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37. 作戦会議

色々説明パートです。





「じゃあ、とりあえず二人の設定だが、俺の知り合いの留学生ということでいいんだな?」

「うん、そうだな」

 頷きあう兄弟の横で、トーコも頷く。

「やっぱりそれが無難だよね」

 話す内容は当座の二人の扱いについて、だ。

 実は、二人がこちらに滞在するだけなら、こんな打ち合わせをする必要はない。

 だが、今回はどうしてもソレが必要だった。

 何より、タケルの為にだ。

「はっきり、エリシアちゃんを見せないと、あの三人、納得しそうにないもんね」

「しそうにない、じゃなくて、しなかったんだよ……」

 唸るように呟いて、力なく肩を落としたのはタケル。

 あの三人とは、言うまでもなく、スミレ、ミナコ、リツカのことだ。

 未だお互いに告白等はないものの、タケルはエリシアのことが好きだし、エリシアも同様だ。

 そんな状態で、女の子三人をはべらすような真似を、タケルが好んで行うか。

 否、行えるか、ということだ。

 結論から言うと、出来る出来ないではなく、逃れようがなかった。

 三人が周りに寄ってくるようになってから、タケルはちゃんと言ったのだ。

『好きな人がいる』と。

 それに対して、三人は根掘り葉掘り聞き出そうとされ、たじたじになったタケルはエリシアにまつわるいくつかの事柄を漏らしてしまったのだ。

 流石に異世界云々はないが、人柄、そして、容姿。

 問題になったのはその容姿だ。

 金髪碧眼の美少女。

 だが、現実、タケルの周囲に金髪碧眼の美少女の影などない。

 そのため、信じてもらえなかったのだ。

『そんな嘘までついて、私たちがうとましいのか』。

 そう言って泣かれては、それ以上強く言うことはできず。

 だからといってこのままではいけない。

 なんとかしなくては、と悩む端から起こる騒動。

 更には周囲から孤立している彼女たちの現状と、孤独も垣間見えてしまい。

(なんだかんだいって、三人で競い合ってる時は楽しそうなんだよな…)

 突き放してしまい、今のこの関係を崩したら、それぞれ一人になるのではないか。

 こうした経験値が低いタケルには手に余る特殊な事例に途方に暮れる。

 そんなタケルに気付いてか、はたまた、単に自身の我慢の限界に達してか、トーコが口出しをしはじめた。

 結果、騒動は最小限にまで落ち着き、トーコや兄にエリシアのことを話せるまでになった。

 二カ月というタイムリミットがわかっている以上、それまでに何かしらの対応策を話しあて置けたのは僥倖である。

『逢わせてみるのが一番手っ取り早いよね』

 そう言い出したのが、トーコ。

『容姿が特殊であれば、留学生を名乗ったほうが飲み込みやすいだろうな』

 そう言ったのがヤマト。

 その為の立場はヤマトが用意する、と。

 学園内でのヤマトの信望者は多い。

 何より、たぐいまれなる容姿は、エリシアと並んでも遜色はなく、ヤマトの知人であるといえば、なんとなく皆が納得する。

 そこを利用しようというのだ。

 ヤマトの知人であれば、実弟であるタケルとも知人であってもおかしくない。

 以前、ヤマト経由で逢って、好きになった。

 そういうことにしてしまおうと。

 明日の放課後、ヤマトはいったん二人をこの家まで迎えに来て、学校を案内する。

 その為の算段は午前中にも完了するだろう。

 ヤマトの生徒会長としての信頼度は、教師にも高い。

「あ、私はとっとと下校してかち合わないようにするね」

「ええ! 何故ですか?」

 さらりと口を挟んだトーコにエリシアが驚く。

「いやぁ、だってさぁ……。なんつうか、予定外なことがおきてるし?」

 苦笑したトーコに、タケルも微妙な顔になった。

 予定外なこと、というのが何かなどわかりきっている。

 エリシアの懐きっぷりだ。

 トーコは例の三人に嫌われている。

 そんな三人の前でエリシアがこのように懐いたら、十中八九、将を射んとすればまず馬をとばかりに、トーコに取り入っていると言い出す。

 そうなれば、トーコにゴマをすって、すり寄っている、あの女はタケルを騙している、などと言い出すであろう。

 それは避けたい事態だ。

「厄介事回避のため、必要不可欠ってことで納得してね、エリシア」

「…………はい」

 言い含めるように言ったトーコに、少し寂しそうな顔でしょんぼりしながら頷く。

 見知らぬ世界、見知らぬ土地、見知らぬ人々。

 何一つわからない中、きっと反発されるであろう相手に逢う。

 本音を言えば、心細い部分もあるのだろう。

 エリシアには、タケルを好きになった三人の少女が、断りの言葉も聞く耳持たずで迷惑している、そのため恋人のふりをしてほしいと頼んである。

 事前に、はっきり告白しちゃったら? とタケルにはけしかけたのだが、暫く悩んで首を横に振った。

 タケルにはタケルなりに、エリシアが背負う国や使命を共に背負えるだけの実力がないうちに、不誠実なことはできないという思いがあるらしい。

(真面目すぎるよね、ホント)

 せめて定期的にあちらに通えるだけの状況、通ってあちらでエリシアの力になれるだけの地位と実力。

 そこを手にして初めて告白をしたいのだといった。

 一国の王女、その純潔性すらも価値である聖女に醜聞を被らせないように。

 それはつまり、大切にしたいのだ。

(ああ、本当に、エリシアが好きなんだなぁ)

 そう思って、胸が暖かくなった。

 ひとつひとつを積み重ねて、幸せになってくれるなら、どれだけ嬉しいことか。

 そのための協力ならけして惜しむまいと思ったトーコは、やはり姉目線であり、母目線で あった。

 だが、同時に心のどこかがじくりと熱を持ち、痛みを生み出す。

 それに目をそらして、肩を落とし、俯いているエリシアの頭を撫でて宥めてやる。


「ああ、そうだ。トーコ」

「なぁに? ヤマト兄」

「暫く、トーコにカナメをつけるから」

「へ? カナメ先輩? 何で?」

 唐突な台詞に目を瞬く。

 カナメというのは、ヤマトの親衛隊において、統括を行っている女性であり、生徒会でも日常でも右腕のような人である。

 いつもきびきび動いている、かっこいいお姉さまで、普段は割と無表情なのに、割とトーコにはやわらかい表情をみせてくれる先輩。

 トーコの印象はそんなところだろうか。

 そんな先輩を態々ヤマトから離してトーコにつけるという意味がわからない。

「何が起きるかわからないだろう?」

「何が、って何が?」

 きょとんとした表情のトーコに危機感はない。

 だが、ヤマトは恋する少女の危うさというものを理解している。

 思い込みからの暴走というものが恐ろしいというのも。

「とにかく、つけるから」

「過保護だなぁ…」

 断固として言いきるヤマトに苦笑して受け入れる。

 こういう時のヤマトを思いとどまらせるのは至難の業なのだ。



「それじゃ、作戦会議はこんなものかな」

「うん。じゃあ、明日に備えて早めに休みますか」

「あ、エリシアは私の部屋に泊ってくよね。えーとキースさんは親の部屋に入れるのもちょっとアレか……」

「護衛騎士たるものどこででも寝れる。……そうだな、ここのソファーでも構わん」

「じゃあ、そうしてもらおうかな」

「布団とか運ぶの手伝うよ」

「あ、俺も」

「おお、ありがとう。じゃあ、私はとりあえず……んー、明日のお昼ごはん、二人で勝手に食べれるようにちょっと仕込んどくかな」

「手伝います!!」

「はいはい、よろしくねエリシア」

「はい!」


 そんなこんなでその夜は更けていった。

 

 

 

 

ちなみに、トーコはエリシアを呼び捨てにしていますが、これはエリシア本人から、エリシアと呼び捨てで構いません!と、そりゃーキラッキラした目で言われて、勢いに負けて承諾したためです。


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