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トーコとカナメ先輩のお話。

予定よりずっと長くなりました。






『貴女のヤマト兄への想いは…』

 そんな言葉を皮切りにして発せられた問いに、カナメは息をのんだ。

 二つ年下の女の子。

 同年代よりもやや小柄な自分より、更に小さく、こちらを見るには見上げるしかない。

 それでも真っ直ぐにそらされることのない目線は強く、無意識に背筋が伸びる。

 年齢にそぐわない深い感情を思わせる目と、全身から感じ取れる緊迫感。

 そこに余裕はない。

 今にして思えば、当時の彼女に余裕などもてるはずもなかったのだろう。

 その時はただ、その気迫に飲まれるように真っ直ぐに見つめ返し、問いを反芻し、自分なりの返答を返すことだけしかできなかった。

 それが彼女の意にかない。

『ヤマト兄をよろしくお願いします』

 そう頭を下げられた時の安堵は今も忘れられない。

 そして、顔をくしゃくしゃにして笑った笑顔も。

 それは、笑っているというよりも、泣いているように見えた。

 

 

 


「カナメ先輩は、ヤマト兄にどこまで聞いてるんですか?」

 いつも通りの通学路を歩きながら、隣を歩く少女に問いかける。

 普段は一人で歩く通学路を、こうして誰かと連れだって歩くのはどれくらいぶりだろうか?

 何やら、ヤマト宅手前の川を一つの国境であるかのように人は遠巻きだ。

 そもそも、親しいチカやマモルは微妙に方向が違うため、通学路が被ることがない。

 一時期はマモルが送り迎えを提案してくれていたが、トーコが断ったために実現したことはない。

 なんの気の迷いだか、トーコは告白されたことが数回ある。

 下手なことを言えば、過保護兄が父親モードに入るので、言っていないが。

 マモルもその内の一人であることをあの男兄弟二人は知っているのか。

 マモルが告白してきたのはトーコがタケル達との登校をやめた直後。

 ヤマトの周囲のファンが暴走しかけたころだ。

 危機感を覚えたマモルが割と近くに居て影日向に保護されていた。

 その過程で受けた告白に、ありがたいという想いと、申し訳ないという想いを抱えたものだ。

 そういえば、この涼しげな立ち振る舞いの先輩は、まだそのころにはいなかった。

「ヤマトさんからはタケルさんの新しい取り巻きを排除するために、恋人を用意した。そのため、自棄になった三人の暴走がトーコさんを害さないように保護してほしい、と」

「……わぁ」

 排除。

(はっきり言っちゃうんだもんなぁ)

 ヤマト兄からすれば、慣れた作業なのだろうが、タケルには恐らくそんなつもりはあるまい。

 タケルはあの三人が自分を好きだということ自体、何かの間違いだと思っている。

 眼をさませてあげよう、すぐに立ち直るだろう、友達もできて万々歳。

 そんなところと見た。

「まぁ、荒れるかもしれない、ってのは確かに」

「タケルさんには自覚が足りません」

「経験値不足ということで一つ勘弁して上げてください」

「それで貴女に影響がでては意味がないでしょう」

 少しばかり険しい口調に、首をかしげる。

 珍しい様子に眼を瞬いて思い出す。

 カナメもトーコのことを気に入っているから。

 そうヤマトはいっていなかっただろうか。

「そういえば、カナメ先輩」

「何かしら?」

「ヤマト兄から聞いたんですけど、私を気に入ってくれてるとかなんとか?」

「ええ、そうね」

「…………私何かしでかしましたっけ?」

 不思議そうに聞くトーコを、カナメは立ち止まって見下ろした。

 普段と変わりない表情、に見える。

(朝、逢った時はどこか不安定に揺れた瞳をしていた、と思うのだけど)



『貴女の、ヤマト兄への想いは』

 突き刺さるような探るような瞳。

『敬愛ですか? 親愛ですか? 信仰ですか?』

 偽りを見抜く瞳でそう問いかけた、幼い少女を思い出す。

 敬愛。

 親愛。

 信仰。

 ドレが彼女にとってアウトな返答なのか。

 迷って、自分の心に問いかけて、決断した。


 その、どれか一つを選ぶことはできない、と。

 

 敬愛。

 その感情がないとはいえない。

 カナメはその優秀さゆえに、彼の親衛隊での地位を任された部分が大きい。

 ヤマトを尊敬し、力になりたいという想いは、今もこの胸に。

 だからこそ、とりたてて、報酬がなくとも彼の為ならば動くのだ。

 親愛。

 そもそも、ヤマトを好きでなければ、ほんのわずかなものであれ、恋心や愛情に相当するものがなければ、このような親衛隊に入ることはなかっただろう。

 信仰。

 これが一番難しかった。

 彼ならば、ヤマトならば当然である。

 この思い込みや、大きな信頼は恐らくソレになるのだろう。

 言われるまで考えもしなかった、盲目的な感情。

 それが全くないとは言い切れない。

 だけど。

『どの感情もまた、自分で制御できないほど、大きくて、手に負えないものだけど、彼を見失わないように、最後の一つが過剰にならないようにしたいと思います』

 神妙にそう答えた。

 補佐する上で相手を見誤ることは、厳禁である。

 本当に彼が何を欲しているのか、どこまで出来て、何が出来ないのか。

 そこに過信があってはならない。

 その答えを聞いて、トーコはふっと目線を和らげた。

 安心したように肩の力を抜いて。

 ああ、これで、少し肩の荷が下りた。

 そう言っているような表情の彼女が、自分と相対するに当たり、必死に背伸びをしていた、無理をしていたのを悟ったのはその時だ。

 ただただ、ヤマトが大切であるがゆえに、虚勢を張る少女。

 それは、自分と同じだ。

 同じであるというより、、むしろ自分よりキャリアが長い先輩である。

 そんな少女が今自分を認めた。

 その充足感は言葉にするに余りある。

 親衛隊統括就任、最初の指令が『彼女の保護』であった。

 そのことで、嫉妬するかどうか、試すようなそぶりを見せたヤマトに諾々と…むしろ完全にやる気全開で臨んだ自分は、ヤマトからの信頼も得ることが出来た。

 不思議そうな彼が、『彼女に何かしらあることは不愉快極まりない』と零した自分を珍しいものを見る眼でみて、それでも、この会話は教えなかった。

 何か、人に話すのがもったいない、『宝物』である気がしたのだ。



 だけど、彼女にとっては当たり前のことだったのだろう。

 気に入られるため、など念頭にない問いかけ。

 それはただ、ヤマトの為だけに。

「何も」

「んん?」

「だから、何もしでかしてなんかいませんよ? 貴女はただ、貴女なだけです」

 くすりと笑って答える。

「…………なんかカナメ先輩」

「なあに?」

 拗ねたように口を尖らせたトーコに甘い声で答える。

「ヤマト兄に似てきた気がする」

 その返答の仕方とか、笑い方とか。

 むぅ、と呟くトーコの横で、カナメが笑う。

 それはいつも凛として、無表情な彼女にとって、希少価値が高いもの。

 見ることができる人間など学園には一握り。

「それはとても光栄だわ」

 割とトーコには見せているため、そんなこと思う由もない後輩を、カナメは慈しむように見つめて答えるのだった。

 




カナメ先輩の口調とか、キャラが安定してないような気がする…?

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