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おおよそ帰宅してから一時間が経つ頃。
「そろそろかな」
俺は先程と変わない服装で自室を出る。
私服でいつも通りの服装。これが一番動きやすい。
「ミーシャ? 準備できたか?」
ミーシャの部屋を叩くも返答が返ってこない。
寝ているのだろうかと思い部屋の中へ意識を集中させてみるも人の気配を感じる事が出来なかった。
自分から言い出しておいてと思い、念のため部屋の扉を開けると紙が一枚床の上に放り出されていた。
『先に行ってるからちゃんと来てね!』
どうせなら一緒にいけばいいのにどうして別々に行く必要があるんだ。
だが仕方ない。元々いくつもりだったのだから行かざるを得ないだろう。
広場は実家から徒歩で10分もかからない距離にある。
雑草や木も良く生えており、誰かが置いたのかもわからない机や椅子まで端の方に備えられている比較的大きな空間。
時間帯のせいなのかあまり人がおらず、ミーシャの姿もすぐ発見することができた。
「おいミーシャ、なんで先に行ったんだよ?」
「ふふ~ん、そ・の・ま・え・に! 言うことあるんじゃないかな?」
人を置いていった割には随分と偉そうに胸を張りながら言葉を求めてくるミーシャ。
男の自分からしたら服なんて着れて、動きやすくて、ある程度まともそうに見えるなら何でも良いのだが、軽い着替えだけにでも時間をかけたがるのだから、褒めて欲しいのだろう。
服装は半袖に丈の短めなズボン、そして肌の露出を控えるため太ももまで覆う長さの靴下を履いている。回った店の中にはスカートだったり、もっと肌の露出面が多い服もあったが許可しなかった。
結局のところ、選ぶのを手伝ったと言うよりも、ミーシャ自身が着比べて、それの感想を言わされていただけなのだ。その中で駄目なものは駄目だと言ってはいたものの、結局の所自分で殆ど選んでいたので今の服装もミーシャの趣味であり俺の趣味趣向で選んだものではない。
「はいはい、似合ってる似合ってる。さすがミーシャ。可愛い可愛い」
「でしょでしょ! もっと心を込めて褒めてくれてもいいんだよ~?」
「精一杯褒めてるつもりなんだけどな」
「まぁいっか~」
「でと、対決するっていってたけど、なんだよこれ」
地面周辺にはいくつかの魔方陣が描かれた跡があった。
自身の魔力を込めながら魔方陣を実際に描くことによって、その魔方陣に向かって魔力を込めるとその場から魔法の発動を促すことが出来る。なので、罠として使う事は可能であるが、なかなか使い勝手の悪いものだと聞いたことがある。
まず、大きな魔法の場合、魔方陣も自然と大きくなるため見つかりやすく、ある程度消された段階で使い物にならなくなる。逆に小さいと威力に期待できない。
そして、魔獣に限らずだが、必ずしもそこを通るとは限らず、自動で発動させれないため、全て自分の意志で使わないといけない。多少なりとも器用であるか、魔力の多い者でないと離れた場所に魔力を込めると言うことは難しいので俺は使おうと思わない方法である。
「ぇっと……何のことかな~? そんなズル私がする訳ないなよ?」
「なら消しても問題ないな」
靴で地面を擦り、いくつかの魔法陣を消す。ミーシャは何か言いたげなのか「ぁ、ぅぅ…」と小さく呟いているが強くいってこない。
準備とは着替えだけでなく、自分の有利になるための下準備も兼ねていたとは、随分とセコイ事をするなと思うが、勝つために罠でも手段を選ばない所には素直に感心してしまう。
「……でと、対決ってのはどんな条件でするんだ?」
「ん~と、相手に先に触れるか、一撃でも攻撃を当てたら勝ちってことにしようとおもったんだけど、もう一つ条件があります!」
「条件?」
「そっ! 負けた方が勝った方の言うことを1つ聞くってのでどうかな?」
「いやいや、散々買い物に付き合ったじゃねぇか、まだ何か買わすつもりか? さすがにキツいんだが」
「あれ~? お兄ちゃん、もしかして負ける前提なの?」
「逆に聞きたいんだがなんで勝てるって思ってんだよ、これでも3等級の冒険者なんだぜ?」
「っていってもなったばっかりでしょ?」
「いやそうだけど、こんなバレバレの罠なんてあると分かったら掛からないぞ?」
「だ~か~ら! それは私じゃないったら! やるの? やらないの!?」
「わかったわかった、もうそれでいいからやるぞ」
2人は距離をとる。ついでに目についた魔方陣は靴で擦りながら消して。
消す度に先程と同じようにミーシャの方から「ぁぁ…」といった小さな呟きが聞こえなくもないが無視しておこう。
「こんなもんでいいか、開始の合図はどうすんだ?」
ミーシャは屈み転がっている石を拾い上げ「じゃぁ、これを投げるから、落ちたら開始ってことでどうかな?」
俺は左手を挙げて了解したという合図を送る。武器は使わない。訓練の中には模擬刀を使ったりもするが、どこにしまっているかも必要だとも言われてなかったから持ってきておらず、極力ケガのない方法として用いられる対決法。
「じゃぁいっくよ~!」
ミーシャは腕を振り上げ「えいっ!」っと石を放り投げる。
その石は2人の中間に当たる箇所に落ちそうであるが、投げたと同時にミーシャは魔法を発動させるため片腕を前に突き出す。開始と同時に魔法を放つのだろう。
こちらもそれに伴い腰を落とし動き出すための初期動作に入る。
1対1の場合、先手をとれた方が圧倒的有利であり、この対決条件についてなら先手必勝。
正面は魔法を直撃してしまうため、回り込む。それを見越してそこら中に魔方陣を描いていたのだろうが、あることがわかっていれば避けるのは難しくない。
ミーシャの投げた石は地面とぶつかる。




