図書館から
僕はレン・ニベア。
いずれ全ての魔法を使い、最強となるであろう魔法使いの卵だ。父はクーラ国の国家魔導師団団長で、城住まいのボンボンだ。
今日誕生日を迎え15歳となった。15歳って言えばもう立派な大人だ。大概の平民は15歳になると親の仕事を継いだり冒険者として故郷から出たりする。
例に漏れず、15歳を迎えた僕は冒険者として城を追い出されることになった。
2時間前までは僕はいつも通り城の中の図書館で本を読んでいた。
本を読むことは、僕の日課である。もはや息をするのと同じくらい当たり前となっていた。寝て起きて、本を読み、そしてトイレでも本を読み、飯を食って寝る。
そんな生活を10年以上続けてきた僕は、『大いなる知識』というスキルを手に入れるに至った。
このスキルは全ての魔法の使い方が分かるという素晴らしいうえに唯一無二のスキルで僕の自慢だった。
それがきっかけだろうか僕はとても鼻が高くなり、性格が傲慢になっていった。
そして今日いつものように、本を読みながら
「おいメイド、飲み物を持って来い。いつものやつだ。」
と命令する。
そばに控えていたメイドの一人が
「はい、ただ今お持ち致します。」
と、少し駆け足で取りに行った。
本来メイドとやらは走る姿は見せない。品に欠け、はしたないと見られるからだそうだ。
だが待たされると機嫌がすぐに悪くなる僕のことを知るメイドは、走ることをいとわない。しかもベテランになればなるほどその速さは増す。
今日のメイドは動きが遅い。おそらく最近メイドになったばかりの新人だろう。しかももともとどんくさいのか、ただジュースをコップに注ぐだけなのに手間取っている。イライラとしてくる。
「おい!メイド、ジュースはまだか!」
「少々お待ち下さい、すぐにお持ち致します。」
お盆にジュースと菓子をのせて、新人メイドは走ってくる。
盆を支える手はフルフルと震え今にも落としてしまいそうだ。
あっ、ほらそんなに急いだら溢すだろう!
心配したとおりメイドが転ぶ。
ジュースが並々注がれたコップが宙を舞う。そして綺麗な弧を描き…
ガッシャーン
見事僕に命中する。
顔を上げた新人メイドの顔がどんどん青ざめていく。
事態を理解したようだ。
ここで怒っても仕方ないだろう。急がせたのは僕だし、菓子も添えて来る気遣いに免じるとしよう。
「服を拭けるものを。それと新人、新しいジュースを準備してくれ。頼むから次は溢さないでくれ。」
「はっ、はい!」
新人メイドはまた駆け足でジュースを取りに行った。
まったく…。二度手間もいいところだ。荒立った気持ちを落ち着かせるため、再び本を開き頁を繰る。あぁ、本はいい。
その時、図書館ではあまり見かけない兵士が数人こちらに歩いてくるのが見えた。
そして僕の前まで来て言う。
「レン・ニベア、クーラ王がお待ちだ。ついて来い。」
いったいどうして、どいつもこいつも僕が本を読むのを邪魔するんだ。そう思いながら王の待つ王室に向かった。
「レン・ニベア、たった今到着しました。」
王様の親衛隊と思しき兵士に王室まで連れてこられた僕は、扉の前で少し身なりを整えてから王の前に行き、出来る限り威勢よく言った。
「よく来たな、レン・ニベア。図書館から出てこないから分からなかったぞ。大きくなったじゃないか。今何歳だ?」
「今日で15歳となりました。」
なんの事で呼び出されたかと思ったが、歳を聞いてくるなんて考えてもいなかった。もしかしたら成人の祝として何かしら授与されるんじゃないか?
スキル『大いなる知識』を手に入れた時も祝の品として魔法使いの杖をもらった。杖はかなりいいもので平民が逆立ちしても手に入らないような高級なものだった。
成人の祝はいったいなんだろうか。はっきり言って杖なんて要らない。僕は魔法なんて杖がなくても使えるだろうし、そんなものより禁書の保存されている宝物庫の鍵とか禁書自体が欲しい。
なんてことを考えてニヤついてしまう。
そんな僕に王が言い放った言葉は衝撃的だった。そして絶望的。
「そうか、ではもう自立出来る歳なのだな。レン・ニベア、お前を城外追放とする。」
「はあ!?」
あまりに突飛な言葉に面食らい、馬鹿みたいに高い声が出た。
いや、おかしい。父さんは魔導師団団長であり、王との繋がりも濃い。その息子の僕が城外追放?
いくら王が考えたことだとしても、父さんが一石を投じるにちがいないはず。
そんなことを考えている僕に王は言う。
「レン・ニベアよ、このことは、儂の友であり、魔導師団団長のお前の父ヴァイス・ニベアの提案だ。どうにもお前は父の名の下で好き勝手しているらしいな。これでは駄目だと考えたらしい。」
マジかよ…。
いつも同世代の子供にイジメられていた僕を図書館に連れて行ってくれていた父さんが…。図書館に引きこもりっぱなしの僕を、勉強しているのか、偉いなって褒めてくれていた父さんが…。
そして王様は改めて言った。
「レン・ニベア、お前を城外追放とする。」
こうして僕は図書館から、お城から追い出された。