28.
結局のところ、急ぎでもなかった事と街方面に向かう馬車がもう1日遅れて出るということだったので、翌日も村に滞在することになった。
ミーシャは釣りが面白かったのか、2日目も同じような流れで時間を過ごす。
一昨日と違う点は村の子供たちもおり、なぜか混ざって釣りや会話をしていたぐらいだ。
「きっと二人は夫婦なんだよ!」「兄弟っていってたよ?」「でも獣人なんでしょ?」「僕は恋人同士だって聞いたよ?」
と、会話はあちらこちらに飛んでいき、こちらから否定しても数秒後には別の話題に変えられてしまっている分たちが悪かった。
翌日の朝、村の中に荷馬車が目立った。
といっても、買い物をしていたのか店主に対して早くしてくれと大き目な声で話をしている声が宿の中からでも聞こえてきたからだ。
外を覗くとしっかりと中を隠すようにしている荷馬車が3台、連なるように止まっており、物資の補給をしているようだった。
大きな荷物を運ぶにしても、冒険者を連れてはおらず、馬の操作を行っている御者も店主に対して大きい声を発している者はそれなりに裕福な恰好をしており、あと2台の荷馬車を扱っている御者に至っても、それなりに綺麗な服装をしているように見える。
「お兄ちゃん、何かあったの?」
「ん? たぶん商人が期限の早いものを運んでいるんじゃねぇかな? 俺たちも後で街方向に行く予定の馬車があるみたいだから、荷物しっかりまとめとけよ?」
「は~い! 私の事よりお兄ちゃんこそ大丈夫? またアレがない!とか言って取りに戻るなんて嫌だからね?」
「そんなこと滅多に……おいミーシャ! 俺の冒険者証どこにおいたかわかるか!?」
会話の最中、そんなに忘れ物などするわけが無いと思ったが、念のため荷物の確認をするが冒険者証が手元にないことに気がつく。
再発行する事は可能だが、結構な時間がかかるため、その間は依頼を受けることが出来なくなる。
ミーシャが来てからは完全に無くす事はなくなったが、過去に1度だけ本格的になくしたことがある。
冒険者証は身分証明書の変わりになるが、情報はそれなりに設定されているらしく、俺なら【獣人のジン・オルトリア】背格好は等と全くの別人が使う事はできない。
大切にしているが、ふとしたとき適当な所に置いてしまい、どこにいったか分からなくなる。
「もう! また~?」
ミーシャは仕方ないなといった風に呆れながら魔法を唱える。
「いやー、本当にその魔法便利だよな、俺も覚えようとしたんだけど、細かい事はやっぱり苦手だったわ」
「はいはい、もう!」
ミーシャが魔法を唱え、一度右目を手で押さえる。
その手をゆっくり離すと目の先には小さな魔法陣が発生している。
「えーっと、あった! 絶対放り投げたでしょ! じゃないとこんな所に落ちないよ!」
部屋の中に設置されている棚のある机の裏側にあったようでいそいそと冒険者証を取り出してくれる。
「そんな記憶はねぇんだけどなー、それでも物探しの魔法って使えると便利だよなー」
「でも、ほんの少しの間しか見えないからね~、近くにあってくれて本当によかったよ!」
と、もう無くさないで欲しいと言ったように少し乱暴に拾った冒険者証をこちらに押しつけてくれる。
ミーシャの使った魔法は対象の物を探すといった魔法。
目前に魔法陣を、まるでメガネの様に視線を通すことによって、1度でも見たことのあるモノを探す事が出来る魔法。
モノというのは、もちろん物であり者である。
上手く発動させることができなかったが、小さくて細く、そんな【糸】の様なナニかが見えるようになり。
それの先端に自身の探す為に思い浮かべた対象が繋がっている。
発動者の力量によってしまうが、距離の離れすぎている場合や、しっかりと対象を意識できていない場合は発動しても曖昧な方向になってしまう時もあるし、持続して使う事も難しいので、近くにあればかなり有益、器用な者ほど上手く使うことができる魔法だ。
逆に、中途半端に使える場合なら方角が定まらないので良くはない魔法である。
「これだけの為にミーシャと一緒に旅に出てるって言っても差し支えねぇな」
「あ! ひっど! 次無くしても絶対に使ってあげないんだから!」
「うそだって、あんまいじけんなよ」
そういって魔法は解けたようで、魔法陣は目の前から無くなる。
自分で解除する事ももちろんできるが、ミーシャが継続して使えるのはおおよそ1分ほどらしい。
それだけでも近くにあるモノなら十分だから助かる。
採取な討伐の対象を探す際も役に立つこともあるが、結局の所個体差ってのがあるせいで一長一短ではあるのが唯一の欠点だ。
一瞬だけ外が騒がしくなっていたが、それも知らぬ間に過ぎており、最後に村を出ると言うことを子どもたちであったり、少し喋った程度の人に対しても挨拶をする。
この辺りも、特別義務ではないのだが、ミーシャが「お別れするんだから、あの子たちにも言っとかないと!」っていう謎の義務感から軽く挨拶を交わしている。
変にしっかりしているのか、やりたい事をしているだけなのかわからないが、やりたいのなら付き合ってやってもいいと思ってしまっているのも不思議だ。
一人の時なら間違いなく何もせずに過ぎ去っている村だしな。




