【第10視】本当の“つきあう”って……?
午後の授業にはちゃんと標智憂梨も結束星月もいた。
放課後。
俺は日直だったので、ちょっと職員室に届け物などを済ませてから文芸部室に行った。
午後からは雨が降ってきた。
テニスコートが使えないのでテニス部は自主練になったらしい。
もう梅雨だから、これからしばらくはこういうことも多いだろう。
標智憂梨と結束星月は文芸部室にいた。
「二人とも、昼飯のとき、どこにいたのさ?」
「どこって?」
「あたしたち、文芸部室にいたよ。なあ、智憂梨」
「ええ」
「そうか? 文芸部室も見に来たんだけれどな……」
「そう? じゃあ、私たちが部室に来る前に来たんじゃないの? 私と星月は購買部でパンを買ってから部室に行ったから」
「ふーん。でもさ、尖先輩が二人を捜していたぜ」
「「そ」」
時々ハモるんだよな、この二人。
「付き合うんだからさ、尖先輩と昼とか一緒に食べなくていいのか」
「別にーー」
「いいんじゃないのかしら、そんなの。校内の全カップルが必ずお昼を一緒に食べているかというとそうとは限らないわ」
「そうだよ、智憂梨の言うとおり」
「でもさ、付き合い始めって、昼を一緒に食べたりするもんなんじゃないの?」
「“付き合う”って何かしらね? 透」
智憂梨が真面目な顔で俺を見た。
「“付き合う”か? それはたとえば……、一緒に登校したり下校したり、昼食べたり……、休日は映画や遊園地行ったり、夜は電話やメールしたりするのが付き合っているカップルのすることなんじゃないのか?」
「それをすれば“付き合う”ってことだと透は思うわけね」
「いや、それをやっていれば“付き合う”ってわけじゃないか……。なんというかな……、心の絆っていうか、お互いに両想いっていうか……、そういうのが必要なんじゃないかな」
「じゃあさ透」
今度は結束星月が真面目な顔で俺を見た。
「逆に言えば、その心の絆さえあれば、一緒に昼を食べたり休みに映画行ったりしなくても“付き合う”ってことになるわけだよな?」
「それは……、そうかもしれないけど……」
「あたしと智憂梨はさ、二人で話し合って、そっちを取ることにしたんだ」
「そっちって?」
「心の絆のほうよ」
再び標智憂梨。
「私と星月は、余計なバッシングを校内で受けて無意味な消耗をすることは避けることにしたの。だから、これ見よがしにリュウと一緒に登下校したり、お昼を食べたりはしないつもりよ」
ふーん、そういうものか……。
そういえば、真のカップルというのはそういうものかも。
いかにも付き合っていますって、大っぴらにひけらかすんじゃなくて、水面下で密かに進行させるものなのかもな……。
芸能人同士のカップルなんか、発覚するまでまったく周囲に気付かれなかったりするもの。
逆に、いかにも付き合ってますってな感じで大っぴらにうわさされている二人はいつの間にか自然消滅してしまっていたりする。
「なるほどな……。でもさ、余計なお世話かもしれないけれど、それ、尖先輩に言ったほうがいいんじゃないの? 先輩、二人のこと捜していたんだぞ」
「今のことは、今日星月と二人で話し合って決まったことなの。リュウには今夜あたり伝えるから」
「ふーん。あ、ところで星月」
「なに」
「テニス部自主練なんだろ? 星月は行かなくていいの?」
「自主的に参加するから自主練なんだよ。練習するかしないかは本人の自主性に任されているわけ。文化部と掛け持ちの部員は、こういうときこそ文化部活動に精を出すのさ」
そう言っている星月はちっとも文芸部活動に精を出しているようには見えない。
本を読むわけでも書くわけでもない。
標智憂梨は長机にノートパソコンを置いていたが、ふたは閉じられたままだった。
「透、麗のことが気になるんなら、校舎三階あたりの廊下に行ってみな。自主練組が、筋トレとかやっているはずだから」
「い、いや……、俺は別にいいよ。おまえたちも言ってただろ。別に校内で一緒に過ごすのが“付き合う”ってことじゃないって」
「へえーー、じゃ、透、麗と付き合っているの認めるんだな」
「星月、違うだろ。だから、友達だよ。友達といえば……、おまえたちだって俺の友達だと俺は思ってるんだぞ。おまえらは俺のことどう思っているか知らないけどな」
「透のこと……」
「透のことか……」
標智憂梨と結束星月は黙りこんだ。
そこで考えるなよ。
そこは「こっちだって友達だと思っているよ」てな類のレスポンスが欲しいところだろうが!




