違和感
今回は少し変態チックな表現がありますのでご注意下さい。
いよいよヤンデレの予感‥‥。
まだ朝早い教室に日差しに包まれながら、書物を認める少女がひとり。
座れば牡丹の花に例えられそうな彼女は工藤美四。
サラサラ‥‥とポールペンの音だけが静かな室内に聞こえる。
美四はこの時間帯が静かで落ち着けて好きだ。
基本的に人付き合いが苦手な彼女だが、その美貌から学校で目立ってしまう。
「美四、何を書いているのかな?」
名前を呼ばれてビクリと肩が揺れる。
日記を書くのに熱中し過ぎて、いつの間にか近くに人がいるのに
気付かなかった。
その顔を見た途端、ホッとする。
「なんだ‥‥お兄様か」
お兄様と呼ばれた人物は、童顔でなおかつ女と見紛う程の可愛さで、彼女に微笑みかける。
「もしかして、また彼の事を観察して書いてるの?」
手元を覗き込もうとする彼に、急いでノートを隠す。
「やっ‥‥駄目です見ては」
「ごめんごめん☆」
笑いながら彼女の頭を優しく撫でる。
そして、前髪をそっと持ち上げ額に、触れるだけのキスをする。
「学校では止めてお兄様‥‥」
「ごめんごめん☆」
全く懲りる様子のない彼に呆れる美四。
「‥‥準備は整った。後は美四が頑張るんだよ。いつでも
守ってあげるから、ねッ」
そう言うとウィッグを鞄から取り出す。
これ蒸れるんだよね〜等とブツブツ言いながら慣れた手つきで頭に
装着する。
その様子を当たり前のように見つめる彼女。
「お兄様も生徒会、頑張って下さい」
去り際に振り返り、彼女を愛しそうに見る。
放課後、大和達は物置小屋に来て
二人で黙々と掃除をしていた。
「ふあ〜〜もう疲れたでやんす」
壁に寄りかかりながら不知火は僕に言う。
「作業の手を止めるなよ。さっきも休憩してなかったか?」
「ん〜大和っちが名前で呼んでくれるなら頑張る」
意外な事を言う不知火に少し面喰らう。
「‥‥央」
キュルリんと効果音が鳴った彼は、僕に抱きつき喜びを
表現する。
どこまでも慣れ慣れしい奴だな。
「やめろお前とBLするつもりはない‼︎」
「大和っちーw」
すると突然、奥からガタッガタッガタッと大きな音が聞こえる。
「ひゃあ!」
不意打ちに驚き、思わず彼にしがみ付いてしまい
「‥‥大胆やなぁ」
にんまり笑う彼を、無言で睨みつける。
恐る恐る音のした方に二人で向かう。
暗がりに、ぼんやり白いものが。
「何か、あ‥‥‼︎」
「ぎょえ‼︎」
散乱したダンボールと共に少女が倒れていたのだった。
傍に駆け寄り、上に乗ってるダンボールをどかして身体を起こす。
彼女は気絶しており、身体は火照って、息も荒い。
暗がりで顔はよく認識出来ないが。
「この人、ヤバイんとちゃいますの」
「ああ、身体も熱いし‥‥急いで冷まそう」
僕は躊躇いがちに制服のボタンに手をかけ、一気に引きちぎった。
「‥‥ほんとに大胆やなぁ」
彼女の白い肌が露わになる。
ゴクリと生唾を飲み込む。
「いっそコレも取っちゃう?」
ブラジャーのホックに手をかけようとする央。
最高の提案に僕は首を横に振る事が出来ず、ゆっくりと頷いた。
嗚呼、罪深い僕を許して下さい‥‥アーメン。
取り敢えず、僕らは彼女を運んだ。
日差しの元、彼女の顔もよく見える。
「えっ、君は‥‥」
数時間後、重い瞼を開き目が覚める。
私、此処で彼を待っていて、箱の山に当たって崩れてきて、
それからー‥‥
ふと寒気を感じ自分の姿を見ると、毛布が一枚被せてあるが
その下は裸だった。
暫し絶句する。
かろうじてパンツだけは脱がされていない。
何で、わたし、服は ???
「ちゃお、お目覚めっすか」
どこからか金髪の男が走って来る。
「こ来ないで下さ‥‥!」
その時、私がずっと待っていた彼が姿を見せた。
「大丈夫ですか、工藤さん」
私の前にしゃがみ込み、心配そうに見つめる。
距離が近付き、私の鼓動は苦しいくらい高なっていた。
今なら、言えるかも‥‥。
「あの‥‥」
言うなら今しかない。
「私を」
言うんだ、美四‼︎
「私を飼って下さい」
その言葉を発した途端、何故か硬直する彼。
私、何か変な事言ったかな?
目を泳がせながら、「もう一度言ってくれないかな」
と言った。
「私の事を飼って下さい‥‥」
再度そう告げると、彼は手を差し出して
「分かった、その願い聞き受けよう」
と嚙みしめるように言い私と握手してくれた。
お兄様、私は遂にやりました。
憧れの彼に飼ってもらえる事になったのです。
今すぐ彼に抱きついて、この喜びを知って頂きたい‥‥。
それから彼の事を沢山知りたい。
彼をたっぷり味わいたい‥‥。
「いいでしょうか、双葉くん」
「ん?(何がか知らないけど)勿論」
傍で見守っていた金髪男は「取り敢えず服着ようや」と
制服を返してくれた。
ボタン部分がボロボロで驚いていると「コイツが悪いんやで〜」と
双葉くんを肘でつつく。
どうやら倒れた私をこの二人で介抱してくれたらしい。
「ご迷惑をおかけしました、ありがとう二人とも」
お辞儀すると、ハラリと毛布が離れ落ちて胸が露わに‥‥
「ええんやで〜 ぶほッ」
耐え切れず鼻血を噴射し、そのまま倒れる金髪男。
「彼は不知火央。隣のクラスの奴で、部活仲間なんだ。」
「央くん‥‥」
鳥のさえずるような可愛らしい声で名前を呼ばれた央は
幸せそうな表情のまま果てた。
「そう言えば‥‥生徒会長とは友達かなにか?」
突然出てくる、あの人の名前に飛び上がる。
「な‥‥なにか?私はよく彼女の事知らないけれど」
私はシラを切るも声が震える。
「そっか‥‥ううん、なら良いんだ」
私は制服に着替えながら、動揺を彼に知られないように隠す。
あの人の事はくれぐれも秘密にしておかなければ。
例え、双葉くんにだって‥‥。
「工藤さん、僕が君を飼うにはこの部活に君を入部させる
けれど、良いんだね?」
「はい、ぜひ」
目を輝かせ頷くが、すぐに表情に影を落とす。
「私、幼い頃から身体が弱くて今日も気を失ってしまったんです。
二人にこれから迷惑を沢山かけるかも知れないけれど‥‥」
そう言う私の手を取る彼。
「心配いらないよ。僕が君をしっかり育てるから。」
彼から伝わる温かさに胸が一杯になる。
「つまり部活名は‥‥」
意気込んで彼は高らかに叫ぶ。
「飼育部だ」
いつの間にか目覚めた央が拍手している。
かくして部活名がようやく決まったのである。
双葉大和が自分のした発言を酷く後悔する事になるとは
この時はまだ知らなかった。
学校からの帰り道、ティッシュを鼻に詰め込んだ央とデレデレ
した顔の僕。
「飼って下さいなんて奴隷発言、実はMなんやね彼女」
「さぁね、何でも良いじゃないか」
僕にして見れば天から降ってきた天使、女神。
彼女の前では格好付けていただけで内心興奮しまくりだった。
「ねぇ大和っち」
唐突に歩みを止め、惚けた僕を真顔で見つめる央。
「ん、どうした?」
「俺っち‥‥実は」
彼は制服のボタンに手をかけると深刻な顔つきになっている。
「な‥‥何だよ」
僕にまで緊張が伝わり声が上ずる。
「好きや、大和っちが」
「は⁉︎」
涙ぐみながら央は、まくし立てるように喋る。
「あの子ばっかり見てると俺っちの事を構ってくれなくなるやろ。そんなの
耐えられないんや‥‥。初めて会った時に大和っちに一目惚れしちったんやもーん。
だから野球部辞めて同じ部活に‥‥うぅ。」
「お 落ち着けよ」
だが彼は落ち着くどころか更に声を上げて泣き始める。
周囲の目が気になり、央を連れて近くの公衆トイレに
逃げ込む。
「どうしたんだよ急に。第一、僕らは男同士だろ?」
泣きじゃくる彼はその言葉に反応する。
「‥‥‥違う」
ボソりと呟く彼。
「俺っち女なんです‥‥」
「なっ、いくら何でも無理が」
そう言う言葉を遮るかのように自分の制服を脱ぎ始める彼。
コイツ此処でおっ始めようというのか⁉︎
今すぐ逃げないと貞操の危機。
「ほら」
ガバッと服を広げて上半身を見せてくる。
なんと胸には何重にも、さらしが巻かれており僅かな膨らみがある。
「ほら触って確かめるんや‥‥」
無理やり僕の手を取って胸へと誘う。
「アカーン‼︎」
関西弁で叫んだのは僕の方だった。
ビクつき、少し距離を置く央に告げる。
「こんなやり方、本当はしたくない筈だよね。でもお前を追い詰めてしまった
僕が悪かった‥‥。ごめん。」
謝罪する僕に「そんな‥‥悪いんは俺っちや」と言いながら、また涙が溢れてる
央を
思わず抱きしめる。
「‥‥‥あったかいなぁ」
そう言いながら笑っている。
僕はダイレクトに伝わってくる胸の感触に内心は悶えながら、
「これからも、友達でいような」
と央に言った。
ふと横を見ると僕らの前に小さな男の子がじっと、
こっちを見ている。
「ママー、お兄さん達が二人で変なことしてるー」
無邪気に大声でトイレの外に向かって叫ぶ。
「こら誠、邪魔しないで早くオシッコしたなら戻りなさい」
はーいと言いながらトイレを出ていく子ども。
有らぬ誤解をあの親子に招いてしまったようだ。
僕らは急に冷静になり、身体を離すとそそくさとトイレを後にした。
そのころ工藤家にて。
恋のライバルが誕生した事を全然知らない工藤美四は
上機嫌で日記を書いていた。
ノックをし、部屋に入ってくる兄。
「お兄様、聞いて下さい。今日ね‥‥」
「うんうん」
飛び付くように話してくる妹が、可愛くて仕方がない。
「私、双葉くんに飼ってもらえるんですよ。部活の間限定だけれど‥‥」
「うん?んん、飼うって美四を?」
大きく頷く彼女。
「そんな意味不明な部活なら、先生も生徒会も許可してくれるか‥‥」
「お願い、お兄様」
ぎゅうっと愛らしい腕でしがみ付かれれば、言葉が詰まってしまう。
「分かったよ。でも危険な事だけはしないでね」
「はい、約束します」
僕が顔を近付ける合図で、いつもの様に頬にキスをしてくれる。
続けて僕も頬にキスを。
本当は彼女の柔らかい唇を今すぐ塞いでしまいたくなるが、今は我慢
する。
「おやすみなさい、お兄様」
部屋を出て暫くしてから再度、部屋の前まで来る。
耳をドアに当てて彼女の寝息がする事を確認する。
起こさない様ゆっくりと中に侵入する。
机には日記帳が置きっ放しになっていた。
それを手に取り不敵に微笑む。
美四に悪いけど、事が順調に運び過ぎているのも問題なんだよ。
鳥籠の鳥はいつまでも籠の中に居ずに、いつかは飛び立つ。
でも、いざ飛び立つのを見送ると、離し難くなるんだよ。
「僕意外の鳥になっちゃうのを許せる筈無いよね」
小さな声で呟くと、日記帳を握りしめて部屋を出た。
読んで下さりありがとうございます。
次回もご期待下さいね。




