虹空
深夜に思い付きでダラダラ書いてたら長くなりましたすみません…‼︎
雨音が次第に強くなっていく。
一つため息を吐いてカーテンを閉めた。
今日は会えると思っていたのに。
「ごめん、やっぱり行けそうにない。」
電話があったのはほんの数分前。
仕事が終わりそうに無いから?
そう。
じゃあ彼女のところにも行かないのね?
…本当に?
そんな事言えるはずも無く。
分かった、
なんて聞き分けの良い女を演じる。
バカにしないでよ。
気付かないとでも思ったの?
いつもと違うキスも
いつもと違う愛し方も
ねえ、どこで覚えて来たの?
しばらく会わない内に。
そうね
もう3年経つのね。
始まりはあんなに純粋で
無垢だったはずなのにね。
いつから変わってしまったのかな。
わたしも、あなたも。
「だからって俺を呼ぶのもどうなの?」
そう言って目の前の男はタバコを揉み消した。
「だって、祐樹しか居なかったし。」
「お前相変わらず友達いねーのな。」
「うっさいなー。」
祐樹は幼馴染み。
保育園の時からの親友。
そして祐樹の言う通り、私には祐樹以外にちゃんとした友達なんていない。
上辺ばっか。
そんで彼氏の浮気相手もその上辺の内の一人だった。
「なんだっけ、そのカナちゃん?って可愛いの?」
「知らん。」
「知らんってお前の知り合いじゃねえの?」
「そうだけど、可愛いかどうかは知らないよ。私は好きな顔じゃないけど。」
「でも彼氏の好きな顔って事だろ?」
「そーゆー事でしょうねえ。」
あー涙出そう。
なんでこいつはこうやって人の痛いとこ平気で突っついてくんのかな。
遠慮無いっていうか。
「カナちゃんとはいつから浮気してんの?」
「一年くらい前から。」
「うっわ、そんなん早く別れろって。なんなん、お前ドM?それとも悲劇のヒロインに酔ってんの?」
「違うし‼︎」
思わず机をバン、と叩いてしまった。
ちょっと痛い。
…胸の奥も痛い。
とか言っちゃって。
「そんなに彼氏の事好きなん?」
「うーん…」
「なんだそれ。」
「多分、意地。ここまで付き合ってんの初めてだから。」
「このまま付き合ってたら結婚とかすんの?」
「うーん、多分。」
「カナちゃん付きで?」
「うわ、キモ。」
私が心の底から嫌がってる表情を浮かべたのを見た祐樹は無表情のまんま2本目のタバコに火を付けた。
「でもタケル、私が相当惚れてるって思ってるっぽい。」
「あ、彼氏タケルっつうの?」
「うん。え、知り合い?」
「いや知らねえよ。」
「は?じゃあ何その反応。」
「いや名前初めて聞いたなーと思って。」
「そうだっけ?」
「多分。それか興味無かっただけかも。」
「それだわ、絶対。」
「だろーなあ。」
ふふ、と笑う祐樹。
昔からの癖だね、その笑い方。
祐樹の笑い方、昔から凄く好き。
言った事は無いけど。
「で、タケルの前でもこんな感じなの?」
「こんな感じって?」
「喋り方とか態度とか?」
「まさか。超良い女だよ。純粋で素直で可愛い彼女を3年努めてる。」
「キッモ‼︎」
「うるさいなー。タケルいつも言うよ?緋奈子は世界一可愛い女だって。」
「ちょ、彼氏とそんな会話してんの?ありえねー‼︎乙女ゲーかよ‼︎マジ鳥肌立ったわ‼︎」
「マジ失礼‼︎」
私が怒鳴ってんのに祐樹、めっちゃ笑ってるし。
と思ったら急に真顔になって私の目を見てきた。
「で、タケルさんはその世界一可愛い女のヒナを蔑ろにしてカナちゃんと浮気してんだ?」
あ。
そうだよね。
私の事を世界一可愛いっていくら言葉で言ったって
今は私じゃない女を抱いてるんだ。
あの男は。
「…タケル、ムカつく。」
「泣くなって。」
「泣いてないし。」
「はいはい。」
私の頭を優しくぽんぽんとしてくれる祐樹。
ずっとそうだった。
親に叱られた時だって
失恋した時だって
挫折した時だって
いつも隣にいたのは祐樹で
いつもこうやって慰めてくれた。
「私、祐樹いないと生きていけないかも。」
「何言ってんの?キモいから。」
そう言いながらも抱き寄せてくれるくせに。
「祐樹、私と結婚してよ。」
「彼氏持ちには興味ねえよ。」
「祐樹とだったら私幸せになれる気がするもん。」
「聞いてる?俺の話。」
顔をあげたら優しい顔で私を見つめていた。
「…泣いてんじゃねえよ。」
くしゃくしゃって頭を撫でながら少し笑ってくれる。
「ねえ、祐樹の事好きになりたい。」
「えー、めんどくせえなあ。お前まで浮気かよ。」
「だってもういい加減幸せになりたいもん。」
「幸せじゃねえの?タケルさんはヒナを世界一可愛いって言ってくれるんでしょ?」
「…幸せじゃないもん。タケルとじゃ幸せになれないよ。」
「お前ホントにクズだなあ。タケルさんの事好きじゃねえの?」
タケルの事?
分かんないよそんなの。
タケルだって私の事好きか分かんないもん。
ホントになんも分かんないんだ。
3年間ウソばっかりだったから、お互い。
「ちゃんと話し合って来な。話はそれからだわ。」
「…うん。」
それから一週間後。
タケルが私の為に時間を空けてくれた。
カナちゃんはいいの?って嫌味も言いたかったけど我慢した。
待ち合わせ場所はいつもデートに使ってた二人のお気に入りのカフェ。
もう2度と来る事も無いんだなって思ったら急に切なくなった。
「緋奈子、久しぶり。ごめんな最近仕事忙しくって。」
久しぶりに見たタケル。
見た目だけは相変わらず綺麗だね。
見た目だけは。
「ううん、ごめんね忙しいのに時間作って貰って。どうしてもタケルに会いたかったの。」
「緋奈子はホントに可愛いな。」
それはどこまでが本音なの?
私もだけど。
「ねえ、タケル。私に隠してる事ない?」
「え?」
「私ね、全部知ってるよ。」
「何の話?」
「私さ、タケルが思うような可愛い女じゃないの。すっごく性格悪いんだ。」
「どうしたんだよ。」
タケルの目が泳いでる。
ホント、ウソが下手ね。
そういうとこが可愛くて好きだったりもしたけど
今はただ単にウザいだけかも。
「タケルはさ、私とどうなりたい?」
「緋奈子と?これからも仲良くしていきたいよ。ゆくゆくは将来の事も考えていきたいし。」
「そうなんだ。」
私の冷め切った反応にかなりビックリした顔してる。
「…じゃあさ、カナちゃんとはどうしていきたいの?」
「え」
「え、じゃないし。カナとどうしたいのって聞いてんの。」
やべ、素が出そう。
でももういいか。
もう演技する必要もないもんね。
そう思ってふう、とため息をついたらタケルの肩がビクッと震えた。
こんな情けない男だったっけ?
「私さあ、あんたが思うよりバカじゃないんだよね。上手に騙せてると思ってた?」
「いや、あの、」
「私はさ、ずっとタケルの事好きだと思ってたし、タケルも私の事好きなんだって思ってずっと我慢してたけどもう限界かも。」
「緋奈子」
「そのキモい声で名前呼ばないで。…カナにも呼んでる声で呼ばないでよ。」
気付いたら涙出てた。
そっか、私やっぱりタケルの事好きだったんだなあ。
今更ちゃんと気づくなんてね。
ホントにクズだわ、私。
「私さあ、タケルとは幸せになれないみたい。私も女だしさ、それなりには幸せになりたいんだよね。だからタケルとは違ってちゃんとケジメ付けてからって約束してきたの。」
「え、誰と」
「は?誰とかあんたには関係なくない?てか私も賭けだしね。その人が私の事好きになってくれるか分かんないし。」
「何それ…」
「そうだ‼︎タケルも応援してよ。その人が私の事好きになってくれるようにさ。私も今からその人の事好きになるつもりだし。だから浮気じゃないっしょ?あんたと違ってさ。」
こんな事言って、全然筋が通ってない事ぐらいは分かってる。
頭悪い事言ってんなーって事も分かってる。
タケルも納得いってなさそうだし。
それに祐樹がこんなバカ好きになるとも思えないし。
でももうこれ以上惨めな女にはなりたくない。
一年以上も騙されて浮気されてまで我慢して可愛い女演じるみたいな可哀想な女にはなりたくない。
そう決心させてくれたのは間違いなく祐樹なの。
そういやタケルに会う前に祐樹に連絡したっけ。
そしたら
「しっかり戦ってこい。これ以上クズな女にはなるなよ。」
って言われた。
ごめん、やっぱ私クズかも。
最後までいい女ではいられなかったよ。
「タケル、3年間お世話になりました。可愛いってずっと言ってくれてた事、ウソでも嬉しかったよ。」
「ウソなんか…」
「私タケルの事ホントに好きだったみたい。こんなに好きにさせてくれてありがと。」
「緋奈子…‼︎」
「バイバイ。」
そう言って机の上に千円札を置いて、タケルも置いてカフェを出た。
泣くな。
絶対泣くな。
幸せになるんだから。
祐樹に報告したら何て言うかな。
またバカにされるんだろうな。
ぐん、と背伸びをして空を仰ぐ。
雲ひとつない青空がどこまでも広がっていた。
緋奈子が予定よりダメ女になってしまいました…。
そのうちタケル視点、祐樹視点、カナ視点も書けたらいいなあと思ってます。
まあ思ってるだけで実際には分かりません。
私もそこそこのクズなので(笑)。