4. ありえない
「さぁ! キリキリ白状しなさい!」
正面に三人の少女。
全て、整った顔に険しい表情を浮かべている。
それを前にして、トーコは半眼になる。
めんどくさいという思いはあるが、恐怖や嫌悪はさほどない。
正直に言おう。
慣れているのだ。
こうした女子の呼び出しに。
ただし、概ねヤマト兄絡みだ。
現在高校一年生のトーコよりヤマト兄は二つ上。
トーコが中学や高校に入学する時には、ヤマト兄は最高学年で立派なファン組織が形成され終わっている。
そこに、幼馴染の女の子が入学してくるとなれば、色々と勘違いやら考えすぎやらの乙女が出てくるというわけだ。
(まさか、タケルでこのシチュエーションが起きるとはね)
なんだろう。
ちょっと成長した息子に胸が温かくなるような、ダメ弟の成長が微笑ましいような、うん。
まぁ、それを上回る脱力感があるのは否めない。
そんなことをぼんやり考えていると、周囲の三人はますます厳しい顔になっていた。
「ちょっと、聞いてるの?」
「ああ。うん、聞いてる聞いてる」
改めて、少女らに向き合う。
トーコと三人の少女の四人は空き教室の一つにいた。
チカのせいで発生した軽い騒ぎを、授業を理由に切りあげさせ、昼休みに時間を設定したのはトーコだ。
ちなみにこの場にタケルはいない。
焦って否定していた態度は余計に疑いを増すものであったし、少女らは最初から『タケルは魅力的。そんなタケルに近づく女がいるのは当たり前』という態度だ。
更に言うと、『そんな女にもタケルは優しいから断れないんだろうから、代わりに私が』となる。
ゆえに、タケルの言動は三人に信じてもらえなかった。
本人に悪気はなくトーコを心配しての言動だとしても、火に油を注ぐことにしかならないタケルは、むしろ排除しておきたかったトーコだ。
「まぁ、本当に一言で言うとね」
呆れています、と思いきり態度と表情に出す。
「ありえない。これに尽きる」
「……え」
気負うこともなく、当然の事実として告げる。
まるで、これはリンゴですと言うかのような端的な断定に三人がちょっと固まった。
「ヤマト兄ならまだわかるけど、タケルだよ?」
「なっ!!」
「それはタケルくんを馬鹿にしてますの!?」
「そうだ!」
「いや、そういう意味じゃなく」
「じゃあどういう意味だ!?」
どうやら言葉選びがまずかったらしい。
褒めると勝手に暴走するくせに、けなすと怒るとはコレいかに。
本当に面倒だ。
恋する乙女の思考回路はなんとなく理解していて、時に微笑ましく思えても、その被害がこちらに向くとなれば話は違う。
「……タケルはさ、ここ十日くらいで急にモテ初めた。それはわかってるよね」
「それは、まぁ……」
当事者だ。わかっているだろう。
これまでタケルがモテルなどという話がなかったことくら知っている。
「だから、フィルターがない」
「フィルター?」
「そう。んー……なんて言えばいいかな、『先入観フィルター』?」
「なんですか、ソレ」
三人ともピンとこない表情だ。
「えっと……ヤマト兄は知ってる?」
「タケルのお兄さんでしょう?」
「あ、生徒会長の?」
「無論知っている。ヤマト先輩はすごい人だ」
口々に頷く三人、中でもリツカは直接接したこともあるのだから、どこか嬉しげに頷いた。
「ヤマト兄はずっとずっと昔から有名だった。ずっと前からもててたし、確かにすごいんだよね。それは、ヤマト兄の手の及ばないところ、知らないところまで噂として広がってった。ヤマト兄の全てを数倍に美化しながら」
真剣な顔になって言うトーコの話に、いきなり何の話だろうと思っているのがよくわかった。
だけど、これは知っていて欲しいことだ。
「ヤマト兄はずっと近づく人が、どんな風に自分を見てるのか知ってた。好意的に近づく人も、その噂に踊らされているんじゃないかと、悩んだ時期もある。信じられないんだよ、相手が。何を思って近づくのか、何を狙って近づくのか。そう考えずにはいられない。ヤマト兄だって人間だもの」
当たり前だよね、と呟く。
それをトーコはずっと間近で見てた。
人の好意をどこまで信用していいのか、探り探り接し、人の悪意をどうすれば煽らずに済むのか、慎重に慎重に見定めて。
トーコはただそんなヤマトの傍にいた。
そしてタケルもまた。
「タケルはそんな兄も、兄に近づく人も見てた。自分が当事者じゃない分、より冷静に」
だから知っている。
下心で近づく人間の卑怯さ、自分しか見えていない恋愛主義のずるさ、そんなものと無関係に善意で、本当に心配してくれる人、本当に助けになってくれる人。
「タケルは知ってる。人の汚いところも綺麗なところも」
片手を胸にあてて目を閉じ、タケルを思う。
頼りなく見えても……まぁ実際頼りない部分もあるのだが、信用している部分がある。
「タケルは私が何も言わなくたって、自分で自分が好きな人くらい見つけるよ」
急にもて始めたからって浅はかに踊らされたりしないで、自分の好きな人はその目で見つけ出す。
それが誰なのか、まだ分からないけど。
「私なんかを牽制してるくらいなら、他にすることがあるんじゃない?」
じっと彼女らの目を見つめる。
そこに走る動揺。
そう。
本当は無視していてもよかった、彼女らの呼び出しに応じた理由。
それがコレ。
これを言う為に。
「じゃ、私戻るから」
「え。あ……」
「ま、待ちなさい、まだ話は……」
「終わった。私が言いたいことは全部言ったし、タケルに恋愛感情を抱くことはあり得ないということも答えた。もう何も話すことはない。後は」
立ち上がり、教室の扉に向かいながら答えて。
ドアに手をかけた状態で振り向く。
「ただ、見てるだけ」
その言葉に三人が息を呑んだ。
「じゃ」
軽く手を振って、そこから退室する。
数秒後、室内で何か叫ぶ声が聞こえたが、トーコは一切無視して、教室へと続く廊下を歩きだした。
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7/11 調整、改訂しました