6. 変わりゆく世界
今回はタケル視点でございます。
日間ランキング10位ありがとうございます!!
「うううう、大丈夫かな、トーコ」
『絶対来ないでね』
びしっと指を突き付け、釘を刺されたタケルは教室で悶えていた。
「おい、タケル、昼飯は?」
「あ、うん、食べるけど……」
「じゃ、ここ借りるな」
タケルの前の席の生徒に声をかけて、正面に陣取ったのはマモル。
「食おうぜ」
持参の弁当を机の上で広げ始めるマモルに促されて自分の弁当も取り出す。
「…………へへ」
「……なんだよ?」
その様子を見て、ちょっと笑うマモルに首をかしげる。
「お前と食べるの久しぶりだなと思ってさ」
「あーー……そうだな」
ここ最近はあの三人がずっと傍にいたからだ。
彼女らは他の誰かがタケルに近づくたびに警戒する。
女子なら敵視するし、男子なら眼中にない。
思えば、この騒動が発生する前はマモルを始めとした数名で昼飯をとっていたのだった。
そのメンバーにちらりと目線を送ると。
さっと目をそらされた。
「あ…………」
「あー……まぁ気にすんな」
傷ついた表情を浮かべたタケルに気付いたのだろう。マモルが取りつくろうように笑う。
「……みんな、戸惑ってるだけだ」
「……うん」
ずしっと胸の奥に重たいものが生まれた。
何度も見たことのある光景だった。
何度も見たことがある目だった。
兄の周囲で。
(ああくそ……)
なんで自覚していなかったのか。
三人に振り回されて、それ以外が見えていなかった。
ヤマトは昔からモテていて、その周囲の男からこんな風に避けられていた。
だからヤマトはいつも周囲に気を使い、女子にばかり構うようなことはしなかったし、均等で平等な態度を心がけていた。
だが、タケルはどうだ。
今まで仲が良かった男友達をほったらかしで、急に学年でトップ3に入るような美少女とばかり戯れている。
まぁ、実際戯れているという程、楽しげには見えなかったのだが、どちらにせよ、関わり合いになりたくないと思われるような状態であった。
自分だったら。
今までモテてなかった友達がそんな風に美少女に囲まれ、急にこちらを相手にしなくなったら。
きっと距離感を感じて、同じようにしているだろう。
三人が離れた隙にでも、話しかけてくれたマモルの存在に感謝する。
マモルはトーコにとってのチカと同じく、タケルの小学校からの友人の一人、悪友と言ってもいいかもしれない。二人でしょっちゅう悪戯をしていた。
「トーコちゃんも大丈夫だって」
表情を曇らせたままのタケルを宥めるようにそう言うマモルをちろっと見上げる。
「お前も俺とトーコが付き合ってるって思ってた?」
「いんや、それはねーよ。思ってたらとっくにぶん殴ってるよ」
「え。なんで」
「俺、トーコちゃん初恋だもん」
「はあああ!? ちょ、知らなかった! 言えよ!」
「言うかよ! だって、お前、隠すのとか嘘つくのとか苦手だし、変に気ぃ遣いそうだし」
「いやそれは……うん、でも……えぇえぇ……」
友人付き合いをしていて十年余り。
衝撃の事実発覚。
「とっくに振られてるけどね」
「え。告白もしたの?」
「まーな。即答で謝られたわ。あんまり聞くな。泣くぞ」
「あ、ごめん。……でもいつ頃?」
「中1んとき」
中学一年生の時、というと、4年前。
思い出す。
思い出して、胃の腑に重たくて冷たいものが満ちた。
それに慌ててうつむき、表情を隠す。
(あの頃は、まだ)
「トーコちゃん、好きな人がいるんだって。一応お前か、兄貴か聞いたけど、どっちも違うって言ってた」
「うん」
「知ってたんだろ」
「まぁな」
「だから、なおさら言いだせなくてな。トーコちゃんが他の人を好きだと知ってて、俺がトーコちゃんを好きだなんて言ったら、頼んでもいないのに勝手に悩むだろ。お前」
「…………」
否定できない。
確かに親友と、トーコと、トーコの好きな人の間で頭を抱えて悩みまくるであろう自分を自覚している。
「トーコちゃんはさ、同じ年なのに、ずっと年上の女の子みたいな、早熟なコだったから尚更ドキドキしてた。考え方もしっかりしてて、ほんとに中学生かよって思うくらい」
「…………うん」
「だから大丈夫だって。お前が困ってんの気付きもしないで暴走してるアイツラよかずっと大人だから、適当に転がしてくるだろ」
こう掌で、と言いつつ、掌を上に向けて何かをそこで転がすような仕草をするマモルに苦笑する。
「まぁ、うん。……そりゃそうかもしんないけどさ……。それでも俺はヤマト兄みたいに上手にできないんだよな、って思ったら、やっぱちょっとヘコム」
「無理もないさ。お前、こういうの初めてだし。つか久々に聞いたな、その兄貴みたいに上手くできないっての」
一時期のタケルの口癖だった。
兄と比べられて辛かった。
兄が妬ましいと思ったことは、少なくない。
反抗してかみついていた頃もある。
だけど。
そうするうちに気付いた。
兄が自分の傍に当たり前のように存在する悪友達のように、相談したり遊んだり、ハメをはずしたりする友達がいないことに。
兄は一人だ。いつだって独りだった。
傍にいてやれるのは自分と、家族と、トーコだけだった。
それなのに自分は何をくだらない虚栄心で反抗しているのか。
多分、トーコはずっとそれを知っていた。
だから何も変わらず、ヤマトと親しんでいて、ヤマトも溺愛というレベルで可愛がっていた。
目が覚めたような気分で反抗をやめた時、嬉しそうに笑ったヤマトの表情をタケルは忘れない。
『特別』な人間には『特別』な苦悩がある。
普通である自分には縁がなくても家族なんだから、それをわかってやらなくては、と思ったものだ。
まさか自分にその苦悩が降りかかってくるなど思いもせずに。
「…………あー……もう」
思わず疲れ切ったためいきが零れる。
「疲れてんなぁ」
「うん、疲れた」
がっくりと肩を落とすタケルを気の毒そうに見る。
「マモ~」
「なんだよ」
「あのさ、俺頑張るからさ」
「あん?」
「ヤマト兄とかにも相談してがんばってみるから、友達辞めないで」
とりあえず、本格的にあの子らをなんとかしなくては。
好意が嬉しくないわけではないが、この状況は彼女達にとってもよいものではない。
自分の周囲に集まる少女達をみて気付いたことがある。
彼女らはそれぞれの個性、我の強さが原因で周囲から浮いている。
彼女達も又、ヤマトと同じ『特別』な苦悩を抱える人だ。
(気付かなきゃ、拒否して終わりだったかも知んないのに)
見捨てられない自分はやっぱりお人よしなのだろう。
脳裏に一人の少女が浮かび上がる。
煌びやかと言えるような見事な金髪と、透き通る空のような蒼い瞳の少女。
二ヶ月ほど、ほぼずっと行動を共にした少女。
いきなり飛ばされたあの異世界の、彼女の国の人たちを見捨てられなかったみたいに。
目に届くところにいて、自分の力で何かできる人なら、助けてやりたいと思うのだ。
ヤマトにあの笑顔を浮かべさせてあげたみたいに。
「馬鹿だなぁ、お前」
そんなことを考えているタケルの上から、深いため息が降ってきた。
マモルだ。
「そんなこと、言うまでもないんだよ」
「へ?」
「お前の周りがなんて言おうがさ、俺は友達をやめる気はねーし」
「マモル……」
その言葉に嬉しくなって微笑む。
目頭が熱くなる。
友人というものがどれほど大切なものなのかを再確認。
しかし。
「あ、でも、俺。騒動巻き込まれんのご免だから、あいつらいるときは近づかないから!」
「この薄情者ぉぉぉぉ! 助けろよ!」
「だが断る」
「いい笑顔してんじゃねぇぇ!」
やはり、当分の間、タケルの苦労は続くようである。
予想以上のお気に入り登録数におののいています。
失速しないよう、がんばりますのでよろしくお願いします。
7/11 調整、改訂しました。