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君が十三人目の魔法使いになるまでに  作者: 十津川
二章 二人の交差路
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その11 奪われたモノ

 紗々奈が敵意を剥き出しにして睨みつけている黒衣の男。

 魔法使いであり紗々奈の敵であり、そして叔父。


「よくもボクの前に姿を現すことができるものだね。厚顔無恥なカス野郎。そんなに殺されたいかい」

「殺せもしないくせに大きな口は叩かない事だ」

「はっ! ボクに殺意がないとでも? いいやお前を100回殺してもなお有り余るね」

「人間には無理だと言っているだけなのだがね。魔法使いを殺せるのは魔法使いだけだ。」

「ボクじゃない。魔法使いがお前を殺すのさ」

「ふむ。で、そこの彼がその魔法使いの候補ということか」

「……そうだ」


 紗々奈の言葉がほんの少し弱くなったのは、幽刻との先ほどの言い争いが尾を引いているからだろう。

 済州さいしゅうと名乗った男は、精悍な顔つきに似つかない程の冷たい目で幽刻を見た。


「なるほど……三軸の才能の一つを持っている。しかし腑に落ちないな。君自身が魔法使いになればいいだろうに」

「いいや、ボクは魔法使いにはならない。お前とは違う」


 「なれない」のではなく「ならない」とはっきり言い切った。確かに紗々奈は魔術を行使することが出来ない身体であるが、復讐をするつもりなら自分が魔法使いに近づくのが最も効率が良いはずである。そうできない「理由」が、彼女にはあるのだろうか。


「まあいい。いずれにせよ私が来た理由は、君ではなくそこの彼だ」

「……俺にはないけど?」

「私があると言っているのだ。少々黙りたまえ」


 済州は一歩も動いていない。それどころか指一本すら動かしていない。だが幽刻の頭部は壁に打ち付けられた。

 もし彼にマナを視る力があれば、無形のマナを投げつけられたのが分っただろう。一歩踏み込むならそれはマナを「風」という自然現象に変換させた「魔法」であった。

 幽刻の視界は一瞬白に覆われたが、首を振って無理やり立ち上がると済州を睨みつけた。


「少しは聞いているかもしれないが、我々魔法使いの最終目的はアカシックレコードを収めたと言われる『叡智の王冠』の復元だ。王冠の破片は全部で12個。それぞれを魔法使いが所持している。復元を目指す理由は魔法使いそれぞれだが、いずれにせよ魔法使いから破片を奪わなければいけない。それは非常に手間なのだ」

「……仲良くしろよ。協力して復元ってのをしてから、全員で使えばいいじゃねえか」

「一人で使えるモノならばね。いやモノであるかすら分からないのだ。叡智の王冠の破片が発見されてから、未だ復元に成功した魔法使いはいないのだから」

「それはおかしくないか? 誰も復元したことないのに、何で魔法使い達はアカシックレコードがあるって知ってるんだ」

「叡智の破片を持てば分る。何故ならば自然現象すらコントロールできる魔法それ自体が、破片に残ったアカシックレコードの一部だからだ。無論、それを使いこなすには三軸の才能が最低条件だがね」


 済州は近くの棚にあった魔具を手にする。


「魔術が生まれたのは、一人の魔法使いが他の魔法使いとの戦いに備えて優位に運ぶためだったと聞く。魔具を創って魔法に似た能力を使えるようにした。だが結局魔術師は魔法使いの足元にも及ばない存在にしかならず、『魔法使いのサポート』という役を担えなかったらしいがね。しかし魔術自体は有用でその後も独自の発展を遂げていった。それが世界経済に少なからずの影響を与えたのは君たちも知る所だ」

「まるで神みたいな言い方だな。お前も「ただの人」の一人だろ」

「私は神だ、とまで言い切る程自信過剰ではないが近い存在だよ。魔法使い達がその気になれば世界を滅ぼす、或いは征服することが可能だからね」


 少し無骨な指が魔具を数回叩くと、音もなく塵になった。


「だがそうなっていないのは何故だと思う?」

「……知らん。大方暇なヤツがいないんだろ」

「その通り。暇じゃないのだよ。魔法使い同士の戦いは何時起きるか分からない。世界情勢などに興味はないし、干渉する必要もない。叡智の王冠の復元こそが最優先されるべき存在だからだ。私はこれまで5回、魔法使い同士の戦いを行ったが、全て決着付かずだ。魔法使いの実力はそれなりに拮抗している故、よほどの不意打ちか、或いは複数の魔法使いで組んで戦うかしかない。しかしその両方も現実的ではない」


 済州は幽刻に視線を向けた。


「そこで私はある計画を思いついた。魔術師ではない13人目の魔法使いを創り、それに私のサポートをさせればいいのだと。そして最高の才能を持った素体を見つけたのが7年前だ」

「素体……?」

「才能溢れる人間。君も良く知る人物だ」

 そう言われれば一人しかいない。

「豊久か。そう言えば学校に見に来てたようだし、確かに魔法使いとしての素質は……」

「いいや、彼ではない。君の異母兄弟である天津豊久には三軸の才能はおろか、魔術師として必要とされる才能の一切なかった。才能があったのは君の方だ、佐摩幽刻」

「俺だと?」

「魔術の名門天津家。豊久はその長男であり、君は当主が生ませた嫡男だ。だが当主候補の長男には三軸の才能はおろか魔術師としての才能が一切なく、嫡男には全ての才能が備わっていた」

「……目が腐ってんのか? 俺のどこに才能があるんだよ。むしろ無さすぎで日々努力の日々だっての」


 唯一、超高速分解(マナリオン)を抱えてはいるが、魔術の才能は最底辺と言っていい。からかわれていると思った幽刻は、少し声を荒げて反論した。


「元々君は魔法を行使するために『必要な全て』を備えていた。だが今の君は一つを除き全てを持たず、逆に兄である豊久が無かったはずの才能を持つっている。これがどういうことか分かるかね?」

「……どういう意味だ」


 俺の服の裾を掴む紗々奈の指に力が入った。


「君の才能は奪われたのだよ。兄の豊久によって」


 男の少し低い声が、部屋の中に静かに広がった。




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