようが、普段と違い、刺そうとしてくる。

 さすがに怖くなり見える方の目も振り下ろされると同時に閉じてしまっていた自分にはわからない。



「んだよ、おめぇ、どうなってんだよ、なんで刺さらないんだよ。は?」


 男は尖った先を使い目を幾度かつつく。


「意味わっかんねぇ、その目どうなってんだよお前。そいや、顔も焼いてるだ、そん時になんでその気色わりい目が無事だったんだよ。意味わっかんねぇ、きめぇ」


 男はそういって立ち上がり、どこかにいった。



 それからは、焼かれる事もなく、殴られる事は少なくなった。

 単純に反応がある人に変わっただけで、よく別の部屋から悲鳴が声が聞こえる。


 目は気色悪いといった理由で、瞼を縫い付けられたが、何も思わない。

 同じ部屋になった人もよく言っていた事。いらない何か。


 今日もご飯は、ほとんどもらえない。




 水で体を軽く洗うが、臭いなんて服にしみついて取れない。

 やけどの跡は耐えれる痛さに変わっていた。



 いつもより人が多い。

 たぶん、移動するんだ。

 そんな声が聞こえてくる。



 鎖に繋がれて、馬車に乗せられる。

 自分は一番最初に詰められた。



 他の人達は不安そうな声で話していたり、嘆いていたり。

 自分の顔を見て気持ち悪がる人もおり、話しかけてはくれない。


 話しかけていらない。


 どうしてこんな風に生きてるのかわからない。


 生きてるって何かわからない。


 死ぬって動かなくなること。

 それは寝ている事と違うらしいけど、わからない。


 痛くないなら死んでもいい。

 ご飯を一杯食べれるなら死んでもいい。

 色んな人が言ってた家族ってものがあるなら、自分も欲しかった。

 でも、叶わない。



 自分は奴隷。

 奴隷は人ではない。

 人でないなら家族はいらない。



 男らがいっていた意味を理解できるようになる。

 どうせ買われても同じ事をされて死ぬだけ。

 生きるって何だろうか。




 馬車の布には小さな穴が空いており、そこから外の風景が見える。


 空気が綺麗。


 外には憧れた。

 でも奴隷の自分には叶わない。


 この風景だけが生きてきた中で一番の楽しみかもしれない。



 死ぬまでこれの繰り返し。


 話した人、自分に話してくれた人はみんなどこかにいく。

 優しくしてくれたと思ったら、次の日には殴られた。

 信じるって言葉は、人でない自分には関係ない。



 なら、いつ死んでもいい。




 いつもより長距離の移動。

 馬車の中で大きな声を出すことはその場で殺される。

 だから誰も出さない。

 でも、もうそれでもいいかな。そんな風に思っていた。



 目を閉じて寝ていると色んな声が大きく聞こえてくる。

 殺されるとわかっているはずの自分と同じ奴隷の『モノ』達。



「あぁあああ!」

「頼む!ほどいてくれ!!」



 どうしてそんなに騒いでいるのだろうか、日の光が先程と比べものにならない程、顔を照らす。

 上を向くと、大きな顔の何か。

 話で聞いた事のある、魔獣というやつ。



「……ぉ、きぃ……」


「おめぇら!うるせぇ! クソォ! なんであいつ魔獣になんてチョッカイかけやがったんだ! 旦那ももう助からねぇ! くそぉお!」



 なんとなく分かってしまった。

 死ぬんだろう。

 怖くない。



 まだあんな風に生き続けるなら、魔獣のご飯になって上げた方がいいんじゃないかな。

 目の前にいるモノ達に比べると一番美味しくないと思うけど。


 なんでみんなそんなに大きな声を出してるんだろう。

 不思議。



 どうせ痛いなら一瞬だけ痛い方がいいのに。


 目をつむり、自分の順番が来るまで待ってよう。

 いつでもいいよ。



 早く終わりたい。


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