転生チートな赤ずきんちゃんは狼さんに食べられたい。後日談。
書きながら思ったこと。
ジューンブライド終わっとるやんけ(書き始めたのは6月末でした)。
日間16位ありがとうございます!
「……おばあさま、いってきます」
「…………ええ。幸せになりなさい」
「はい、勿論です」
祭壇までの道は後数歩。最後におばあさまを振り返って一礼する。
「今までありがとうございました」
返事はいらない。きっと彼女も困るだろうから。そう内心で呟いた私は一息に祭壇を駆け上がった。
「汝、人の子か」
逆流する世界。目を開けるとそこはいつもの森からは少し離れた所にある祭壇の中だ。
「はい、人の村より生贄に捧げられました。どうぞお食べください」
小さく笑いながら壇上にいる愛しい人を見上げる。
「もう食べないなんて言わせませんよ、狼さん」
これは一風変わった赤ずきんちゃんと狼さんのお話の後日談。
「うっわゴミ屋敷じゃないですか。私がいなくなる度にゴミばらまくの止めてもらえません?」
「…………うっ」
「はぁ……まずはここの片付けですね。ほら狼さん、ゴミ袋ください」
「りょーかい……」
私が狼さんと会ったのは10歳の頃。狼さんは当時18歳のケモミミの付いたお兄さんだった。そして紆余曲折があり12歳の頃になんだかんだで婚約(?)したのだが……
「狼さん、これ明後日までには片付けますよ。まったく、儀式の前日まで片付けとか笑えない冗談です」
このように駄目人間……いや、駄目狼を世話する私と引きこもり狼の日常は大して変わらなかった。……そう、15歳になったんだよ、私。なったんだけどね……?まったく手を出されない……いや、むしろ年をとるごとに距離感が遠くなるっていうか狼さんが逃げてくっていうか……。
とにかく。私は不満なのです。
一応宣言通りまぁまぁ体付きはよくなりましたし、ふとした瞬間に狼さんのことが好きだなぁ……なんて乙女チックなことを考えてしまいます。家に帰っても何をしていても結局は狼さんのことを考えていた、なんてザラにありますし。………でも、狼さんは?
「狼さん狼さん」
「ん?なんだ?」
「………なんでも、無いです」
狼さんは、私のことがちゃんと好きでいてくれているんでしょうか?
「マリッジブルーね」
「ええ、マリッジブルーよ」
「まりっじぶるー……ですか?」
紅茶を飲みながらお母様……いえ、お義母様とそのお姉さま、つまりは狼さんの叔父さんの奥さんであり私の曾お祖母さんにあたる方と話している時、相談してみた。
狼族は寿命が長く、婚姻の儀式と呼ばれるもので血の契りを交わして「互いの命の長さ」を合わせることとなる。どちらかが死ねば自ずともう片方も死ぬ、という契約だ。基本は人間側が狼側に合わせることとなる。身体に負担は大きいものの1週間あれば順応するようです。つまりは血の契りが結婚式にあたるようなんですね。
「でも……幸せの恐怖っていうよりも………」
愛されているのか不安になる。好きでいてもらえるのか不安になるんだ。狼さんは態度であまり示してくれる狼じゃない。そんな不器用な所が大好きでも、やっぱり……。
「……………どうします、姉さん」
「どうしましょうねぇ。だってこれはアレでしょう?」
アレ?と曾お祖母さんにあたる方……いえ、若いので姉様と呼ばせてもらいましょう。姉様を見ると彼女は苦笑しながら私の目を見ました。
「あれの属性、なんだと思う?」
「ケモミミ、引きこもり、コミュ症、あ、あとヘタレです」
「そゆこと。ヘタレているだけなのよ。……それで女の子を不安にさせるなんて最低だけどね」
残された紅茶を一息に飲み干し、姉様は溜息をついた。
「久しぶりの人間のお嫁さんって誰かと思ったら私の曾孫なんだもの、驚いたわ。……それで、一言先輩から教えてあげる」
お義母様に目配せした姉様は苦笑いしながらある事実を教えてくれた。それは、確かに納得せざるを得ないもので。
「…………なる、ほど」
「だから気にしちゃ駄目よ、ヘタレは所詮ヘタレなんだから」
「そうよそうよ。むしろこっちから襲う気概でいなさい」
狼さんの家族に激励された結婚式前日、昼下がりのことだった。
「……………おい、これどういう状況だ」
「ということで襲ってみました」
「何が“ということで”なんだよ。さっぱり分からん。取り敢えず退け」
「いーやーでーすー。退きませんから、ちゃんと言ってくれるまでは」
夕方。色々準備をしにお義兄様達と話してきたのであろう狼さんに私は襲いかかった。マウントポジションゲットだぜ。あ、そうそう。今はお義母様の実家に狼さんの血族の人狼達が勢揃いしているんです。寿命が長い分、皆暇らしくて。地域によって狼の扱いは違いますが独りでいるのが嫌な狼はこの実家に残ることが多いらしいですね。……だからお義母様が「実家に知らせてくる」と言った次の日に狼さんの家に大量の人狼さんが押し掛けたんですよね。懐かしいです。ですが今はそれよりも、です。
「………すげぇ嫌な予感がするんだが」
「酷くないですか、狼さん」
「普段の行動を見返してから言え」
「爆竹投げたり銃乱射してるだけじゃないですか」
「だけ、じゃねーからな!?俺何度か殺されかけたからな!?」
あぁ、そうだったなぁ。私はこの人に殺されるのが嫌で狼さんを殺しに来たんだ。その後狼さんと友達になりたくて通って、それで好きになって。その気持ちに気付かないうちにお義母様にそれを気付かされて、それで婚約。
「狼さん、“好き”って言ってください」
「……………………は?」
「“好き”って……一言だけで良いですから。狼さん、まだ一回も言ってくれてないんですよ?」
私ばっかり好きになる。私ばっかり彼に好きって伝えている。狼さんが過去の私を好きでいてくれたことは分かる。でも、今は分からない。私が不安だったのは、“好き”の一言も彼は言ってくれなかったからだ。そう、気付いてしまった。
「…………狼さん、お願いします」
ねぇ、狼さん。私、今どんな顔してるんでしょう。笑ってる?泣いてる?どんな表情でしょう。それは死のうと思った“私”に“狼さん”という存在が教えてくれた感情なんです。刷り込みのように彼に依存して、懐いて、彼を好きになって。でもこの気持ちに彼が向き合ってくれるか、不安だった。前世も含めて『恋』なんてしたことの無い私のこの感情は、きっと重い。それに気付いて彼が私から逃げることだって容易に考えられた。そんなことを堂々巡りに考えていたせいか、涙が滲んできた目で彼を見下ろす。それと同時、狼さんが溜息を吐いた。それに私はビクリと身体を震わせる。かと思えば、彼はその震えを塞ぎ込むかのように大仰な仕草で抱きしめた。
「なんつー顔してんだよ」
「っ………」
「好きだよ、大好きだ」
………狼さんは、ずるい。こんなたった少しの言葉で私を揺さぶって、有頂天にさせて。私の頬にあたる狼さんの耳がいつも触っているものよりも熱いのは気のせいじゃない。何度も抱きついたから、何度も触れたから間違うはずがない。
「狼さん狼さん」
「…………何だ」
「私を食べてもらえますか?」
狼さんの身体にまわした両手から身じろぎする気配が伝わる。私の身体を離そうとするその身体をぎゅっと力を込めて押さえ込む。答えてほしい。この言葉だけは聞きたいんだ。でも私の今の顔は見られたくない。きっと真っ赤な顔をしている。狼さんに好きって言ってもらえたことをまだ引きずっているなんて乙女かと自分にツッコむ。もっと冷静な私はどこに行ってしまったんだろう。……顔を見られるのが恥ずかしい、なんて。馬鹿みたいだ。
「………おい。手、放せ」
「……だが断る、です」
「あのなぁ。こういうのって目を見て話せって言われなかったか?」
「生憎とうちの母にあたる人は教育なんてものしなかったので」
ポンポンと飛び出す口はいつも通り。おかしいのは感情に支配された口以外のこの身体だけだ。
「はぁ」
再度の溜息が聞こえたと思えば世界が反転した。
「………へ?」
「くくっ、顔真っ赤。林檎みてぇ」
私が狼さんを襲ったのは与えられた狼さんの部屋。前世の和室を彷彿とさせる柔らかい床の部屋だ。……痛くない。下にあるの、毛布かな?…………あれ、もしかしてこれ。
押し倒されてませんか?
「お、狼さん!?」
「ん?何だ」
「何だじゃなくってえっとあれ……!?」
パニックになった私は動こうと試みる。……が、失敗。私の足と足の間に狼さんの膝が入り込んでいるし片腕は狼さんの腕に塞がれているし出来ない。
「ヘタレのくせに……」
「ヘタレで悪かったな。……でもこうして見るとお前小さいよな……」
「狼さんも成長期にジャンクフード食べてたから小さいじゃないですか」
「うっせぇ。お前よりはでかいだろ」
こんな状況でも口だけはいつも通りだ。……他は、もうきっと見ていられない。押し黙って真剣な顔をした狼さんの瞳を見つめる。その瞳に映るのは、もう「いつもの私」じゃない。
「おお、かみさ──」
「食べるに決まってんだろ」
沈黙に耐えかねた私の言葉を遮って言われたのは望んでいた言葉。狼さんの瞳に目を見開いた私が映ったかと思えば、その瞳が近付いてくる。
「んっ………」
避ける間も無かった。いつかされた額へのものなんかじゃない、本物のキス。一瞬だけ私の唇に触れたそれはすぐに離れていく。
「……………もう我慢出来ない」
「えっちょっ、狼さん、明日血の契り交わさないとなんじゃ……」
「無理。オフクロに薬でも貰っときゃ良いだろ」
「いやでも………!」
急に活動的になった狼さんに慌てて反対する。食べられたいのは確かだがそれは今じゃない。明日、大事な儀式があるのだ。流石に駄目だと思い止めに入る。
「…………駄目、か?」
………が、心なしか元気の無くなった狼耳と沈んだ声色に私は反抗を諦めた。
「………もう、好きにしてください……!」
結論。狼さんは狼さんでした。
狼達の結婚式にあたる血の契りは滞りなく終わりました。狼さんがナイフで躊躇無く手の平を傷付けた時にはビビりましたが。その後に自殺を思い出して固まった私の血を出すために噛みつかれたので迷わず殴ったこととかはもう些細な問題ですよね。
「………で、お前何で無事なの?」
「忘れていたのですよ、自分の丈夫な身体チートを」
そう、昨日のあれとか儀式の反動とかは大怪我に分類され即座に治ったようなのです。確かに風邪はひいても大怪我とかは無かったものね。……あれ、これもしかして自殺してても死ねなかったオチじゃないかな?…………………うん、知らなかったことにしておこう。
「それよりも、その、良いのですか?」
お義母様のくださった緑茶に似たお茶を啜り、懐かしい味に心を落ち着かせながら問いかける。思い出すのは私を励ましてくれた姉様の言葉だ。
「……その、何が起きても離れることが出来ない呪い、とか」
それに選ばれたということはそれだけ「一緒にいても良い」と考えられていること、と言われた。狼同士の婚姻ならば人間のものと同じで離婚も可能になる。だが、人間と狼の婚姻……つまりは血の儀式の場合一生別れることが出来ない。というより、何があってもある程度までしか離れることが出来ないという呪いがかかる。
……ぶっちゃけ、そこまで重いのはどうかな、と。私的には全然問題は無いが狼さんは──
「別に良いだろ。お前は嫌なのか?」
「へ?」
思わず狼さんを見るとその顔は赤い。……つまり、これはアレだ。私といても良いという……
「狼さんがデレた」
「うっせえ。お前はどうなんだよ」
真っ赤な狼さんに返す言葉は決まっている。
「………もちろん、大歓迎ですよ」
この狼を好きになって良かった。私はきっと何度でもそう思うことになるのだろう。
「……というお話でした。そんなにこの話好き?」
「うん!お母さんがお父さんのこと大好きなんだって分かるから!」
「お父様もお母様のこと、大好きだよね!」
息子に突然話を振られた狼さんが緑茶もどきを吹き出しかけたのを視界の片隅で捉える。顔真っ赤ですよ、旦那様。色々ぼかし入れながらも当時狼さんに語ることの無かった本音を混ぜながら話したのに照れたのだろうか。相変わらず照れやすい人だ。
「いいなー、私もお母さんみたいな恋してみたい」
「うーん、取り敢えずヘタレは内心ドキドキするから止めた方が良いかな?」
私、あの時凄く不安だったんですよ、旦那様。こら、目を逸らさない。こっち向いてください。
「僕、将来お父様みたいになりたいなぁ……」
「へぇ、どんな風になりたいの?」
「えっとねー、お母様を大事にするところ!」
だそうですよ。照れ屋ですけどちゃんとやる時はやってくれる狼さんですもんね。知ってます。息子にもちゃんと見られてたようで何よりです。
「あ、もうこんな時間!曾お祖母様のとこ行かなきゃ!」
「待ってよ姉様、僕も行く!」
かと思えば突然走り出した愛しい子達は狼さんに出会った頃の自由気ままな私を連想させる。
私は子ども達の残していった物を片付ける手を止め、大好きな人に抱きついた。
「旦那様旦那様、今何考えてます?」
「……………懐かしいな、って」
何が、と言わなくてもお互いに通じ合っているのは分かる。幸せな今はずっと続く。“赤ずきん”は“狼さん”と森の奥でずっと幸せに暮らしていくのだ。
Q. この小説を書いている時の裏話を教えてください
A. いやー、最初書いてたらほのぼのしすぎて「ん?」って思ったんですよね。それで武器入れてみたら違和感が解消されましたね!ちなみに最初の設定では銃でした。某グリムノ○ツで赤ずきんと赤ずきんを主人公にセットして遊んでた時に「銃を使う赤ずきんが見たい」と、のたまっ……失礼、呟いたのが最初です。
Q. 連載の方の更新が遅れているようですが……
A. マジですみませんっした。難航中です。あ、誤字でなく。
Q. ここ最近で一番驚いたことはなんですか?
A. 通学時のバスで前の席にいた通勤中と思われるお姉さんがこの話を読んでいたことです。「なろうだー……赤ずきんだ…!?」と二度見しました。ブクマありがとうございます。
Q. そういえば新しい童話を作ったとか……
A. はいはい、白雪姫を作りました。王子は死体愛好家なんで怖いのでカット。小人(仮)の「逆ハー?ちげぇよ保護者だよ」という話です。今作……いえ、今まで書いた作品全て以上にジャンルがコメディです。もし少しでも興味を持ってもらえば読んでいただけると幸いです(*´▽`*)
そしてジャンルは悩みましたが一応恋愛です。でも恋愛相手が……
Q. どんな方なんですか?
A. 一言で言うとニート希望です。残りはオカンとタラシとツンデレと兎と自由人と腹黒い敬語とヤンデレです。 一応男子校に転校した男装女子高生というベタベタな設定なのに……どうして……。あ、兎はがち目に兎です。一人だけホラー雰囲気醸し出してます。
Q. なんかもうどうでも良いので一言どうぞ。
A. おいお前この前の「登場人物が病んでない」発言といい最近の扱いが酷くないか、そもそも白雪姫の設定だってお前が考えて渡してき(フェードアウト