幸運は人によって違ったりする
ちょうど通りかかった駅前の時計台は午前10時半を指していた。今は6月の中旬であり、天候は快晴と穏やかな気候。俺こと眠月は雲一つない青空を見ながら溜め息をつく。
「暑い、何故に今日買い物なんだろうか?」
「まあまあ、仕事だからしょうがないって」
数少ない友人である紅城は目を隠すまで伸ばした黒髪を揺らして苦笑いを浮かべた。
そう今日は生徒会の仕事である買い物に来ている。そのため休日に駆り出されているのだった。
「それにしても会長は来なかったなこっちは午前中に他の用事あるのに」
「これは怒っていいと思うが」
生徒たちから満場一致で生徒会長に選ばれたわけだけど彼は遅刻の常習犯でもあったわけで、二人で学校の備品を買いにきているのだ。
学校の備品は生徒会の仕事ではないと思うが前回の生徒会がそれを自主的にやっていたらしい。その名残で次の生徒会、つまりは俺達の代ではその買い出しが義務化されている。
まったくもって面倒だ。
「今度会ったら一発。で文具店はこの近くだよね?」
気づくとあまり見覚えのない両脇に木々が植えられた広い道を歩いていた。さっき駅を見たのだからその近くだとは思うけど。
「この辺りだったはず?あれって外国人か?」
紅城が指差した方向へ促されるまま視線を向けると長身と言っても良さそうな背丈に印象的なその腰まで届く銀髪を持つ少女が目の前を歩いていた。まあ顔は見えないので実際のところ少女かわからないが靴が女性ものような気がするだけだが。銀髪をは国人でもいないはずだった気がする。
「日本人じゃない?」
「顔が見えないからわかんないな」
前を歩いているため当然後ろ姿だ。
銀髪の人物に向かって道の脇に植えてあった木がゆっくりと傾いていった。
「危ないっ」
と言ったのは当然俺ではなく紅城だ。木が倒れて前にいる少女が下敷きになる前に抱き着き転がるようにして助けた。
俺にあんな反射神経もといとっさの判断ができるわけがない。
「大丈夫?」
一拍遅れて駆け寄る。ちなみに倒れた木が大きいので飛び越えずに遠回りしてから彼らのもとに辿り着いた。
実際には、歩いてむかったわけで急いではないけど気持ち的に急ぎました。
「大丈夫だ」
と紅城は一緒に倒れている少女の胸に顔を挟まれながら答えた。
これは……かなり胸が大きい。少女の顔からして同年代いやもう少し下の可能性もあるが高校一年生ぐらいであの大きさは中々だと思う。
世の中は不条理だという人がいるがこれがまさに人それぞれ幸運に差があるということの体現だろう。
「いたたた」
と倒された少女が呻きながら体を起こすと自分の状況を確認した。
「まてまて待ってくれ話せばわか」
「いやああああ」
少女は手を振り被るとそのまま紅城に向けてビンタをかました。
まあ普通に考えて正しい反応だと思うけど助けて上げたのにそれは酷い気がする。
その後も少女の殴る蹴るが続き、紅城が気を失うとやっとのことで理不尽な暴力が終わりを迎えた。
紅城への攻撃により息が上がった少女は立ち上がると衣類についた土を叩いていた
「落ち着きました?」
「あなたは?」
紅城の仲間だと思ったのかさっと距離をとり、格闘技か何かの構えをとった。
たしかに仲間ではあるがラッキーで胸の間に挟まるようなやつの仲間かといえば違うだろう。
「いや、違う彼の仲間ではない」
説明するの簡単なのだけどそれでも面倒だと思いながら事実を教え始める俺だった。