オーシャン・クラウディ
※この小説はちょっと長いので、数回に分けて読むことをオススメします。
打際町。
ここは平凡で平和な町。
そんな町で、私、丸野瑠美は生まれ育った。
ただ、平凡すぎて、退屈すぎてっ……
クリスマスイブの事。
あー!!
白馬の王子様は来ないにしても、時計を持った変なウサギくらいいたっていいじゃん!!
もー!!こんなメルヘンも何も無い毎日なんてもうイヤよ!!
そんな事を思いながら歩いていた時だった。
夕暮れで、街頭が灯り始めた。イルミネーションが灯る。
一瞬目がおかしくなったのかなって思った。
継ぎ接ぎだらけの、でもどこか可愛いイルカのぬいぐるみが空を泳いでいた。
(空って言っても、人の頭よりちょっと上くらいなんだけどね)
イルカは人ごみのちょっと上を、私が付いていけるくらいのスピードで、ゆっくりと泳ぎ始めた。
「待って!!」
思わず声にでちゃった。
周りの視線が痛いほど刺さる。
けど、そんなの気にならない。
イルミネーションの星の海を悠々と泳ぐイルカを私は人ごみをかき分けて追いかけた。
こんなこといつ振りだろう。
小学生の頃、遠足で、アスレチックのある丘に行った時かな。
私は、家族に何回も連れてこられてて、もうアスレチックは飽きていたの。
で、一人だけお花畑を探しに行って、見つけた。
そこには、鮮やかな花や綺麗な蝶がいっぱいいた。
蒼碧に輝く蝶を、紅の、黄の、桃色の花が咲き誇る花畑の上で、夢中になって追いかけた。
夢の世界にいるみたいだった。
あの日と同じ気持ちだ。
ぶつかった人は怪訝な顔をしてたけど、私は曖昧に謝って、追いかけ続けた。
イルカは急に路地裏に入った。
薄暗くて、今思えば気味が悪かったけど、あの時の私は夢中だったの。
だって、こんなことになるなんて、誰も思わないでしょ?
急に夢が醒めたような感覚がした。
男の子が空から降ってきて、いや、飛び掛ってきて、イルカを剣で刺し貫いた。
バチバチと青白い火花が剣から飛び散っている。
本能的に、かな。逃げなきゃって思った。
でも、何か許せなくて、思わず叫んだ。
「何て酷い事するのよ!!」
男の子は、私を静かに睨んだ。
そして、おもむろに口を開いた。
「……はぁ?」
男の子は続けた。
「お前、何言っちゃってんの?俺はむしろお前を助けてやったんだぜ?」
……
「はぁ!?盗人猛々しいにも程があるでしょ!! あのイルカさんはただ泳いでただけなのにぃ!!」
「あ、お前アホだ」
ココロに刺さった……
「イルカが空飛んでる時点でおかしいだろ常識的に考えて。つーかぬいぐるみが動くとかメルヘンか電波か魔法だろ」
魔法とメルヘンは分けないんだ……
「じゃあ何なのよぉ!!イルカじゃなかったら、メルヘンでも電波でも魔法でもなかったら一体なんだって言うのよ!!」
「魔法」
「はぁ!?」
さっき…
「『ぬいぐるみが動くとかメルヘンか電波か魔法だろ』って言っただろ。だから魔法だよ。逆に魔法じゃないなんて一言も言ってないぞ?」
……この人……まさか……
電波だーッ!!
超ド級の電波さんだ!!!!
「お前今俺の事電波とか思ってるだろ」
だって魔法とか電波かメルヘン以外の何モノでもないよー!!
……って何でこの人私の心を!!!?
「お前分かりやすい奴だな」
そうか魔法で…
「リアクション芸人になれるぞ。顔芸いいねwww」
「な……!?失礼じゃないの!!!?乙女に向かって顔芸とか!!!!」
「確かに空飛ぶイルカ追っかける電波…もといメルヘンチックな乙女(笑)だな」
「(笑)って何よ!!」
「まぁ落ち着け」
「落ち着けるかぁぁぁぁ!!」
「俺の名前はオーシャン・クラウディーだ」
ふーん……外国の子なのね……
髪、水色だし目も金色だし……
それにしても流暢な日本語ね…
「日本人だ」
「いや絶対嘘でしょ!!オーシャン・クラウディーじゃん!!蒼髪金眼じゃん!!」
「はぁ? んなもん偽名に決まってんだろ。それと髪と眼の色はほっとけ。一家代々この色なんだ」
……
「……ごめん」
「……?」
「きっと……きっとその髪や眼の色で辛い目に会って来たのよね……そんな事も考えもしないで……私ッ……最低よね……」
「あの……人の過去に勝手に暗い影落とすの止めて下さいます? ……つーか……え? ……何で泣きそうなの? 」
「ごめんなさいッ……!!変な事……うう……言ったりして……」
「ちょ……待て……泣くんじゃない……落ち着くんだ……ほれ」
オーシャン君は、おどおどと困りながらもハンカチを差し出してくれた……
「ありがとう……」
私が落ち着いてから、オーシャン君が口を開いた。
「俺の事は『シャン』って呼んでくれ」
「……何で?」
「呼びやすいし、ドイツ語で『シャン(シェーン)』は美しいって意味だ。つまり、イケメンって意味だ」
「……そういう事自分で言う? 」
「事実だから仕方ないだろ。何か問題ある? 」
「……」
この子……ナルシストだー!!
「つーかお前こそ名乗れよ。なんて呼べばいいか困るだろ」
「あ……ごめん。私は丸野瑠美。打際第一高校二年生よ」
「ルミか。宜し…」
シャン君は手を差し出そうとしてやっぱり止めた。
「宜しく」
……?
「ふぇ?」
そっぽ向いてる……
……手を握るのイヤだったのかな……
……嫌われてるのかな……
……しょぼん……
しばらくして、シャン君が不意に言った。
「ちょっとそのハンカチ返せ」
「あ、どうぞ」
シャン君は私の手に触れないようにハンカチを左手で取って、ハンカチに右手を向けた。
「いでよ『マリン』、オーシャン・クラウディーの名の下に、モノ、ジ、トリ!!」
ポン、と小さな音が鳴り、ハンカチ……だった小さな服を来た、小さな女の子(妖精!?)が現れた。
「みゅー?? 」
か……可愛い……!!
「コイツは俺の使い魔だ。見た目はだいぶ違うが、さっきの飛行イルカと同じだ」
さっきのイルカさんと同じって……
「じゃあさっきのイルカさんだって悪くないじゃん!! その子と同じくらい無害ってことでしょ!?」
シャン君はため息をついた。
「……いいか、見とけ」
そう言って、シャン君はマリンちゃんのスカートをめくり上げようとした。
「……って何してんの!?」
「みゅぅッん!!!? みゅぅぅぅうううううう!!!!」
マリンちゃんは真っ赤になって抵抗した。
「ちょっと!!やめてあげてよ!!」
「いいから見てろ……ここがええんやろ? ここが…」
次の瞬間、マリンちゃんから青白いイナズマが走った。
「いぎゃあああああああああああああ!!!!」
……。
「みゅんッ!!みゃんみゅーみゅみゅー!!!!(もう!!シャンくんのえっちっ!!!!)」
マリンちゃんはそっぽを向いた。
「……見ての通りこいつら『使い魔』は高い魔力を持ち、こいつのように極めて獰猛なヤツもいる。使い魔なだけに魔導師に忠実だが、こいつのように例外もいるさ」
「今のはどう見たってシャン君が悪いよね!?」
マリンちゃんはあっかんべーをして私の肩の上に乗った。
「そんなことはどうでもいい。問題はあのイルカを使ってたヤツだ……使い魔は使う魔導師次第で善にも悪にもなりうる」
シャン君は急に真剣な顔になった。
「あのイルカの使い手の魔導師……奴は間違いなく『黒魔導師』だ」
「何を根拠に…」
次の瞬間、凄まじい轟音と、水の柱が上がった……
「……やはりてめぇか……」
シャン君は口元を歪めた。
「波濤の黒魔導師……ネーズ」
シャン君は「付いてくるな」って言ってたけど、こんな訳の分からない状態で一人にされるのはイヤだったし、明らかに私より年下でちょっと心配だし……
……でも、付いていくべきではなかった……
轟音のもとにたどり着いた。
シャン君は波濤のダークマージとか言ってたけど、本当に波濤の柱が上がっていた……
巻き込まれた人々のうめき声を藍色の波濤の轟音がかき消す……
さっきのと同じぬいぐるみのイルカがいっぱい飛びかってた……
デフォルメのような顔がかえって空恐ろしい……
「付いてくるなっていっただろ……」
シャン君は思いっきり嫌そうな顔をした。
「だって心配だったから……」
「おいそれはどういう意味だ? お前があの場にいるのが心配だったからだよな? 」
「両方」
「なるほど後でちょっと話がある……だが……」
シャン君は向き直った。
「今はヤツだ」
波濤の柱の上、鋭い目つきの大きなイルカに乗った紫のロン毛の少年が私達を見下ろした……いや、見下していた。
「波濤の黒魔導師、ツナ・マヨネーズだな? 」
「雷雲の魔導師、オーシャン・クラウディーか……」
……は? 今……ツナマヨネーズって言った?
「ん? なんだ、その小娘は? 貴様の恋人か? 」
「な!? 」
「んなわけあるかボケが。趣味じゃねえよこんな頭お花畑」
「たしかに頭が軽そうだ」
凄く傷ついた。
「ちょっと!! あなた達酷くない!? あって間もない女の子にそんな事言うなんて!!!!」
「悪いが俺はセクシーなおねーさんにしか興味がない。ドラム缶は対象外なんだ。だから冷酷になれるのさ(キラ☆)」
「おい……こいつはドラム缶じゃねえ」
え……シャン君……?
「ミス・頭の中がお花畑だ」
「違うぅぅぅぅぅ!! 私は『丸野瑠美』よ!! 」
もう何か涙出てきた……
一瞬嬉しくなった分悲しくなった……
「変な名前だな」
「ツナマヨに言われたくないわ!! 」
「バカか貴様……そんなもの偽名に決まっているだろう。ランス・ウオアリだ」
「……ランスって……充分変な名前だと思うけど? 絶対日本人じゃないよね」
「魚に有るって書いて卵に酢って書くこの名前の一体どこが外国人というんだね? 」
「漢字なんだ……」
「魚有卵酢ってことか……つーか本名言ったらコードネームの意味ないだろ……」
ん?
魚有=鮪=ツナ
卵酢=卵と酢=マヨネーズ
「まんまじゃん!! コードネームが本名の直訳じゃん!! 」
ネーズさんは衝撃を受けたらしい……
「何だと!? 駄目なのか!? 」
「ダメだよ!! 」
全く何言ってんの……
「え!? コードネームって直訳じゃダメなの!? 」
「お前もか!! さっき自分で言ってたじゃん!! 本名バレたらまずいからコードネームなんでしょ!? 」
「いや……こう、相手に本名を当ててもらう楽しさ? 遊び心って大事だろ? 」
「大事じゃないよ!! 」
「……そんなことより……」
私はネーズさんをにらんだ。
「何でこんな酷いことするの!? 」
ネーズさんは不気味な笑みを浮かべた。
「黒魔導師は生贄を……人間の魂を必要とするのさ……より強力な力を得るためにな……」
意味が分からない……
「強くなりたいなら自分を鍛えればいいじゃない!! 人を殺してまで……何のために力が必要なの!?」
更に不気味な笑みを浮かべた……その様は悪魔を思わせた……
そして、悪魔はまるで無知な子供に物事を教えるかのように、猫なで声で語りかけた。
「お前は金が欲しくないのか? 名誉は? 地位は? 男は? 夢は? ……全ての欲望に理由があるというのか? 他人を虐げてでも手に入れたいものがあるのはどんな人間だろうと同じこと……そして俺はそれがたまたま『力』だっただけだぜ? 」
……何でだろう……
……私だってお金は欲しいよ……欲しい本だっていっぱいあるし……
地位とか名誉とかは全然分からないけど、いつか恋だってしてみたい……
でも……
「他の人を傷つけてまで手に入れるなんて間違ってる!! そんなの夢じゃないよ!! 」
「そうだな……」
……シャン君?
「ルミの言うとおりだ。誰かを傷つけなきゃ叶わないような穢れた目標は夢じゃねぇ……てめぇはここでぶっ潰す」
この瞬間……不覚にも彼がかっこいいと思ってしまった……
シャン君は大剣を抜いた……蒼い閃光が散った。
急に振り向いて、私の肩を抑えた。
「ルミ、下がってろ」
そういうと彼は藍の波濤に向かって蒼い雷を纏って突っ込んだ……
「(不用意に雷を放てば、人質…いや、奴の生贄に当たってしまうな……先に解放するか……)プラズマクーゲル!! 」
蒼い稲妻が黄色く、白くなり、丸い球になった。
「Go!! 」
シャン君の合図に従い、光の球は人質めがけて飛んで行っ……?
……いや、違った。(「危ない」って叫ぶ前に気づいた)
人質の真下で閃光が炸裂した、と同時に何かがすばやく人質達をキャッチした。
白いベールとフリルのような服、薄い水色の髪、シャン君と同じ金色の目……
その何かはマリンちゃんだった。
ってあれ!? さっきまで肩の上にいたのに!?
何か……色々おっきくなってない!?
マリンちゃんは疾風のように宙を舞って、全員救出した。
「シャン君のバカ! 一気にやったら危ないみゅー!!」
当の本人は何食わぬ顔で言った。
「ん? そんなに魔力消費のでかい技じゃねぇし大丈夫d…」
「違うみゅぅぅッ!! 人質さんが落っこちちゃうみゅー!!」
「ガーガーわめくな。高速移動はお前の十八番だろ。そんなことより彼らを安全な場所に誘導しておけ、ルミも含めてな……」
マリンちゃんは不愉快そうな顔をしながらも、それに応じ、私のところまで降りてきた。
「みんな今のうちに逃げるみゅー!! 」
マリンちゃんがそう叫んだ。
でも私は逃げなかった。明らかに年下の彼を放ってはおけなかった。
悪魔が急降下してきた。
「させるかぁぁぁぁ!!」
波濤を纏って突っ込んだ彼を、青白い稲妻が遮った。
波が砕け、飛沫が上がり、青の火花が散る。
「ベタな台詞だが、お前の相手は俺だ」
「よくも俺の生贄を……!! ぶっ殺す!! 」
憤怒の眼光と飄々とした視線が交錯する。
蒼と青が互いを引き裂き、砕き、轟音を上げて爆発する。
飛沫と閃光が地を、壁を、空を衝く。
「終わらせてやるよ……」
そういうと悪魔の足元に蒼黒い円が、そして文字が……アニメで見るような魔法陣が現れた。
矛の柄で地を衝くと、波濤の龍が現れた。
「終わるのはお前だ」
シャン君の足元にも青白い魔法陣が現れた。
大剣を振り上げ、天を指すと稲妻の虎が現れた。
再び蒼と青がぶつかる、がそれはさっきのものとは比べ物にならない……
蒼の龍が波濤の牙で咬み付き、青の虎が稲妻の爪で引き裂く。
イブの夜を蒼の雫と青の光が彩るが、響くクリスマスソングは轟音と凍てつく鋭い風のエオルス音……
騒ぐ声は悲鳴に変わり、祭り気分は絶望へと果てた。
さっきまでメルヘンのない日常にうんざりしてたけど……
こんなの望んでないよ……!!
「捕まえたぜ……」
囁くような声。
気が付いたら私は水で縛られていた。
鋭い悪意のようなものが手首足首を通して伝わり、それと入れ替わるように私の力が奪われていくのを感じた。
動けない……
「ルミ!!!! 」
シャン君の叫びが聞こえた。
「バカな女だな……逃げておけばよかったものを……」
悪魔は嘲った。
「そいつは一般人だ!! 放せ!!」
「生贄に一般人もクソもあるか」
悪魔の声が冷酷に響く。
「なんせ貴様が全部逃がしやがったんだ……文句は言わせねぇぞ」
「ならなおさら関係ないだろ!! 生贄にするんならただの人間より魔導師の方がいいはずだ!! 」
「ただの一般人を庇うにしては執着し過ぎだな……貴様の恋人か何かか? 」
「それはない。ありえない」
ちょっと!! ありえないって何よ!! どういうことよ!!
「あるいは姉と重ね合わせているのか? 雲野洋」
「……!? 」
シャン君の顔が強張った……
「……てめぇ……どこでそれを……? 」
「こちらにもそれなりの情報網があるのさ……」
悪魔が微笑した。
***
――ちょうど一年前のこと。
十二月二十四日、浮き足立ったリア充共がクリスマスソングに乗りながら、イルミネーションなんかを眺めている。
ビルの屋上で、水色のショートカットと金の瞳の少女が白い吐息で手を温めようとしていた。
白いベールとレースのついた、冬に似つかない薄着のドレスの上からマントを羽織っていたのだが、頬は赤く、震えていた。
その隣にいた俺は、カイロを渡した。
「ほれ、そんなんじゃ霜焼けになるよ、姉さん」
彼女の名前は雲野海。俺と同じ魔導師だった。
「ありがとう、シャン君! 」
姉さんは微笑んだ。
何でそんな薄着なんだよ、と言う前に、
「シャン君、今日は何か分かってる? 」
姉さんは目を爛々と輝かせながら聞いてきた。
「分かってるよ、姉さん。切裂の黒魔導師の討伐だろ? 」
俺が当然のように答えると、姉さんは怒鳴りつけた。
「違うよ!! クリスマスイブッ!!!! 」
耳がキーンってなった……
「うるせぇなぁ……ただの冗談に決まってるだろ? 今日は神の誕生日の前日だと言うのにリア充共がイルミネーション眺めてレストランで食事した後、夜の営みに勤しみまくる祭典の日だな」
「生々しいよ!! 恋人がいないからってそんな歪んだ見方しなくてもいいじゃない!! 」
「彼氏いない暦が年齢の姉さんに言われたくはないわ」
「シャン君がいるから別にいいよ」
「なっ……!? あのな……姉と弟じゃ恋人にはなれないんだぞ? ブラコンも大概に…」
「手の掛かる弟がいるから、彼氏なんて作ってるヒマがないんだよねー」
そっちかよ!!
「悪かったな手の掛かる弟で!! 」
そう怒鳴って、そっぽを向いた。
「あれれー?? なーにすねてんのかなー? 」
姉さんが茶化してきた。イライラしたので、
「うるさい、デカパイ 」
悪態をついた。
「ちょ!? 気にしてるのに酷いよ!! こぉのエロガキぃぃッ!! 」
姉さんは顔を真っ赤にして詰った。
でも、詰る姉さんの顔は見ず、ちょっと下を見た。
詰って揺れてる。露出度が高い分、揺れが目立つ。
思わず笑ってしまった。
「ちょっとシャン君!!!? どこ見てるのよ!!!! エッチ!!!!」
姉さんが半泣きになって叩いてきた。
からかうとこれだから姉さんは面白い。
……でも……
……何故俺は拗ねているのだろうか。
そのときは気づいてなかったけど、俺は姉さんが好きだったのかもしれない。
ちょっと期待してしまったんだ……
だから……
「ねー、シャン君」
機嫌を直した姉さんは言った。
「後でちょっとだけイルミネーション見て行こうよ」
鼓動が早まったような気がした。
「……そうだな」
さっきとは別の理由で顔を背けた。
姉さんににやけた顔と紅潮した頬を見られたくなかった……
「……? シャン君? 」
人気の少ない公園にて……
凍てつく外気と刺さるような強い殺気を肌に感じた……
「……近くに奴がいるぞ」
「確かに大きな魔力反応を感じるね……」
そういうと姉さんは腕にまとわりつい…
「…って何してんだ!!!? 」
「んー?? どーかしたのー?? 」
腕に何かやわらかーいものを感じて気が気でない……
むしろこれからどうかしてしまいそうだ……
「こーしてると、仲良し姉弟みたいでいーじゃない 」
「……むしろバカップルに見えるんだけど? 」
「そうかもね」
「分かってんなら離れろや!! てめぇの『やたらとでかいコンプレックス』がうっとうしいんだよ!! 」
「うっ……(小声で)お願いだからもうちょっと我慢してよ!! 大体昔はシャン君の方がべったりだったくせにぃ!! 」
「昔の事は言うな…」
……その瞬間、さっきまでのとは比べ物にならない激しい殺気を感じた。
次の瞬間、黒い髪の男が憤怒の表情を露にして俺達の目の前に針葉樹のように刃だらけの大剣を振り下ろし、地を割った……
「リア充死ねええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! 」
と叫びながら。
その瞬間、俺達は素早く後ろに躱した。
「かかったわね!! 」
「は?? 」
「……何だと? 」
姉さんが何を言っているのか訳が分からなかった。
「切裂の黒魔導師、貴方がリア充に恨みを持っていてリア充を襲うことは既に推測済みなのよ!! 私達はただの仲良し姉弟だけどね☆」
ええええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!!?
「俺様をおびき出すとは貴様……何者だ!? 」
姉さんは大剣・ファルターを魔法陣から召喚した。俺はそれに倣い、レイピア・ティガを抜いた。
「私達はクラウディー姉弟!! 聞いたことあるでしょ? 」
姉さんはウィンクした。
「クラウディー姉弟だと……? 双雲の魔導師を名乗り、その端麗な容姿とは裏腹に、黒魔導師を悉く打ち破る恐怖の双子か……聞いたことはある。相手にとって不足はない……」
奴は獲物を見つけた狼の目を向けた……
「シャン君、行くよ……」
姉さんは雲を放ち始めた……
白い雲が霧のようにあたりに立ち込めていく……
街灯が、家々のイルミネーションが、雲にぼやけ、オーブのように幻想的に輝いた……
「行くか……」
俺はティガに雷を帯びた……
雲を伝わり、青い稲妻が凍てた外気を斬り、張り詰めていく……
俺は走った。文字通り風のように舞い、雷光と共に斬りかかった。
奴は樅の木のような大剣を構え、俺の斬撃を防いだ。
鎬を削り、火花が散った……
「直線的だな。動きは速いがそんなものでは俺は倒せんぞ……」
「なら、試してみるか? 」
俺は飛んだ。ハチの如く素早く、舞った。
直線ではない。空中をも引っ掻き回す曲線を、描いた。
背後に回り、わき腹を撃とうとした。
上空から、脳天を狙った。
右側から腕を斬ろうとした。
全て防ぎはしたが、俺の動きの変化に驚いたようだった。
「貴様……一体どうなっている……!? 」
「さあな……だが…」
奴の足元に潜り込み、
「これで終わりだ」
斬り上げた。
「終わるのは貴様だ!!!! 」
斬り上げた俺ごと潰しにかかった……
剣は地を割ったが、その刃は血に曇ることはなかった。
俺は背後に回ったのだ。
「終わりだと言っただろ? 」
「この……」
奴は、剣を振り上げようとした。
「……!? 」
その剣が動くことは不可能だった。
青い氷晶が大地に奴を、奴の剣を拘束していた。
姉さんが微笑んだ。俺も笑い返した。
青い稲妻を帯びた突きが奴の右肩を貫通した。
「ぐわぁああああああぁぁあぁあああ!!!! 」
奴の叫びが響いた。肉が灼ける臭いがした。鮮血が散った。
奴は無理やり氷と刃を振り払い、前のめりに躱し、地を這った。
「終わったな……」
「……そうね」
俺達は互いに見つめあった。
「……にしてもあっけなかったなー。あのヤロー。不足なしどころか不足だらけじゃねぇか」
「ま、二対一だったし、大して強くなかったもんね」
「ほとんど俺がやったみてーなもんだけどな」
その一言に姉さんは傷ついたらしい。
「ああ~~~~~ッ!!!! 私の助け借りておいてそんな事言うんだー!!!! 空中で方向転換できないときとかブレーキかけたいときとか私が支えてあげたのにー!!!! 最後なんて私が凍らせなかったら頭割れてたのにー!!!! 」
姉さんの目から大粒の涙が……
「ごめんごめん冗談だって!! 」
焦りながら俺はあやした。
「ほらアレだ!! 終わったんだし、イルミネーション見に行こうぜ!! 」
姉さんの顔は一瞬で明るくなった。
「そうだね!! 行こっ!! 」
そう言って、また俺の腕にまとわりついた。お子様だなオイ。
その時、再び強烈な殺気を感じた。
刃の塊が襲い掛かってきた……
「危ない!! 」
姉さんは俺を突き飛ばした。
凄まじい衝撃と轟音が響いた。その音と共に瓦礫が飛び散った。
煙が視覚を、音が聴覚を奪い、俺は半狂乱になって叫んだ。
「姉さん!!!! 姉さんッッッ!!!!!!! 」
煙が晴れた。
ささくれた大剣が姉さんの喉下に当てられ、刃先は地を衝いていた。
奴の腕は大剣とつながり、その結合部分は醜く鉄錆のように、あるいは瘡蓋のように紅黒く同化していた。
「誰が……終わり…だって? 」
奴は苦しみに、あるいは快楽に歪んだ不気味な笑みを浮かべた……
「……」
姉さんは不思議となんの表情も浮かべず、ただ黙っていた。
「お前……姉さんを放せ!! 」
絶対に放すことはないなんて事は分かってたけど、それでも叫んだ。
「貴様が出来ることは動かずに、ただ死を受け入れることだけだ」
そういうと、奴は火のついた紙のように喋り続けた。
「貴様等は気がつかなかったようだな? 俺様が魔力を抑えていたことにも、俺様の本当の能力にもな!! 俺の剣は俺の血を吸い、魔力を得る毎にその力が高まり、かつ己の意志で刃が結晶の如く伸びるのだ!! 貴様が指一本でも動かすならばこの娘の喉は紅く染まるぞ……!! 」
全てを支配し、勝ち誇った表情で下品な笑いの叫びを上げた……
「しかしそれにしても貴様の姉はなかなかのモノだな……」
全身に戦慄が走った……これから出るであろう奴の言葉への恐怖と怒りが芽生えた……
「そうだ、貴様の前で犯してやろう……」
絶望と憤怒が爆発した。
衝動的な殺意を理性が抑えようとした……
何も出来ない……
俺は無力だった。
一瞬、かなり強力な魔力と冷気を感じた。
姉さんと奴の足元に青い魔方陣が煌き、一瞬で青い氷晶覆い尽くした。
青い氷の結晶から、かろうじて姉さんの顔が出ていた……
そして、姉さんはぽつりと呟いた。
「私を……殺して」
耳を疑った。
「何言ってんだよ姉さん……? 」
俺は震える声で姉さんに尋ねた……姉さんは静かな声で応えた。
「馬鹿な事だって事は分かってたよ? でもね、これしかなかったの。私達、お互いに魔力もほとんど尽きちゃったし、アイツはまだ魔力が残ってたし。だからこの術もすぐ解けちゃう。解けたら最後、私の喉は刺されるよね? だって今は氷が守ってくれてるけど、もうアイツは剣に魔力を籠めちゃったし……」
氷が軋んだ……どの道姉さんは死んでしまう……
「もうコイツを倒すには私ごと殺すしかないの。だから、殺して」
姉さんは微笑んだ。俺は怒鳴った……
「馬鹿な事言うなよ!! そんな事出来るわけないだろ!!!? 」
怒ってたわけじゃない。悔しかった。他に手はない……
確かに横から奴を突けば、姉さんを殺さずに済むかもしれない。
でも、氷が割れればどの道姉さんは救えない……
「ホントの事言うと、何も考えてなかったんだ……」
姉さんはまた呟いた。
「アイツに穢されたくなかっただけなんだ……変かもしれないけど……私は……」
姉さんは頬を少し赤らめて、俺を見た。
「私には……ちょっと意地悪だけど大好きな弟がいるから……」
一瞬が永遠のように感じた。
姉さんは真っ直ぐ俺を見た……そして言い放った。
「だから終わらせて。貴方の手で」
雷鳴が、叫びが轟き、稲妻が氷晶を砕いた。
「あり……がとう………シャン君……」
紅く染まり、冷たくなっていく姉さんは俺に……
###
――現在。
聞くに堪えない退屈な昔話がやっと終わったらしい……
ルミは衝撃を受けたような表情を、聞いてはいけない事を聞いてしまっただのなんだの言っていた時のように涙を浮かべていた……
「人の過去を勝手にベラベラと喋りやがって……」
ネーズは俺の悪態を気にも留めない。
「ふ……だが事実なのだろう? そして、その時以来、使えないんだろう? 姉を殺してしまったレイピアが」
俺は思わず溜息をついた。何て短絡的でつまらない推測なのだろう……
まぁ、そう思い込ませるのも目的の一つだったし、何より奴は気づいていないらしい。
時間も充分にあった。仕込みはもうとっくに終わっている。
マリンに送る魔力を弱めた。マリンの強化が解け、元の小さな妖精に戻った。
「エレクトロニカ・ミスト・リッパァ」
ルミを縛る水の鎖が白く光り、膨張し、断ち切れ、霧散した。
術を使うと同時に、大剣・ファルターを棄て、ルミの下へ跳んだ。
「……!? 貴様……どういうことだ!!!? 」
ルミを抱えながら、ティガを抜いた。
「レイピアを使えなかったわけじゃねぇ……使わなかっただけだ、不利だからな」
ティガに魔力を、雷を纏わせ、構えた。
「それとだ。ファルターには『使い手の魔力を拡散する能力』がある。お前は水を撒いてフィールドを作ったつもりだったようだが、それは俺も同じことだ」
「黙れ!!!! これで終わりだぁぁぁッ!!!! 」
叫び、蒼い波濤を纏った矛を振り下ろした。
蒼い龍が食らいつく。
が、一振りで白く霧散した。
「無駄だ。もうこの空間には俺の魔力が満ちている……お前の水にも確りな」
ネーズ……お前の間違いはそれだけじゃねぇ。
「俺は過去を嘆いたりなんかしない……時間は未来にしか流れねぇ」
青い虎は牙を剥いた……
「ブラオア・ティガ」
名とともに、虎は、矛を打ち砕いた。
矛を砕かれたネーズは、地面に落下した。
激突寸前に、マリンに魔力を送り、受け止めさせた。
「大丈夫だ。気絶してる……すぐに封印もする」
心配そうな表情をしたルミにそう言った。
だがルミはこう返した。
「そうじゃないの……でも……彼は生きてるんだ……よかった」
正直言って、呆れた。
「お前、やっぱり変な奴だな……」
「え!!!? なんで!!!!? 」
「人を殺すのも厭わない悪魔みてーな奴に殺されかけて、その悪魔の命を心配するなんて」
ルミは決然として言った。
それは、姉さんを思わせた。
###
「姉さん、何で殺さないんだ? 」
ある時、姉さんに聞いたことがあった。
「黒魔導師は人を殺すのも厭わない悪魔みてーな連中だろ? 俺達の仲間だって殺されたじゃねえか……!! 」
蛇炎の黒魔導師を倒した時の事だった。
奴は、魔導府規律隊に所属する同僚「アクヴィス」を殺した男だ……
「確かにアクヴィスを殺したのは許せることじゃないよ。でもね、だからってそれが殺していい理由にはならないわ。そしたら私達も奴等と同じ悪魔になっちゃう……それにね…」
###
「死んでもいい命なんて、あるわけないじゃない……!! 」
……ああ。そうだな。
「……もうすっかり夜だ。途中まで送ってやるよ」
「ありがとう!! シャン君!! 」
***
寒く暗い路地を暖かい電球の光が照らす。
家の前まで、シャン君は送ってくれた。
「ホントにありがとう!! 」
「当たり前の事をしただけだ」
そう言って、シャン君は背を向けた。
「メルヘンチストもほどほどにしとけ。今日みたいなことにまた巻き込まれるだろ? 」
そんなつれないセリフを吐いて彼は歩き出した。
「その時はまた助けてくれる? 」
シャン君は深い溜息をついた。
「バカ……助けれなかったら困るから言ったんだよ」
「心配してくれてるんだ……ありがと!! 」
「……はぁ……おめでたい奴だなお前」
憎まれ口なのか照れ隠しなのか私には分からなかったけど、とにかくシャン君はそれだけ言って去っていった。
あ。
私の横を、蒼碧の蝶が通り過ぎていった……
***
「みゅーみみゅー(ルミちゃん、無事に帰ったね)」
「そうだな」
「みゅみみゅー?(あ、ところで魔石はちゃんとひろった?)」
「ああ、それが目的だったからな……」
蒼い宝石のような石を、月に翳した。
蒼く、波のように煌いた。
ネーズの剣から抜き取ったものだ。
「みゅみゅんみゅー??(それで99個目だっけ?)」
「そうさ……あと一個だな……あと一個で…」
「んみゅー……みゅ?(お姉ちゃんに会える……でしょ?)」
「ああ……そういう約束だったからな」
クロウはそう言った……
「みゅんみーみゅー♪(私も会ってみたいなーシャン君のお姉ちゃん♪)」
マリンは風に舞った。冬の風はやはり冷たく吹く。マリンの服がはためいた。
「みゅー?(海ちゃんだっけ?)」
……
「そうだ」
……姉さんにもう一度会いたい。
そう思っただけだ……
死んだ人を蘇らせる。
誰にも知られてはいけない事。
神に背く、まさに禁忌。
それでも会いたいと願う。
それは誰でも思うことだ。
その願いを持つことが罪だというのか?
再び風が吹いた。
蒼碧の蝶が舞った。
姉さんの好きな蝶だった。
凍てつく風に雪が舞う。
マリンが嬉々として蝶を追いかけていた。
俺は微笑んだ。
それが今年の12月24日……
初めまして。frontphaceと申します。
小説投稿は初めてなので、何分表現の至らぬところが多くございます、が、一つだけ言える事があります。
「やれるだけはやった」と。
時間だけはかけたつもりなので、できるだけ多くの人にこの作品が愛されることを祈ります。
話が全体を通してやや急展開な気も……
あと、この作品は最後の結末が何故か訳分からなくしまっていますが、これについてはいずれまた、別の作品にて。




