暗雲
皆様こんにちは
今回は休日をテーマに書いてみました。
僕はある一つの問題にぶち当たっていた。
土曜日は学校が休みでノープランな上に工藤さんに会えないのだ。
取り敢えず、明後日からの部活内容でも決めようとしていると、新着メール
が携帯に届く。
見ると工藤さんからではないか。
『今日、空いてる?部活の事で話しがあるんだけど、会えないかな。』
勿論、答えはイエスだ。
早速出かける準備を整える。お気に入りの紺のジャケットを着る事にした。
数分後、待ち合わせ場所の駅に着いた。
人混みの中、彼女の姿を探すと「こっちこっち〜」
呼びかけられ振り返ると、工藤さんでは無く、何故か
央が其処にいた。
私服姿は上下ジャージで学校指定シューズを履いている。
昨日のカミングアウトを思い出すと、服装の女子力の低さに驚く。
「央じゃないか。今からランニングでもするの?」
するとキョトンとして、「呼んだのは俺っちだよ?」
「はい⁉︎」
携帯を確認しても、メールの送り主は工藤美四になってるのだが。
「なに〜 俺っちじゃ不満なんか?」
膨れっ面で僕の腕をがっちりホールドする。
「あんまり引っ付くなよ」
「ん〜 聞こえんよ〜」
ぎゅうぎゅう身体を押し付けてくる。
ヤバい、胸が当たってる‥‥って!
「周りには男同士に見えるかも知れないだろ」
小声で央に言う。
「‥‥‥。」
央は涙目でウルウルと僕を上目遣いで見る。
コイツが女子だと改めて思うと案外、可愛い。
「分かった。で、何処かで何か食べながら話す?」
「うん‼︎」
僕らは近くのファミレスに入った。
席に着くと、ジュースとフライドポテトを注文する。
携帯を取り出すと、央の目の前に突き出しメールを見せる。
ビックリした顔をしている。
「これは、どういう事なんだ?」
「なんや?美四っちからやん」
あくまで惚けるつもりか。
「俺っちは、たまたま大和っちを見かけて声をかけた
だけやけど‥‥」
その頃、駅には工藤美四が大和の姿を
探しながら待っていた。
かれこれ30分以上は待っているが現れない。
清楚なフレアスカートを揺らし、髪は普段は下ろしているが気合いを入れて
ポニーテールにしてみた。
双葉くん、もしかして来るのが嫌になっちゃったのかな?
「君さぁ、可愛いねぇ」
野太い声に驚き振り返ると、派手な格好の男が二人立っていた。
腰に付けたチェーンを不快にジャラジャラ鳴らしている。
「暇そうだねぇ。お兄さん達とちょっと遊ばない?」
嫌です、と言おうとするが怯えて声が出せない。
「おい」目配せする男。
「うい〜」すると、もう一人が強引に美四の腕を掴む。
華奢な腕にギリギリと男が力を込める。
痛みと恐怖に顔を歪めたその時。
「工藤‼︎」
正義のヒーローの如く大和が現れた。
「双葉くん‥‥!」
驚いた男を押しのけ、大和の傍に駆け寄る。
「連れがいたのかよ‥‥」「ちっ、シラける」
男達は諦め退散して行った。
「ありがとう 、双葉くん‥‥」
ホッとした様子の工藤さん。
「約束しただろ?僕が君の面倒を見るって。」
にっと笑って彼女に言う。
キマッたぜ。
「実は央も今日は一緒なんだけど、良いかな?」
「央くんですか、勿論大丈夫ですよ」
僕らはファミレスへ向かった。
先程の男二人はチェーンの音を鳴らしながら、次なる獲物を
探していた。
「ねぇお兄さん達。私と遊ばない?」
珍しく声をかけられ、見ると人混みから小柄な少女が現れた。
へへっと笑いながら「ワリィがお子様には興味ないんでな」
そう言う一人の腹に向かって拳をねじ込ませた。
少女の倍程、身長のある男が今の一撃で倒れた。
呆気に取られ動けないもう一人に向かって
「金輪際、さっきの可愛い少女に近付くな。さもなければ
お前もこうするぞ?」
鬼の形相の彼女に寒気が走り「ひ、ひゃい(はい)」
と答えるのを確認すると、少女は人混みへ消えて行った。
周囲に誰も足を止める人はい無く、忙しそうに彼らを避けて通り過ぎるのだった。
ファミレスでは三人で部活について議論していた。
「飼育部の主な活動内容なんだが、これを見て欲しい」
大和は束になった原稿用紙を取り出し二人に見せる。
「真面目なんだね‥‥双葉くんって」
目を丸くして用紙を眺める工藤さん。
「暇人なだけやん もぐ」
口にフライドポテトを一杯に詰め込んで話す央。
「口に入れながら喋るな。用紙に唾が飛ぶだろ」
言った直後に吹き出す央。
「なっ、何やってんだよ」
ゴホゴホむせ込みながらテーブルの用紙を全て鷲掴み
「これ、ごっつヤバい‼︎こんなもん読ませたらアカンわ〜」
と訴える。
「僕の傑作をぐしゃぐしゃにするなー」
「なんやねん、何処ぞの官能小説かこれ」
「けど飼育すると言ったら、縄に首輪に‥‥「言ったらアカーン‼︎」
必死で遮る央。
いつもボケ役なのに、知らぬ間にツッコミのスキルを身に付けたらしい。
恐るべし。
「とにかく始めに美四っちの意見を聞くのが妥当とちゃいますか」
僕らのやり取りを黙って見ていた彼女に尋ねる。
「工藤さんは、どう思ってる?」
「わ、私は‥‥その‥‥」
おどおどしている素振りは子犬のようで、とても可愛い。
「何でも言って良いんだよ」
「ご主人様の命令に従い‥‥ます」
顔を赤らめながらそう言う彼女に、興奮を隠しきれずに
自らコップの水を頭からかぶる。
「大和っち⁉︎」
「‥‥気にするな、ただ頭を冷やしただけだ」
ぽたぽたと雫を髪から垂らしながら言う。
クスっと微笑んで工藤さんが僕をハンカチで優しく拭く。
女の子らしい花柄の刺繍が入ったハンカチだ。
「あ‥‥ありがとう‥‥」
「先程助けて頂いたお礼です」
そんな二人を複雑に見つめながら、思いついたように手を叩き
「そうや!三人で行きたい所があるんやけど、今から行かへんか?」
お会計は遅刻したお詫びを込めて全額払った。
急かす央に連れられて、次に向かったのは熱帯魚専門店。
薄暗い店内に入ると、水槽に入った色とりどりの魚達が出迎えた。
「きれい‥‥」
見惚れる工藤さん。
「な、そうやろ。大和っちは、こっち来て」
水槽を見つめる工藤さんを残して奥へ進む央。
仕方無く僕も後を追い奥へ入る。
「俺っち、お魚が好きなんやぁ」
嬉しそうに水槽の中で泳ぐ熱帯魚を見つめている。
「見るのも食べるんもなぁ」
にへらと笑って言う。
こういう場所でその発言はアウトでは‥‥。
「なぁ、この子欲しい!」
と目の前の【グッピー】と書かれている水槽を指差す。
「この子を飼うのは飼育部として、おかしは無いやろ?」
「確かにそうだけど‥‥」
僕は財布の中身を確認する。
「一匹だけなら」
観念してそう言うと目を輝かせ、抱きつこうとする央。
「ありがと〜 大事に育てるさかい♪」
「ちょっ離れろって」
店員の目を気にしていると、工藤さんが走ってきた。
「二人とも此処にいたんだね。あの、さっき携帯に家族から電話があって‥‥
先に帰らせてもらいますね。」
「そうなの?なら近くまで送るよ」
行こうとする僕を店員が呼び止める。
「こちらの熱帯魚のお会計は‥‥」
忘れるところだった。
「すぐバスに乗るので、ご心配なく。ではお先に」
後ろ姿の彼女はポニーテールを揺らしながら、バス停へ向かって走って行った。
うなじが眩しく見えた。
目を細めて彼女の姿を見送っていると、肘で脇をつつかれた。
央と店員が口を揃えて「会計」と僕に言った。
その後、グッピーを手に入れた央は意気揚々と帰り、僕は一人
空の財布を手に、トボトボ歩いていた。
「あのー」
声をかけられた方を見ると、小柄な少女ーーいや少年が立っていた。
少女と見紛う顔立ちだが、制服から金魂高校の男子生徒だと
分かる。
何処か知り合いと似ている気がする‥‥。
「これ、バス停で拾ったんだけど」
ノートを持っており大和に見せる。
日記帳のようだ。
「どうやら君のクラスメイトの物のようだし、返してあげて
くれないかな。」
「僕のクラスメイト?」
「そう。あと呉々も中を見ない方が良いよ」
顔を曇らせて口角を上げる彼。
一瞬、ゾクリとした。
「それじゃ、よろしくね」
僕の手には謎の日記帳が残された。
帰宅した工藤美四は日課のアレをしようとしていた。
だが肝心の日記張が見当たらない。
「おかしいな‥‥」
バッグや引き出しの中を探していると、携帯電話が鳴る。
見ると兄からだ。
急いで電話に出ると優しい声色で、彼女に話す。
「ちゃんと帰ってきたかい?」
「はい。てっきり家に居るとばかり思ってましたが、お兄様は
どちらに?」
「学校だよ。ちょっと先生に呼び出されちゃってさ、生徒会の用事でね」
あははと電話口から苦笑いする声が聞こえる。
「休みの日も大変なんですね」
「でも用事が済んだから、今から戻るよ」
「はい、気を付けて帰って来て下さい」
電話が切れると、なんだか疲れが込み上げてベッドに寝転がる。
今日は楽しかったな‥‥。
央くんは元気で、男子だけれど可愛い一面もあって。
双葉くんは優しいし、私を助けてくれて。
「‥‥‥大和くん」
いつか央くんみたいに双葉くんを、そう
呼んでみたい。
私はいつの間にか眠りに落ちた。
まさか私の日記帳を彼が持っているとは夢にも思わずに。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
グッピーちゃんってお値段いくら程するんでしょうかね。
次回もお楽しみに‼︎




