8. お説教
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ありがとうございます。
「うん、じゃあ、とりあえずトーコ」
にっこりと笑って見下ろして、指先で自分の足元を指し示す。
「正座」
「…………ハイ」
その日の夕方、いつも通り家に帰ろうとしたら、家の前に立っていたヤマト兄に捕獲されました。
おばさんトーコ借りますね~、いいわよ~。好きにしちゃって~、じゃあ、お言葉に甘えて。荷物は玄関に置いときます、あらありがとう。
そんな会話を茫然と聞いているうちに荷物は取り上げられ、自宅玄関に置かれたかと思うと、そっと肩を掴まれた。
「じゃ、行こうか」
死刑台に上る囚人の気分です。
「三日前に釘刺したばっかりだよね?」
「ハイ……」
お隣のリビングに正座させられ、目の前に仁王立ちしているヤマトからそっと目をそらす。
あいかわらずの情報の早さが今日ばかりは恨めしい。
だからこそ、今日はヤマト兄が生徒会のお仕事があるうちに家に帰ろうと思っていたのに、なぜ先にいるのか。
「そんなのサボってきたからに決まってるでしょう」
「いやダメでしょ、サボっちゃ! 生徒会長が……ってかそれより、人の心を読まないでくださぃ!」
「トーコがわかりやすいんだから仕方ないでしょう」
「仕方なくないよ」
「仕方ないの。それに仕事より、トーコの方が大切に決まってるでしょう」
愛情のこもった言葉を嬉しいと思うよりも、ひしひしとのしかかる圧力に縮こまる。
「なんでやらかしちゃったのかな? トーコ」
「え、ええと……」
「タケルも怒るくらいってことは、派手にやったんでしょ? 小学校でタケルが俺と比べられていじめられた時と同じくらい? ミコトをいじめた悪ガキの心に消えない傷をつけた時くらい?」
「いやその…………」
「そう、それよりもっとか」
「あのぅ」
「あの時も、俺とタケルで大分叱ったと思うんだけど忘れちゃったのかな」
「しゃ、喋らせて下さい……」
怒涛のお説教プラス、思い出したくない黒歴史発掘に呻く。ついでに言うと、今日の出来事も確実に黒歴史行きだろう。
「じゃあ、喋っていいよ、どうぞ」
「うん、その、ね」
ようやく喋ることを許されて、ちろっと見上げる。
「最初はね、本当に見てるだけにしようと思ったの。だけどね……どんどんエスカレートしていくうちにイライラが増してきてね」
もじもじと手を動かしつつ、目線をそらす。
「今日も、椅子を向けて見てるだけで白けて座るならそれもよしと思ったんだけど、詰め寄ってこられて。軽くこう釣り上げてみようかなとわくわくしてきちゃって、煽ったらこうひょいっと」
手に釣竿を持ったような仕草。そして、それを引いて見せて。
「簡単に釣りあがったのでつい」
「ついじゃないし、人を釣り上げるんじゃないの」
「よく言えば純粋だけど、悪く言えば単純。周りも見えてないみたいので、視野を広げてあげようかなぁと」
「広がると同時にトラウマが残る。変に逆恨みされたらどうするの。まったく」
ぶつぶつと小言で呟いてから、諦めたように吐息をつく。
「じゃあ、これからトーコが注意しなくてはいけないことは何?」
「えっと…………彼女がいじめられたことで目覚めてMへの道を……」
「トーコ?」
張り付いた笑顔のまま、短い呼び声。
一瞬で重くなる空気。
「ええええと、逆恨みで仕返しされないように気をつけることです!」
「よろしい。…………もう、ここまで事態が進んだら、俺とあんまり接触しないようになんて無駄かな。せっかく俺が、トーコに近づかないようにしてたのになぁ……」
「面目ない」
「カナメにも目を配るように言ってあるから」
「え。そんな、カナメ先輩に申し訳ない」
「いいんだよ。カナメもトーコを気にいってるんだから」
「そうなの? 気にいってもらえるようなこと何かしたっけ?」
「さぁね」
カナメに同じことを聞いて、含み笑いで内緒ですと言われたことを思い出し、ちょっと口をとがらせる。
「とにかく、何かあったら、俺、もしくはカナメも頼ること。いいね」
「はーい」
「よろしい」
素直な返答に満足げにうなずいて、頭をぐりぐりと撫でる。
「あのう、ところで……」
「うん?」
「もう正座は解いてよろしいでしょうか……?」
「………………」
「ちょ、そのうごうごした指の動きは何、や、ちょっと待って!! 触んないで……あーーーっ!!」
お隣にトーコの悲鳴が響き渡った。
7/11 調整、改訂しました。