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45. ゆらゆら揺らいで

あけましておめでとうございます!!

今年もよろしくお願いします。


そして、お久しぶりです…すんません。



恋は時に苦くて苦しい。

それは、おそらく、すべての人にとって。



「こんな時間になってごめんなさい」

謝罪するカナメにトーコは首を横に振ってみせる。

「いえ、こっちこそ。お忙しいのにごめんなさい」

 二人がいるのは生徒会室前の廊下だ。

 授業が終わってすぐ、カナメと合流したトーコだったが、実はまだ校内にいた。

 本日、生徒会長であるヤマトが、エリシア達の付き添いで不在であるため、急遽発生した書類決裁に副会長であるカナメが対応せざるを得なかったのだ。

 普段はそんな緊急性のある案件などそうないのに、その日に限って発生したのは何の因果だったのか。

 トーコは申し訳なさげな様子で少しつき合って欲しいと言ってきたカナメに笑顔で承諾して、共に細々とした雑用をこなしていたのだった。

 現在の生徒会役員は、ヤマトが中学時代に生徒会長をしていたメンバーの持ち上がりが多く、すでにトーコと見知った者も多かったため、予想外の歓迎を受けたトーコが驚いたというのは、ただの余談である。

「……向こうはどうなったかな?」

 廊下を連れだって歩きながら、トーコの口からこぼれたのはそんな一言。

「心配ですか?」

「それは…まぁ」

 歯切れ悪く頷いたトーコに、カナメは少し意外そうに眉を寄せた。

「何か気掛かりが?」

「ええと……」

 その問いかけに返答を躊躇う。

 そんなトーコを静かに見つめ、急かさないカナメに、諦めたように視線を向ける。

「少し、強引すぎたかな、と」

「ああ。まぁ、確かにそこは否定できませんね」

「……うぅ」

 正直なところ、カナメは今回の話を聞いた時思ったのだ。

 らしくない、と。

 小さく呻いて、気まずげに目をそらしたトーコには自覚があるのだろう。

「待つことはできなかったんですか」

 問いは的確だ。

 カナメはいつだって正確に、的確に問いかける。

「タケルさんが自分で対処できるまで、待つことはできなかったんですか?」

「……」

 トーコはいつだって三人を甘やかす。

 そう認識しているカナメにとってすら、以外に思うほど性急な話だった。

 最初にこの計画を持ち上げたのは、タケルがヤマトに異世界のことを話してからしばらくのこと。

 つまり、エリシアと逢う以前のことだ。

 それはつまり、エリシアの感情は推測しかできない時期のこと。

 そんな状態で、下手をして断られ、関係がこじれるかもしれない計画を立てたことになる。

 概ね好意的であろう、という希望的観測のもと、もし万が一そうした感情が相手になくても、勇者であった恩をきせて、従わせようという話もあったことを、カナメは知っている。

 いかに三人甘くとも、他の人間はそれに比例して突き放しても平気であろうとも、らしくない。

 そうとしかいえない。

 そう問われ、トーコが沈黙する。

 それに答えようと口を開きかけて、止める。

(エリシアがいつコッチに来れるかわからない、とか、異世界でのこととかは流石に話せないよね。だけど)

 ふと心をよぎったそれがただの弁解でしかない。

(本当は、それが理由じゃない)


 ざわついた、胸の奥。

 言葉にできなかった、不快感。


(自分の精神状態の安定のために)


 タケルとエリシア。

 会うことができない、互いに求めていると思われる二人に、他の人間を投影した。

 そして、再会が確約されている二人を見て、思わずにいられない。


 どうして、と。


「何か理由がある、ですか」

「あー……ええと」

 さっきからそんな意味のない言葉しか発していないトーコを見下ろして、一つ頷く。

「いいですよ、無理に話さなくても。私はヤマトさんと、貴女の意向に従うだけです」

「……カナメ先輩の意地悪」

 それ以上の会話を断ち切るように言ったカナメに、トーコが口をとがらせた。

 そんな子供っぽい仕草にカナメが微笑んだ。

「珍しく煮え切らない顔をしているからですよ」

 くしゃりと頭を撫で、労わるように触れるカナメに、トーコの心が揺れた。

「貴女があの三兄弟にある種の使命を持っているのは知っています。だけど、貴女が全てを背負う必要がどこにあるのです」

 カナメはただトーコを心配していた。

 トーコとの付き合いも三年以上になる。

 その中でも、初めて見るくらい、今朝の彼女は不安定だった。

 それがどんな深刻なものか知っているカナメが不安に思わないはずがないのだ。

「カナメ先輩にはかなわないなぁ」

 初めてトーコがカナメに出会ったあの時、カナメがトーコに対して思ったものと同じ感服と敬愛を返して呟いたトーコは、ひどく頼りなく見えた。

「大丈夫ですか?」

「……」

「トーコさん」

「うん、大丈夫です」

「……」

「大丈夫、大丈夫」

 言いながら、ぎゅっとこぶしを握って。

「大丈夫じゃなきゃ、いけないんです」

 自分に言い聞かせている。

 それは周りが見ても明らか。

「だって私は、約束をしたんですから」

 一方的な約束だったけど。

 そう頼まれたわけじゃないけど。

 確かにそこにあった大切な誓い。

 その表情はあの三兄弟には絶対見せないものだった。

 張りつめた糸の上に立つような緊迫した表情。

 それを見たカナメは直感する。

 限界が近い。

 これは駄目だ。

 その糸が切れたら、どうなるのか、そんな恐怖が頭をかすめた。

 カナメが眉を寄せ、トーコに声をかけようとする。

 その瞬間だった。


 

 ガラガラと音を立てて、近くの空き教室の扉が開いたのは。


 

「……あ、貴女」

 目を泣き腫らした三人の少女がそこから顔を見せて、驚いたように目を見開いた。




 

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