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30. 幼馴染兼……

姫様、本領…いやいや、本性発揮。




「エリシア! キース!」

「タケル!」

 程なくして帰宅したタケルが喜色を浮かべて二人を笑顔で歓迎し、迎えられるお姫様は嬉しそうに破顔した。

(おお……リアルに感動の再会…)

 その様子を微笑ましい気持ちで見守る。

「タケル、元気にしていましたか?」

「うん。俺は元気だよ。エリシアは?」

「勿論元気です! ちょっと忙しかったけど…」

「そっか、そうだよな。ごめん」

「だから、お前が謝ることじゃないだろうが。まったく」

「あはは。キースも久しぶり!」

 そんな会話を交わしながら、再会の喜びをかみしめる三人を見ていると、タケルがこちらを振り返った。

「トーコ、知らせてくれてありがとな」

「なんのなんの。無事に会えてよかったね」

「……うん」

 ちょっとはにかんだように笑うその姿に、しみじみと思う。

「制服のタケルと、ドレスな金髪美少女と鎧姿の騎士ってすごいビジュアルだよね」

「うぐ。仕方ないだろ」

「ここは一つ、タケルも帰ってきた時着てたあのコスプレで」

「だからコスプレじゃないっつってんだろ」

 からかうような言葉に突っ込みを返される。

「割と本気で言ってるんだけど」

「より、タチが悪いよ」

 まぁ着替えたところで、三人と部屋の落差の激しさで、それもまた強烈なインパクトだったのだろうが。

「……あの」

「ん?」

 遠慮のない口調の二人を見て何を感じ取ったのか、エリシアが少し不安げな声音で二人に問いかける。

「お二人はその、どういう……?」

「…………ああ、そうだった。自己紹介すらしてない」

 言われて気付き、ふむ、と一つ思案。

「ああ、こいつは…」

「タケル、ストップ!」

「あ?」

 問われるままに応えようとしたタケルを遮り、窓枠に足を掛ける。

「とりあえずそっちに行くから。んで、自分で言う」

「おお……?」

 唐突な言葉に首をかしげつつも、特にそれを遮る理由もなく。

 慣れた様子でタケルの部屋へと渡ってくるトーコに二人は目を瞬かせる。

「あ、危な……くはなさそうだな。慣れてるのか?」

「うん、慣れてる」

「……」

 手を貸すべきか迷ったそぶりのキースが、トーコの返答に少し顔をしかめた。

 お堅い事に定評のある騎士の頭の中は、女性が男の部屋にほいほい入るべきではないだろうに、というものだったが、キースの性格を知らないトーコはとりあえずスルー。

 いよっと、と無事渡り終えて、パタパタと足元を払ったトーコは真っ直ぐにエリシアの前に立った。

 金髪碧眼の美少女。

 身長はトーコより高いし、スタイルもよろしいようだ。

 そんな彼女を見上げて、トーコはすっと目を細めた。

「っ!?」

 その纏う空気が変わったことに気付いたエリシアが、ちょっと驚いたように息をのむ。

「私はトーコです。タケルの幼馴染兼、親友兼、妹で姉で、時々母です」

「ちょ!?」

「タケルは黙ってらっしゃい」

 とんでもないことを言い出したトーコにタケルが声をあげるが、それすらもぴりゃりと撥ね退けて。

「貴女が、うちのタケルを危険にさらしたという『エリシアさん』ですか」

 叱責に近い鋭い口調で叩きつけられた言葉に、目に見えてエリシアの表情が強張った。

 しかし、トーコの内心は。

(なんちゃって。まぁ、最初ハナっからこうして自分の立ち位置を示していた方があのハーレム陣との時みたいにこじれないんじゃないかな?)

 そんなことを呟いていたりする。

 ただの幼馴染ということから恋人発展フラグを立てられたなら、過保護家族フラグを先にたててみようという、ただそれだけの思いつきだった。

「おい! 貴様!」

 敬愛する姫君を威嚇するような態度をとるトーコに、声を荒げたのはキース。

 だがそれすらも。

「変態、痴漢」

「ぐあ!」

 一言で黙らせる。

 そしてじっとエリシアを観察すると、彼女は緊張したように背筋を伸ばし、がちんがちんに硬直すると。

「は、はははい! あの、タ、タケルさんにはとても助けていただ、だっ!?」

(あ、舌噛んだ)

 ひきつった顔で必死に口を開いたかと思えば、思いっきり舌を噛み、口を押さえて俯き涙目になった。

「ひ、姫様、大丈夫ですか!?」

「エリシア!? なんでそんなに緊張して? お前、お姫様だから国の要人にだってそんなに緊張しないじゃん」

「だ、だって! タケルの妹君で、姉君で、更に母上でもあられるのでしょうっ!? そんな凄い方に失礼があってはいけないとっ」

「いやあのな……」

「確かに私たちの都合でタケルを危険に曝したのですもの。ちゃんと謝罪して、それからあのできれば、今後もタケルと親しく」

「ひ、姫様、だだ漏れです!」

「あー…落ちつけ落ちつけ」

 顔を真っ赤にし、思いついたままを口走りまくるパニック状態のエリシアを見て、目をぱちくりさせる。

(なんかこういうの見たことあるな)

 恋人の両親にあって、舞い上がっておたおたするシチュエーション。

 まさにあれだ。

 そんなエリシアをキースが宥めようとしてるが、効果が出ている様子はない。

 今にも頭から湯気がでそうだ。

「……タケル」

「…………なんだよ」

「ごめん、これは予想外のリアクション」

「……お前なぁ、あんまりエリシアをからかうなよ」

「いやごめん、ちょっと楽しい。もうちょい、いじりたい」

「ダメだっつの」

 あくまでも真顔であるというのに、わくわくしているのが手に取るようにわかったタケルがため息を零して制止する。

 


 結局、エリシアが落ちついて、互いの自己紹介が完了するまで五分の時間を必要とした。

 

 

 

姫様はド天然でした、というおはなし。

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