必殺技ならみんな持っているさ心の中に
捻くれ者の高校生俺こと少年眠月はこれから人殺しをしようと決意した少年と相対していた。つい先ほどまでは紅城のセクハラ疑惑をほのぼのと解決していたわけだが打って変わり今は殺伐とした異能力のバトルものになっている。
同時進行の紅城くんたちの方は近々番外編で語るのでよろしく。まあ宣伝はここまでとしよう。殺伐としているわりに宣伝をする時間があったのは本日の敵が無口キャラであり、前の位置から一歩も動いていないからだ。
「さあ、名を名乗ろうよ。自称『恵まれていない』虚河巡くん」
整った顔立ちを少し歪めて思案している虚河くんに満面の笑みを浮かべて両手を広げる。
何故名前を知っているというより『恵まれていない』を何故知っているかについて考えているのだろう。風に吹かれて癖っ毛のある金色の髪がなびいた。たしか祖父だか祖母が白人の方だったかな。
「………」
無口キャラという設定をまだ引きずっているらしい。もっと自分を出していけばいいと思うよ俺は。
「沈黙は肯定というからね。自己紹介はいいとしようか」
「……何故名前を知っているんだ?」
「おっやっと口を開いてくれたね?俺はなんでも知っているのさ。むしろ知らないことの方が少ないくらい。それよりこんなことはやめにしようまだ未遂だから間に合うって」
彼の名前も今日行動する予定も教えてくれたのは知り合いの自称『嘘吐き』の巫女さんだけど、細かいことはどうでもいい。
「何故僕の攻撃を知っている?」
「本題ってやつだね?さっきの言葉じゃ信じてもらえないか。何故知っているかは教えてあげないよ。俺は捻くれ者なのでね正直には教えないよ」
話す意味がないと悟ったのか地面を蹴り上げ虚河くんはこちらに接近してくる。接近戦では勝ち目が0と言っていいほどない。時間稼ぎに後方へ少しで下がりながらポケットを漁る。
「剣より槍が、槍より銃が強いように素手にはリーチが長いクラッカーです」
ポケットから取り出した2つのクラッカーの糸を強く引き絞る。虚河との距離はあと1mくらいだろう。その距離を埋め尽くすようにカラフルな紙たちが勢いよく飛んでいく。発射と同時にクラッカーから手離す。
こんなことがあろうかとファミリーパーティー用クラッカー6個入り120円をコンビニで買っておいたのだ。
しかし埋め尽くしたのは一瞬で虚河の両手に触れたかと思うと一瞬で吸引されるように虚河の手元に集まり最終的には粉々になった。
「効果範囲に入ったもの物質を圧縮する能力ね。しかも認識した物質全てということかな?」
あくまでも冷静を装うが少しでも当たったら即死である。話には聞いていたけどこれは不味い。
「……次は当てる」
虚河くんが前に走り出したのと同時にこちらも前へ走り出す。ここからは近接戦である。再びポケットを漁り左手でスタンガンを取り出す。
虚河くんが次々と繰り出してくる手をぎりぎりで回避していく。鬼ごっこで例えるなら足では敵わない鬼に対してタッチされないように逃げるようなものなのだからつまり困難だ。
回避しながらスタンガンを当てる隙を探していく。ミスをした方が負けである。こういう細かいゲームは得意な方だぜ。今のところは防戦一方だが。
1分たっただろうかとても疲れてきた。打って出るには今しかない。
「必殺」
ポケットから新たに鉛筆を二本取り出す。一見どこでも売っている普通の鉛筆だが芯の部分が回転しているのだ。捻くれ者だけに物を捻る能力を俺は持っている。ずっと捻れば回転するわけだ。
「反撃開始といこうか」
できるかぎり優しい笑みを浮かべたつもりだけどお前のそれはドヤ顔と言われたのできっとドヤ顔で決め台詞を言った。