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【第15視】開設、文芸部サイト

 数日後の文芸部の部室。

「え? 監査」

 標智憂梨の言葉を俺は聞き返した?

「各部の活動状況について生徒会の監査が入るらしいの」

「ふーん、それで?」

「それで?――じゃない! 今の文芸部の状況を知ってるでしょう」

「状況って……、専属が智憂梨と俺。掛け持ちが星月。あとの十人の先輩は幽霊部員で顔も見たことない」

「そういう活動実績の怪しい部は、廃部にされるのよ」

「廃部に? ――ということは……」

「私の安住の地がなくなるということよ」

「おい、自分のことしか考えてないのかよ……」

「当然でしょう。もともと私は、放課後静かに過ごす場所がほしくて文芸部に入ったのだから」

「はっきり言うな……」

「それにしても困ったわ。実質部員が二・五人の文芸部、今のままでは廃部の可能性は少なくない」

 掛け持ちの結束星月は〇・五人扱いか。

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

「実績を作ることね」

「実績?」

「たとえば、私か透が文学賞を獲るとか」

「それ、どう考えてもいきなり無理でしょ。そもそも、よその高校の文芸部って、何してるんだ? どの高校の文芸部もみんながみんな文学賞獲ってるわけじゃないだろ」

「透にしてはまっとうなこと言うわね」

「どんだけ俺への評価低いんだよ」

「まあ、物語を書いて……、冊子を発行したりとか、新聞部の出す新聞に短い物語を書かせてもらったりとか、そんなところじゃないかしら」

「冊子か……、それって、印刷して製本して、ある程度の数作らなきゃなんないんだろ? 費用もかかりそうだし、大変じゃないか」

「そうね。でも、昔から文芸部って、そういうものよ……」

「昔からか……」

 こないだは、昔は携帯電話がなくて待ち合わせのとき大変だったんだろうな――なんて想像したけれど、何かと昔って大変だよな。

 きっと物語書くのだって手書きだったんだろうし……。

 そんなのかったるそうだ。

 今はパソコンがあるから、それだけでもマシか。

 ――ん?

 パソコン。

「なあ、智憂梨」

「なに」

「あのさ、ネット時代の今、電子書籍ってテもあるんじゃないの?」

「電子書籍……」

「そうだよ。今は紙の本を買わなくても、データで本を買えるだろ。だから俺たちもデータで物語書いてさ、ネットにアップするんだよ」

「なるほど……。透にしてはいい考えね」

「だからどんだけ俺への評価低いんだっての」

「それなりのサイトを作って小説をアップし、そこそこアクセスも集まれば……。部員実質二・五人とはいえ、廃部は免れるかもしれない」

「廃部に人数って、関係あんのか」

「部員数は一応五人以上いればいいのよ。うちの部員は幽霊部員を含めれば十一人だから、それは問題ないわね。でもたとえ部員が百人いたって活動実績がなければ廃部になる。ま、百人も部員がいる部活、うちの高校にはないけど」


 さっそく翌日からサイト作りに取り掛かった。

 こういうのは俺は得意だ。

 枠組みは一日で完成した。

 無料のサービスを使ったから、サイトを立ち上げるにあたって費用はかからなかった。

 問題はその枠にはめ込むコンテンツ。

 載せる小説を用意しなければならない。

 枠組みを作るのは直ぐできたけれど、俺は小説を書くのに何日もかかってしまった。

 毎日毎日放課後の文芸部室にこもり、小説を書く。

 なんか居残りさせられて宿題の作文を書いているような心境だ。

 それでもどうにか一週間で俺は小説を書きあげた。

 小説といっても、四百字詰め原稿用紙で十枚ぐらいの超短編。

 標智憂梨は、すでに自分の作品を書き終えていて、俺がうんうんうなりながら小説を書いている横で毎日文庫本を読んでいた。

 たまにお茶も入れてくれて、それはちょっと嬉しかったな。

「じゃ、智憂梨の小説のデータくれよ……」

 自分の作品を書き上げたところで、俺は標智憂梨に言った。

「……」

「どうしたんだよ、早く」

「そ、その……、恥ずかしいから読まないでよ」

「読んでもらわなきゃ、サイトにアップする意味ないだろ」

「……。透のは?」

「え?」

「透の作品も見せてよ。そうしたら、見せるから……」

「俺の作品……」

 俺の作品、書き上がりはしたけれど……。

「俺のはまだ仕上がってない。手直しするから、それが済んでから見せる」

「じゃあ、私もそのとき見せるわ」

「ちぇ、せっかくサイトへの掲載具合を見たかったんだけどな」

「じゃあ、自分のを載せればいいでしょう」

「う……、じゃあ、分かった。明日、いっせいのせいで見せ合うってことでいいな?」

「分かったわ」


 その夜、俺は芦生麗に電話した。

「透! 電話くれるなんて珍しいね」

 声が弾んでいる。

 俺と話す時の麗っていつも元気だよな。

「夜に悪いな。時間、大丈夫か」

「うん、全然問題ないよ。なんか最近、毎日遅くまで文芸部やってるよね。忙しいんだ」

「ほら……、生徒会の監査が入るだろ。テニス部みたいに華々しい部はなんの心配もないだろうけど、文芸部は下手したら廃部の現状だからな。今、智憂梨と二人でサイトを作ってそこに小説をアップしようってことにしてるんだ。それを活動実績にして、監査をくぐり抜けられればと思ってさ」

「がんばってるね」

「あの……、それでさ、覚えてないかもしれないんだけど……」

「ん?」

「そのさ、俺も……、一応書いたんだよね、その……、小説」

「うんうん!」

「でさ、出来上がったらいちばんに麗に見せるって言ったろ? だからこれからメールで送ろうと思って」

「ほんと? 覚えててくれたんだ、楽しみ!」

「いや……、小学生の作文みたいだから……、期待しないでほしいんだ。文字数も原稿用紙で十枚ぐらいだから」

「いいよ、長い短いの問題じゃないし」

「じゃ、じゃあさ、今から送る。メールの本文にそのままコピーしたから、そんじゃ」

「うん、待ってるね」

 俺は、電話を終えると、用意しておいた小説のメールを麗に送信した。

 なんか、恥ずかしいな。

 智憂梨が読まれるの恥ずかしいって言っていたけど、それは分かるよ。

 十分ぐらいで、麗からメールが届いた。

『読んだよ~~。透が一生懸命書いた感じが伝わってきてよかった』

 微妙な感想だな。

 面白かったとは書いていない。

 ま、でも、努力は認めてもらえて好意的な感想だ。

 いちばんに芦生麗に見せるという約束も果たせたし、明日は標智憂梨の作品と一緒にサイトにアップするとしよう。


 翌日。

 俺は標智憂梨に作品を見せた。

 お互いプリントアウトしたわけではなく、データの状態でパソコンの画面で読んだのだ。

 プリントアウトすると、紙代もインク代もかかるからな。

 標智憂梨の作品は、原稿用紙換算で二百枚ぐらいあったのだ。

 読んでみて……。

 小説なんかにうとい俺でも、これがなんか、おもしろいというか、いい出来の作品であるということは分かった。

 標智憂梨って、才能あるんだな……。

「ど、どうかしら?」

 読み終えた俺に、標智憂梨が感想を求めてきた。

 この顔、覚えがある。

 自分の頭上に、標智憂梨を想ってくれている男子の名前が見えるかどうか、俺に聞いたときの顔と同じだ。

 標智憂梨でも照れるのだなということをあらためて認識した。

「うん……、おもしろい。すごいと思うよ。俺、よく分かんないけど、これがいい作品だってことは分かる」

 正直な俺の感想だ。

「そう……。ありがと」

「俺のは……、どうだった?」

「一生懸命書いたんだなってことが分かったわ」

「あ……、そうなの?」

 俺はてっきりぼろくそに言われるだろうと思っていたから、標智憂梨の感想は意外だった。

 それにしても、一生懸命って……、芦生麗と同じ感想か。

 他にほめようないのか。

「やっつけで書いたわけではないわよね。とりあえず、ストーリーを考えて、物語の体裁を整えようとした努力が感じられるわ」

「そ、そうか……? んじゃ、まあ、ありがと」

 ちょっと上から目線的な感想だけど、言われていやな気はしない。

 俺は、標智憂梨の作品と俺の作品を、作っておいた文芸部のサイトにアップさせた。

 本校には生徒会のサイトがあり、そこから各部のサイトにリンクが張ってある。

 すべての部活がサイトをもっているわけではない。

 これまでの文芸部がそうだったように。

 生徒会のサイトからリンクをとばしてもらえるように頼んでおいたので、文芸部のサイトには新設にもかかわらず直ぐにアクセスが集まり始めた。

 生徒会のサイトの文芸部のバナーに「NEW」と表示が出されたので、目を引いたんだろうな。

 ちなみに、俺も標智憂梨も本名は出さずにペンネームを使用した。

 俺は「サトル」

 標智憂梨は「ちゅうりっぷ」

 俺の場合は「さとりとおる」を縮めて「サトル」

 標智憂梨は、名前の「ちゆり」から「ちゅうりっぷ」だ。

 平仮名で「ちゅうりっぷ」だと、なんだかすごく可愛い感じだけど、本人はちょっと怖い感じだぞ――これは、標智憂梨には言えないけどな。


 生徒会のサイトがもともとそれなりのアクセスを集めていたので、そこから文芸部のサイトにもアクセスが流れ、カウンターが短期間でけっこうな数字になった。

 生徒会の監査も無事、クリア。

 文芸部は廃部を免れたのであった。

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