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君が十三人目の魔法使いになるまでに  作者: 十津川
二章 魔法使いへの一歩目
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その6 ゴーレム

 セキュリティによってエレベータが停止しているため、外へ出るには校舎の外壁に取り付けられた非常階段を降りるしかない。

 だが非常階段を滑るように下りて行く幽刻とは対照的に、紗々奈の足取りは危なっかしい。


「佐々木急げ!」

「い、急いでる! 君が……はぁはぁ……早すぎるんだよ!」


 三階辺りに来た時には、紗々奈の息切れは相当激しいものになっていた。本人は全力なのだろうが、どうみても運動能力は小学生並である。

 あとどれくらいの猶予があるかは分からないが、少なくとも彼女のペースに合わせていては余裕が無いのは間違いなかった。


「仕方ない。おい、余り暴れるなよ」

「何言っ……ってひゃあ!」


 幽刻が紗々奈の細い身体を抱き抱えた。


「一気に下まで行くからな。おとなしくしてろ」


 そう一言注意すると、幽刻は少女を抱き抱えたまま非常階段を――文字通り――飛び降りた。

 自由落下する時の奇妙な浮遊感。それに付随する潜在的な恐怖に、紗々奈は思わず目をギュッと閉じる。


 一方の少年はというと、闇雲に飛び降りた訳ではなくちゃんと目的があっての行動だったので、紗々奈のように恐怖は勿論ない。

 跳んだ先には大きな木が何本も植えられている。

 その内の最も近い大きな枝に向かってタイミングよく手を伸ばし――佐々木を抱えていない方の腕で――上手く枝をキャッチする。

 その反動を利用して落下エネルギーを軽減させ、着地する……予定だったのだが、不本意な負荷を掛けられた枝の方は悲鳴を上げてポキリと折れてしまった。

 いくら紗々奈が軽いとはいえ、二人分の体重と落下によるエネルギーを支えるには少々細かったのである。

 着地前に、幽刻は咄嗟に少女が上に行くよう体勢を入れ替える。


「きゃっ」


 幽刻の身体が少女を受け止める形になったが、それでも怪我がなかったのは持ち前の運動神経の賜物と言えるだろう。


「痛てて……。おい大丈夫か?」


 幽刻は馬乗りのような体勢になってキョトンとしている紗々奈に声を掛ける。

 しばらく目を丸くしていた彼女は――ホッとしたような表情になってから、ハッとし、それから顔を赤らめ怒った表情を作る。


「い、いきなり何するんだ!」

「仕方ないだろ。遅いんだから」

「だったら一言くらい声を掛けてからにしたまえ!」

「もしかしてどこか痛めたか? 大丈夫な計算だったんだけど」

「大丈夫じゃないし! いや身体的には大丈夫なんだけど! …………少し漏れた」

「え、何だって?」

「……絶対許さないって言ったんだよ!」


 不服そうな佐々木がゆっくりと体を起こした。


「とりあえず正面玄関はダメ、だろうな」

「グラウンド側にも抜け穴は作ってあるから、そっちから行けばいい」

「さすが抜かりがないな」

「当然だよ。……あと言っとくけどこれは貸しだからね!」

「何故怒っている……」


 ワンピースの裾の部分をちょっと握りしめて浮かせているのがその理由なのだが、幽刻は知る由もない。


「まあいい。ほら行くぞ!」

「……って何でしゃがんでるの君は?」

「どうせ途中で息切れするだろ。お前を背負って走ってもそう変わらん」

「バカじゃないの。嫌だし」


 紗々奈が拒否したが言い争っている時間はない。幽刻は有無を言わさず彼女を抱き抱えた。


「……ちょ」

「文句は帰ってから全部聞く! ちゃんと掴まってろよ!」


 そう言って幽刻は走り始めた。

 不服そうな紗々奈の方はというと、言われた通り――ただし非難の意味も込めて――力一杯しがみ付いたのだった。



   ******



 それが現れたのは、二人がちょうどグラウンドの中央辺りまで走った時だった。


 突如地面が大きく盛り上がり、まるで火山の噴火のように弾けた。舞い上がった土は周囲に飛び散ることはなく、空中で一旦停止すると一か所に集まり塊となっていく。

 数秒後には、土で創られた巨人が立ちふさがっていた。


「ガードゴーレム!」


 

 魔術で構成された魔具の一種で、主に拠点防衛に使われる軍事兵器だ。幽刻がそれを知っていたのは写真で何度か見たことがあったからである。


「まったくあんなものまで配置してるとは。ハゲは性格が悪いという説を裏付ける証拠となり得るね」


 全国の15%くらいを敵に回しそうな発言をした紗々奈は、次の瞬間警告をの声をあげる。

「来たよ! 避けたまえ!」


 人の3倍もある拳が、ぐいんと迫っていた。

 あんなものに殴られれば無事では済まない。幽刻は紗々奈を背負ったまま左に跳んだ。

 軽い地響きと共に、二人がいた地面が大きく抉れる。見るとちょっとした穴が開けられていた。


「可哀想に。明日野球部とサッカー部とソフトボール部と陸上部から苦情が来るだろうね」

「悪いが今心配すべきはそこじゃない。当たったらやばいぞ」

「可愛い生徒を殺す気満々だね、まったく非常識な」


 夜中に校長室に忍び込むのとどっちが非常識なんだろう、と思ったが口に出して紗々奈の反論を貰う気はない。

 早く何とかしないと警備も駆けつけてくるだろうが、目的の抜け道はゴーレムの先にある。丁度いい場所に現れたことを恨まざるを得ない。


「攻撃系の魔術を組み込んだ魔具はないのか?」

「ない。そういうのは使わない予定だったからね。全部置いてきてる」

「じゃさっき使ったC4は?」

「あれっきりだ」

「爆弾魔の爆薬もないか……」

「誰が爆弾魔だ、誰が。きゃっ!」


 幽刻が素早くしゃがむと、大きな腕が二人の頭上を凪いでいく。物理的な攻撃であれば持ち前の運動神経である程度回避することもできるが、如何せん紗々奈を背負っている分動きは制限される。

 走って逃げるにも距離がありすぎるため、この窮地を切り抜けるにはやはり目の前の異ゴーレムを何とかする必要がありそうだった。




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