『永遠』それは儚く、虚しい言葉
『永遠』
小さい子供や恋人たちが使っているのはよく聞く・・・が、くだらない。
人はいつか死ぬ、だからあるわけないじゃないか。
じゃあなぜ永遠を誓うんだ?
嘘をつきたいから・・・?
きっと違うだろう。
わからない。くだらない。
そう思ってた。
そう思って生きてきた。
・・・今夜、貴方に会うまでは。
*
客「倉掛くーん!!」
倉掛「あ・・・はい。」
俺の名前は佐野由月、23歳。
大学を卒業し、バーテンダーで働いて1年目の新米。
今日も人が多く、ここ【BARフィオーレ】は賑わっている。
倉掛「ご注文は?」
客「じゃあ・・・ギムレットを1つね。」
倉掛「かしこまりました。」
))カランカラン
倉掛「いらっしゃいませ」
客「・・・」
すらりとした体型に、綺麗な顔立ちの女性。
・・・この人、初めて見る。
ちなみにさっきの人は常連。
女の人はカウンターの前の席に座った。
倉掛「ご注文は?」
女性「じゃあ・・・マティーニを1つ。」
倉掛「かしこまりました。」
マティーニ。
ジンベース、通称カクテルの王様。
ベテランでも作るのは難しくて、俺には無理だ。
マスターに頼んで俺はギムレットを作るか・・・
と、思ったが。
女性「貴方の作ったマティーニで。」
倉掛「え?」
女性「貴方の作ったマティーニがいいな・・・」
そう言ってにこりと微笑む。
その笑顔・・・反則ですね。
倉掛「でも俺・・・じゃなくて僕、無理です。
まだ人に出せるほど上手くできなくて・・・」
女性「なら私が初めて・・・ってことかしら?」
倉掛「はい。」
女性「あら、なら余計欲しいわ・・・あなたの初めて。」
倉掛「へ?」
まさか・・・
女性「ふふっ冗談よ。」
なんだよ・・・びっくりした。
でも上手くまるめこめられて作ることに。
))コト・・・
ミキシンググラスに氷を入れジンを45ml、ベルモットを15ml入れてからステアしてグラスに注ぐ・・・―――――――――
たったこれだけの作業なのに難しく、個性が出る。
俺が作っている間、女性はずっと俺を、俺のグラスを見ていた。
倉掛「出来ました。」
女性「上手ね。いただきます。」
“ゴクリ”となるのが分かるぐらい彼女を見つめる。
女性「おいしいわね・・・ってそんなに見なくても・・・」
倉掛「あ、すみません。つい・・・」
女性「ま、私も初めてマティーニを作ったときはそうだったわ。」
倉掛「初めて?」
女性「ええ・・・懐かしいわ。」
“こんなこと言うほど私まだ年をとっていないけど”そう言って苦笑いした彼女に胸が高鳴った。
女性「私も・・・バーテンダーなの。」
倉掛「そうだったんですか・・・」
女性「ちなみに花の20代、まだ30歳まで言ってないわよ。」
倉掛「は・・・はぁ。」
女性ってなぜこんなに年を気にするのだろうか。
女性「貴方は人生をどういうものだと思う?」
倉掛「え?」
女性「いいから・・・答えて。」
倉掛「えっと・・・わからないです。」
女性「・・・」
倉掛「生きてて楽しくないってわけじゃない。
でも嘘をたくさんついたり、人に振り回されたり・・・つまらない世の中だと思います。」
女性「・・・そっか。」
倉掛「あ・・・なんかすみません、暗い話になっちゃいましたね。」
女性「いえ・・・私がしてって頼んだから。」
倉掛「なぜ・・・そのようなことを聞いたんですか?」
女性「貴方のマティーニ・・・味がないの。」
倉掛「え?」
女性「いえ、味はあるのよ?あるけどない・・・そうね、クセがない。特徴がないの。
まるで・・・空気のように、ここにいる・・・けどいないの。」
倉掛「えっと・・・」
女性「まだぼうやには難しいかな?」
クスッと笑いながら飲み干した。
貴方がまだ20代ならまだそんなに年が離れていないのにぼうやなんて言わないで下さい。
))ガタッ
倉掛「もうお帰りですか?」
女性「ええ・・・でもまた来るわ、きっと」
倉掛「そうですか・・・」
時計を見るとこの人が来てから、もう1時間も経っていた。
時間が経つのってこんなに早かったっけ・・・?
いや・・・それはこの1時間が夢のようなものだったからだ。
愛しい。この1時間もあの女性も。
素直にそう思った。
今夜、この1時間が。
永遠にあるものなら・・・
少しだけ、今夜は永遠を願った。