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君が十三人目の魔法使いになるまでに  作者: 十津川
二章 二人の交差路
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その1 紗々奈と学校で

 次の日。校内では夜の学校に不審者が現れたと言う話題で持ち切りだった。


「どうも校長室に盗みが入ったらしい」

「隠し部屋があってそこにお宝が眠っていたそうだ」

「何をどうされたかは公式には発表されてないから分からないが、プロテクトに引っ掛かった際に、ガードゴーレムが校庭にでるように設定されてたらしい。グラウンドがぼこぼこになってるのはその為だ」

「だから運動部の連中がマジギレしてたのか。犯人見つけたらぶっ飛ばすってさ」

「しかし問題は軍事用にも使われるほどのガードゴーレムが、あっさり倒されていた方だろうな。何人で侵入したのかは分からんが、下手したら何処かの国のエージェントだったのかも」


 廊下ではそんな会話が幾つも囁かれていた。

 幽刻が在籍するZクラスでも話題となっていたが、張本人の一人がペラペラと喋る訳にもいかない。莉子や美樹人に話を振られても曖昧な答えを返すことしかできないのであった。

 もう一人の犯人の方はというと、特に誰からも会話を振られることもなく、何食わぬ顔で授業を受け――ずに殆どを寝ていたのであった。


「何で学校に来たか分かったよ。休み時間に出て行って校長室の下調べしてたんだな」

「前もって調べられるならやるに越したことはないからね。おっとその卵焼きはボクが頂こう」

「ダメだ。卵焼きは最後に取っておくのが俺のポリシーだ」

「むっ……くっ……。そんなっ……無駄な、やっ……信念はボクが砕いてやろうじゃないか」


 横に座った紗々奈が、幽刻の弁当箱に入っている卵焼きを強奪しようと、横から何度も箸を伸ばす。いつもは教室で食べているのだが、流石に今日だけは教室で食べるのは憚られ、中庭の一角で持ってきた弁当を広げている。


「横から箸を伸ばすな、はしたない」

「あいたっ」


 防ぎつつ片手で軽く頭を叩くと、少し涙目になった彼女は諦めたように溜息をついた。


「……そっちのソーセージは?」

「一つならいいぞ」

「もぐ……うむ! これは適度にソースが絡めてあって絶妙だなっ! ボクに食されるに値する……もぐ」

「ほら、食べながらしゃべらない」

「ごくり……。んむ。ともかく貴重な宝石を手に入れた。魔法使いに必要な三大要素のうちの一つ『適応配分(ラギルオン)』を疑似的に再現するための魔具を創る準備は整ったという訳だ。幽刻、ボクは喉が渇いた」

「ほらお茶」

「ごくごく……。んむぅ。紅茶ではないのがマイナス点だが、たまにはグリーンティーも良いものだな」


 紗々奈を連れ出した理由はこれからの話をしたいという点もあったが、何より昼食時に食べるモノを持ってきてなかったのが大きい。

 昼休みに入った時、


「幽刻。ボクはお腹が空いた」

「購買で買えばいいんじゃないか?」

「ボクは現金を持ち歩かない主義なんだけど?」


 そんな主義知るかと突き放したかったが、仕方なく購買でパンを買ってここへ連れ出したのだった。

 とりあえず腹にエネルギーを入れたことで一旦満足したのか、紗々奈は話を始めた。


「さて。『適応配分(ラギルオン)』を補完するための魔具の作成は今日から始めるが、これはボクの方に任せてもらおう。それで君を魔法使いにする方法、つまり残りの才能を手に入れる方法だが」

「手に入れる……方法か。残りの条件は一応揃ってるんだよな」


 紗々奈は幽刻に顔を向ける。


「ああ。だが事はそれほど単純ではない。ボクが持つ『無限蓄積(アペシオン)』と、君が持つ『超高速分解(マナリオン)』。但しそれは「素材がある」だけであって「料理」にはなり得ない。正にその黄金の卵焼きを作るかの如く、それなりの条件が必要だということだ」

「つまり一人の人間がそれらを扱うには、他に何か条件があるって事なんだな。おっと卵焼きは渡さんぞ」

「ちぃ……。もうすぐご飯食べ終わるからいいじゃないか」

「半分減ってるのはお前が食べたからだろ。俺はまだ全然食ってないし」

「むぅ」


 こっそり卵焼きを奪い損ねた紗々奈が口をとがらせる。こういう時の彼女は年相応の反応をするのだった。


「こほん。いいかい。仮に魔法使いに必要な才能が全て君に備え付けられたとしても、それは生の素材のままだ。君が三軸の力と呼ばれる能力を使いこなすには、四大元素と人体五感の調和が必要となる」

「調和?」

「目には見えない繋がり。それは細い糸で体内を幾重にも重ねていき心臓で結びつける……。最もボクにもそんな事は出来ないからイメージでしかないけど」

「何だか凄いイメージだな。紗々奈は知らないのにイメージが湧くのか?」

「出来る人から聞いたんだよ。そしてその人に頼まないと、三軸の力の調和を得ることは不可能だろう。……実に、本当にとても不本意なのだが」


 紗々奈は体育座りに座りなおすと、憮然とした表情で顎を膝につけた。茶化したものではなく、本当に不快そうである。

 彼女がこんな感情を表に出すのは、これまでに――といっても非常に短い期間ではあるが――初めてだった。『その人』とは一体どんな人物なのか気になる所であった。

 幽刻の視線を察してバツの悪さを感じ、「非常に不快な人物の説明せざるを得ないけど」と前置きをして語り始めた。


「その人は医療魔術を専門にしている人物でね。腕は極めて高いんだが……その、性格に少々難ありなのだ」

「凄いな。紗々奈にそう言わせるとは大分問題ありのようだな」

「……『適応配分(ラギルオン)』を使うたびに最大限の苦痛を伴うように仕立てていい?」

「冗談だ」

「どうみても本気の目だったがな……まあいい。とにかく、極めて遺憾だけどあの人以外に調和を頼める人間はいない。どのみち一度は会わざるを得ない」


 紗々奈ははぁーっと心底嫌そうな溜息をつき、指で地面をつつく。

 幽刻にしてみれば逆にどんな人物なのか興味が湧くのであった。




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