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君が十三人目の魔法使いになるまでに  作者: 十津川
二章 二人の交差路
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その5 とある一面

 学校が終わると、紗々奈が働く魔具工房『ジュンジュジュン』へ直接向かった。

 帰宅方向が真逆である為、一度家に戻っていたら着くのは8時以降になってしまうからだ。


「遅い! 君はボクを何分待たせる気だね!」


 店の薄暗い入り口の扉を開けた瞬間に、少女の怒りの声が響き渡った。


「そうだな。まあ大体10分くらい?」

「じゅ、重罪すぎる! それはギルティだよ! ギルティ! ボクの10分と君の10分は重みが違うのを理解しているのかい!? いいや理解していないだろうからこの際、」

「ええい、ちょっと黙れ」

「あいたっ」


 興奮気味にまくしたてる紗々奈を一旦黙らせる。涙目になって睨みつける彼女。


「一応これでも学校から直行して来たんだぞ」

「だとしてもボクの方が一時間早く着いている。これはどういう了見だいっ!」

「そりゃお前は6限目サボってさっさと帰ったからだろ」

「だってつまらないからね!」

「胸を張るな胸を……。そしてお前が勝手に帰ったから、学級委員の俺がこってり絞られて遅くなったってのもある」

「ふふん。愚かな教師どもだ。それにしたって遅い! もう30分は早く着けただろう!」

「まあ途中で買い物してたってのはある」

「それ! それ元凶! ギルティじゃないか! そんな罪が許されるとでも!」

「ふむ。つまりこの寄り道の成果であるパティスリーのシュークリームはいらない、と」

「許されるかもしれない!」


 一応前回の反省――夜の学校に集合した時――ちょっと遅れただけでぶーぶー言われたので、今回は手土産を用意してみたのだが、思った以上に効果はてきめんだった。

 実にちょろい。

 「甘いモノ? ボクを肥え太らせて殺す気かい?」くらい言われるかもしれないと思っていたのでちょっと意外であったが、どうやら女の子らしい所は莉子達とそう大差はないようだ。


 カウンターの上にあったごちゃごちゃした物体を横へどけ、手にしていた紙袋から二つのシュークリームを取り出す。ここに食器なんてものはなさそうなので、紙袋をそのまま皿替わりに敷く。


「これは……二つあるね」

「見ての通りな。というか一つは俺のだぞ」

「え」

「「え」じゃない。そりゃ俺だって食べたいからな」

「むう……。では厳選する必要があるね……」


 紗々奈は置かれた二つを見比べ悩んでいる。ちなみに右側はオーソドックスなクッキーシューで、左が苺を挟んだシュークリームである。


「むむ……やはりパリッとした触感のこちらを選びたい所だが、ほのかな酸味が効いた苺シューも捨てがたい……」

「先に選んでいいぞ。俺は余った方を食べるから」


 一応言ってみたが、そもそも先に選ぶ気満々であった上に、真剣な目をみる限り耳に入ってすらいないだろう。

 幽刻は自分でも気が付かないうちに苦笑していた。本気で悩む姿は年相応でとても可愛らしく見えたからだ。


「むむむぅ~。よ、よしっ! 決めた! こっちにする!」

「おう。じゃあ俺はこっちの苺シューだな」


 紗々奈はクッキーシューを手にすると勢いよくかぶりつく。数秒後、分かり易いくらい満面の笑顔になる。幽刻の気遣いにどうやらご機嫌を治して頂けたようだった。


「んじゃ俺も」

「んぁ……」


 幽刻が食べようとした時、紗々奈がこっちをみた。やっぱり分かり易いくらいに、悲しそうな顔で。


「……苺だけ食べるか?」

「なっなにを! ボクがそんなモノ欲しそうな顔をしていたとでも!? このボクが!」

「いやまさか。苺って実はあんま好きじゃないんだよな。食べてくれるとむしろ助かる」

「そ、そこまで言うなら仕方ないな! 管理もご主人様として当然の義務だからね!」


 幽刻は苺を摘まむと、ひょいっと紗々奈の口に運ぶ。


「んんんんんむ……クッキーシューと苺も……んむんむ……結構合うね!」

「そりゃよかった。新発見だ」


 満足気な紗々奈を見て、幽刻は苺が無くなった苺シューを頬張る。少々寂しいが美味いことには変わりない。次買ってくるときはもう一つ余分に買ってくるか、などと思いながら平らげた。

 丁度少女も食べ終わったようで、彼女は白い指についたクリームをペロッと舐めた。


「悪くない、うん、悪くない味だった。次はもう少しフルーティーなのをプラスワンしておくと尚良い」

「もう少し分かり易く言ってほしい所だがまあいい。で、一体今日は何をするんだ?」


 まだ呼び出された目的を聞いていない。


「ああ、そういえばまだ言っていなかったね。今日ここへ来てもらったのは適応配分(ラギルオン)を組み込んだ魔具の最終調整をするためだよ」


 そして彼女は本題を切り出した。




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