7. 貴方だけしか見えないなんて、許さない
本作品に、ハーレム系、又はハーレムヒロインを批難する意図はありません。
ご了承ください。
トーコが釘をさして、三日目。
その日も授業は中断していた。
(まぁあの程度の忠告で止まれるくらいなら、タケルでどうにかなるわな)
タケルの周囲に陣取っていた剣道部のリツカが、数学の問いを間違えた。
それをお嬢様気質なミナコが鼻で笑い、そんな問題を間違えるなんて、タケルに相応しくないなどと言い出したのだ。
慌てて、それを仲裁しようとしたタケルだったが、当のタケルが間違っていたのをいいことに、委員長スミレはタケルに優しく教えてあげようとして、他二人が、抜け駆けするなと騒ぎ出す。
今日の騒動の一連はそんな感じ。
ここ数日、三人がお互いの隙を探し牽制しあうせいで、こうした騒動が起きていたのだ。
教師もまた仲裁に入るのだが、三人の暴走っぷりは測り知れず、『勝負しなさい!』『望むところよ!』なノリで教室を飛び出していったこともあった。
それをほったらかしにできるタケルではない。
結局授業に参加できず、成績急降下フラグがびんびん。
ただでさえも頭がとびぬけて良いというわけではないのに。
このクラスの数学担当教師は気の弱い眼鏡中年だ。
仲裁どころか、どう声をかけるべきかおろおろしている。
「今日は長くなりそうだね」
隣の席のチカがこそっと囁いてくるのに小さくうなずいて、深いため息を零す。
「仕方ない、か」
これ以上ほおっておくことはタケルの立場すら危うくする。
どうしてあの三人は気付かないのか。
そう思いながら、がたんと音を立てて立ち上がる。
「……?」
その音に振り返った三人とタケル。
中でも三人の少女に緊張が走った。
あれだけきっぱり言ったのに、まだ疑ってるのか。
いい加減気付いてもよさそうなものなのに。
(私の立ち位置は恋敵ではなく、むしろ小姑だってことに)
タケル達の方を見ずにトーコは椅子の位置をくるりと回す。ちょうど正面にその騒動が目につく向きに。
そして、そこにゆったりと腰かけ、膝と腕を組み。
「…………………」
無言でそちらを見つめた。
完全なる傍観姿勢。
監視体勢と言ってもいいかもしれない。
その行動にタケルはぽかんとし、三人はたじろいだ。
「な、何よ。なんでこっちを見るのよ」
「ん? 私、こないだ言ったよね」
「な、何を」
「私はただ、見てるだけって」
「そ、それはそうだけど」
本当に真っ直ぐに観察されるとは思ってなかったのだろう。
「言いたいことがあるんなら言いなさいよ!」
「口出ししてほしくないんじゃないの?」
「そうやってじろじろ見られるよりはましだわ!」
キャンキャンと高い声でわめきながら噛みついてきたのはミナコ。
今回の騒動の引き金を引いた人物であり、トラブルメーカー。
トーコとしては一番の要注意人物。
「じゃあ口出ししてもいいのね?」
「い、いいから言いなさいよ!」
(簡単に釣れるなぁ……。ちょろすぎて複雑……)
わざと意識を引き寄せるように音を立てて座り直したのも、はっきりわかるように観察したのも、彼女を煽る為だったトーコだ。
「発言権を貰ったところで言わせてもらうけどさ」
ここでざくっと一撃入れておいてあげよう。
その無駄に高い虚栄心をたたき折る為に。
「視野が狭すぎる。余りにも幼い。行動が小学生レベル。つまりは常識を一から勉強しておいで?」
あくまでも優しい声で、ゆったりと微笑んで、トーコは毒を吐いた。
「な、な、なんですって!?」
「ちょ、トーコ!?」
いきり立ち、声を荒げた彼女にふわりと極上の微笑みを送る。
「平気で授業の妨害をしておいて、それが真っ当だとでも思っていたの?」
「わ、わたくしは別にそんなつもりじゃっ!? わたくしはタケルのことを……」
「責任はタケルに押し付けるんだ。ふぅ~ん」
最後まで言わせない。
責任転嫁は許さない。
「そんなことはありません!」
「じゃあ、タケルには関係ないんだ? この騒ぎも度重なる授業中断も全部貴女一人のせい? 違うよね、必ずタケルが巻き込まれてるよね。ねぇ、それでタケルの立場がどうなるかとか考えたこと、ある?」
「立場、って……」
「いい迷惑だって思ってる人たちにとって、タケルは元凶だもん」
「なっ! ではタケルを貶める者がここにいるってこと!?」
叫んで、険しい顔で教室を見まわす。
「うん、いるよ~。タケルを貶めるヤツ」
「誰ですの!?」
軽く答えたトーコに詰め寄るミナコ。
そのミナコにトーコは人差し指をつきつけた。
「この人」
「…………え、わ、わたくし?」
「そう」
詰め寄ってきた分、二人の距離は近い。
ミナコの目には既にトーコしか映っていない。
その状態で、優しく言い聞かせる。
「何度も何度も授業を中断させて、周りの反感をあおり、タケルを見る周囲の目が変わっていることにも気付かず、更にタケルを貶め続ける人。ねぇ、本当はタケルを嫌いなの?」
すぐそばでマモルとチカが青ざめて震えていた。
「うわ、ひっさしぶりにでた……ドSトーコちゃん」
「…………平気な顔してたけど、本当はずっと怒ってたんだね……」
「正直に言っていいんだよ? 実はタケルを嫌いなんでしょう? タケルがどれだけ人に嫌われてもいいんでしょう? 授業中断で成績落としてもかまわないんでしょう?」
「わたくしはそんな、そんなつもりじゃ……」
「楽しい?」
「え?」
「タケルが困ってるの、楽しい?」
「ちが、……違うの、私……」
「タケルが嫌われていくの、嬉しい? ねぇ、そんなことして、好きになってもらえると思ってるんだ?」
じわりと涙が目じりに浮かぶ。
カタカタと震えながら、後ろを見ると、タケルがこちらを見ていた。
嫌われる?
嫌われるようなことをしていたの?
頭の中がそれで一杯になる。
「わ、わた、わたくし……っ!」
ぼろっと涙がこぼれだし、慌ててそれを手でぬぐう。だが収まる気配はなく。
「っっ!!」
ばっとまわれ右して教室を飛び出した。
「あっ! ミナコちゃん」
それに続いて、タケルは教室を飛び出そうとする。
「タケル」
それを一声で呼びとめて。
「っトーコ、ちょっと言い過ぎ!」
「わざとだもん」
顔を歪めての苦言にさらりと返す。
先ほどまで浮かべていた凶悪な微笑はもうない。
いつも通りのトーコの表情。
「私がここまで悪役やったげたんだから、慰めるときの声かけは慎重にね。こう、嘘じゃないから改善してほしいけど、嫌ってないから、みたいな感じがベストかな」
「おま……ああもう! 後で話があるから覚えとけ!」
そのアドバイスに全部作戦であったことを知り、呆れ返る。
(ヤマト兄に矢面立つなって言われてんのにっ!)
ヤマトから直接そう聞いていたタケルの心に苛立ちがわきあがるが、今はその話をしている場合ではない。
「行ってくる!」
「行ってら~」
扉を跳ね開ける勢いで弾いて、廊下へとミナコを追って飛び出す。
「あ、タケルくん!」
「タケル!」
「他、二名」
「「っ!」」
飛び出したタケルを追っていきかけた二人にひんやりとした温度を持つ声が突き刺さる。
「着席。……で、先生、授業再開お願いします」
『行かすかよ』
『黙って授業聞いてろ』
『君らも同罪だ』
その三つの条項を強い目線だけで伝えてトーコもまた座り直す。
その迫力に負けた二人もおとなしく席に着いたところで授業は再会した。
だが、すでに教室の生徒+教師の集中力は途切れており、ある共通意識が脳裏を支配していた。
すなわち。
『『『『『『怖えええぇぇぇ!!!!』』』』』』』
彼女だけは怒らせてはいけない、というのはクラス全員の総意となった瞬間だった。
やらかしたトーコちゃんです。ハイ。
ドS降臨。主人公は基本的にドSです。
おおぉう。
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