俺と黒瀬の作戦会議
4限目の終わりを意味するチャイムが鳴り響くとともに、教室がわーっと騒がしくなる。
そして、その教室の真ん中に俺がぽつんと座っている。俺は何年前に誰かと昼食を共にしたのだろうかと考えては見るのだが、全く記憶がない。というか、一緒に食べたことがない。
しかし、今宵それは終わりを告げる!
今日は黒瀬と弁当を食べるのだ。
といってもただ一緒に食べるのではなく、昨日契約が成立したあとに「作戦会議がしたい」と言われたからだ。
放課後には俺は陸上部、黒瀬は弓道部とお互い部活があるため昼休みにということになったのだ。
だから、今日はボッチ飯ではないのだ。
教室を見渡したが既に黒瀬の姿はなく、もう先に向かっているのだろう。
遅くなれば迷惑がかかってしまうので俺は弁当片手に早足で教室を出て急いで目的地に向かおうとするのだがすぐ誰かに声をかけられた。
「おーい、蓮ちゃ~ん!」
その明るい声と呼び方ですぐに瑠璃だとわかった。
「おう、なんだ瑠璃?」
「なんだ?ってこっちのセリフだよ~」
「なんで?」
「だって蓮ちゃんを昼休みに廊下で見かけるんだよ!?」
「なんでだよ!昼休みに俺が廊下歩いてちゃダメなの?」
「ダメなんじゃなくて、珍しいな~って」
「まぁ、たしかにそうだな」
「それでさ、蓮ちゃんどこ行くの??」
「あぁ、ちょっとさく…」
「さく?」
「さささ、桜見ながら弁当食いたいなーって思ってだな…」
「今、満開だもんね~」
「だ、だろ?んじゃ行くわ」
「うん、それじゃまたね~」
あ、あぶねぇ…ついつい『作戦会議』なんて言葉を口に出してしまうところだった。それにこの契約のことを知られれば黒瀬に怒られそう…まぁ、隠し通せたかな?と思いながら階段を下っていると後ろから瑠璃の声が聞こえてきた。
「蓮ちゃんが桜見ながらご飯?…なんか変だな~」
なにか聞こえて来たような気がしたが俺は知らん!幻聴だ、幻聴だー!っと自分に言い聞かせながら俺は機械科棟の裏へ向かう───
購買の前を通り機械科棟に沿って歩く。
そして一番端で角を曲がる。
そこにはぽつんとウッドベンチとウッドテーブルが置かれていた。
ここは知る人ぞ知る隠れスポットだ。
そしてベンチには一人の少女の姿が。
その少女は木々の奥にある池をボーッと眺めている。近くの林からサーっと風が吹き抜け、それと同時に桜が舞い、青みがかった黒髪がなびき、それを片手でそっと押さえる。
また、もう一方の手には紅茶が注がれたティーカップを持っていれば一枚の絵画のようにも見えるのだが…
その手に持っているのは残念ながらコップ式水筒のコップだった。
これじゃあせっかくの絵が台無しだ。
こういうのはアニメだとお嬢様系キャラがティーカップ持ってお茶会してるのが普通でしょ?…とくだらないことを考えながらジーっと黒瀬を見ていると俺の視線に気づいたのか黒瀬がこちらに気づいた。
「何をしているの?真那加くん」
「お、おうなんでもない。」
そう言って俺は黒瀬と向かい合う形でウッドベンチに腰を下ろす。
テーブルには黒瀬の手作りであろう美味しそうな弁当が広げられていた。
それをまじまじと見ていると自分の手作り弁当を見られるのが恥ずかしかったのか、さっと自分の膝の上に移動させた。
「早く食べないの?作戦会議の時間が短くなってしまうわ」
「お、おう。そうだな…」
俺は慌てて弁当を広げる…とともにため息が出そうになる。
今日も味のついていないブロッコリーとトマトが2つ、レンジでチンした冷凍食品が…っと食べ飽きたおかずをご飯と一緒に口へと運ぶ。
そして俺はふと思う。
これはいつものボッチ飯とほとんど変わらないということに。
二人で食べているのだが特に会話もなく、いるもいないもかわらない。ただ場所が変わっただけだ。
こういう時、何か話したらいいのかも知れないのだが、話す内容が思い付かない…
そうこうしているうちに俺も黒瀬も食べ終えていた。
「ふぅー」
黒瀬が吐息をつく。
「それでは、作戦会議を始めましょう」
「…作戦会議って言っても具体的に何するんだ?」
「そうね、では真那加くん」
黒瀬はそう言って俺をじっと見てくる。
「は、はい?」
「今、クラスの子と仲良くなるにはまず最初に何をすべきだと思う?」
「う~ん…」
俺は今までの経験を総動員させてなんとか絞り出すことができた。
「…人気者になる?」
しかしその考えは黒瀬にコテンパンに潰された。
「はぁ…、あなた小学生みたいなことしか考えられないのね」
「うるせぇー、誰かと仲良くなったことなんてないからわからないんだよ!」
「それは私もよ。仲良くなったことなんてないわ」
そう言って黒瀬は胸を張る。
張るのだがまな板ガールだからか、胸は張っていなかった。
「お前、それって堂々と言うことじゃないだろ」
「小学生の考えよりマシよ」
「ううっ…で!結局すべきことって何なんだ?」
「それは『クラスで自分のキャラを確立する』とうことよ」
「なるほど、キャラか」
「キャラなら俺もお前ももう確立できてるんじゃないか?」
「俺はボッチキャラ、お前は刺キャラ」
もうね、確立できてる上にキャラ立ちすぎてクラスで浮いてる存在まである。
「はぁ、呆れたわ…あなた変わる気が全くないのね」
「そうだ!俺は変わらない!」
俺はドヤッとした顔を黒瀬に向ける。
黒瀬はこめかみを押さえながは俺をみる。
…俺は昨日、黒瀬と契約は結んだ。
だが、俺は今を貫くと言ってだ。
だから俺は変わろうとしない。
「あなたが変わろうとしなくとも、私の考えには従ってもらうわよ?」
「おいおい、それじゃただの契約じゃなくて服従契約じゃねぇか」
「服従契約ではないわ」
「今のあなたは私よりはるかに人間としてどうしようもない状態だわ。だから、まだマシな私に従ってもらうということよ?」
ねぇ、今黒瀬さん俺を人間として終わってるって言ったよ?ひどくない?黒瀬の方が人間としてひどくない?…
黒瀬が言ったことを簡単に言うと、「契約は結んだ。しかし、俺の方が人間として終わっているため私に従いなさい」と言うことだ。昨日の契約はなんだったのか…平等なんて言葉、存在しなかったのだろうか…
「お前…」
「何かしら?」
勝ち誇ったような笑みで黒瀬は俺を見てくる。
今まで見たことのないような綺麗な笑顔なのだが…それがまた癪にさわる。
「可愛いけど、その顔やめろ」
「…」
黒瀬は何も言わずに顔を反らした。
まだあまり親しくもない男子にそんなことを言われ嫌で怒っているのか、黒瀬の頬は少し赤くなっていた。
それからしばらくの間が空き、黒瀬が小さく咳払いし、口をひらいた。
「それで、キャラを確立するということなのだけれど、キャラといってもたくさんあるわよね?」
「そうだな、まぁ自分にあったキャラの方がいいだろうしみつかるまでコロコロ変えてみるのもありじゃないか?」
「そうね、では期間は1週間。自分にあったキャラを確立することに尽くしましょう」
「1週間か…長いなぁ…」
「それじゃ、自分に合いそうなキャラがどんなのか考えましょう」
「そうだな~、俺なら───」
それからしばらく話し合い昼休みは終わった。そしてこの作戦は明日から開始されることになった。
梅雨が開けて最近とても暑くなってきました。
私はクーラー、扇風機ガンガンかけた部屋で毎日過ごしているので涼しいです!!←夏バテする典型的な人
それではまた次回水曜日or木曜日に!!