独りぼっちの夜
独りというものは、案外独りではないのかもしれません。
最後迄読んで頂けると幸いです。
手を広げれば辺りは真っ暗となる。
そしてそれを背にするように。
星達は競い合うように輝く。
月は大きく沢山の誰かの道を照らし続ける。
人々は上を見上げ。
そんな星や、月を楽しそうに見つめる。
暗いだけの夜の私等誰も見る事はない。
知っている。
暗闇はヒトの心の黒く染まったモノを誘発することを。
だから逆に忌み嫌われている。
私のいる意味は何なのか。
……それも知っていた。
必要ないってことを。
消えたい。
居なくなってしまいたいのに。
それでも毎日世界を暗闇に染める。
そうしなくてはいけないから。
決められたことだから。
だからそれから逃げるように。
私は俯き。
夜の隅にいた。
疎ましい私という存在を。
せめても誰の目にも映さないように。
なのに。
「……あぁこんな所で丸くなっていたのですね?」
誰かが私に話し掛ける。
それでも私は顔を上げること無く、そのまま顔を腕に押し付けていた。
「夜?どうしたのですか?」
このゆったりとした口調は顔を見なくても分かる。
月だ。
「放っといて」
「どうしてですか?」
「分からない?独りでいたいの。」
「……分かりません」
永遠に続きそうな不毛な言い合いに嫌気がさして、思わず私は顔を上げて月を睨む。
「星達は言うわ。暗いだけの私はヒトに悪影響しか与えないって。太陽だって!私が居なければ世界は明るいままなのにって言っている!」
心に溜まっている真実を月にぶちまける。
それでも月は笑いながらこちらを見つめてくる。
「あなただって!私なんか居なくても青空の中だって存在出来るじゃない!」
ポスッ。
気が付けば。
大きな手が無我夢中の、私の頭を優しく撫でていた。
「……例えばどうでしょう?世界が1日中太陽の下、青い空に包まれていたら?」
「……そんなの…」
「幸せ?果たしてそうでしょうか?人々は心からゆっくりと休むことは出来るのでしょうか?」
「それでも…人の心を黒く染めることは無いわ…」
月の問いに私は思わず目を伏せ、答える。
「僕はそうは思いません。あなたがいるから星達は輝いて沢山のヒトに希望を与えることが出来るのです。」
コツン。
不意に私の頭に月は自分のおでこを押し当てた。
「……!?なに!?」
動揺した私は逃げようとするが元々隅にいた為、逃げ場はなく。
しどろもどろとそれを受け入れるしかなかった。
「確かに僕は青空の下でも存在することは出来ます。ですがあなたの下でないと、ヒトビトの道を照らすことはおろか、皆僕を忘れるでしょう。」
優しい声が降ってくる。
「君が空を黒く染めてくれるから、星達や僕は存在していけるんです。そうしてヒトビトにも安らぎを与える事が出来る」
私が顔を上げると月は微笑んでいた。
「闇が在るから光が有る。そして、それに気付くことが出来る。君は沢山のモノを救っているのです。」
月の言葉に溢れる涙を止めることは出来なかった。
そんな私に月は私の涙を指で拭ってくれる。
「……どうして…。どうしてこんな私にそんな言葉掛けてくれるの?」
真っ直ぐと見つめると月は、ニッコリと笑いながらも少し困った風に
「……さて?どうしてでしょうね?」
と言ったのだった。
――――手を広げると空を夜に染める。
未だに好きになれない自分だけど。
必要と言ってくれるヒトがいるならば。
私は何度でも世界を暗闇で包もう。
私が夜でいる限り。
私が誰かに必要とされる限り―――。
―――fin
最後迄読んでくれて、ありがとうございました。