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29. 姫様と騎士

お待たせしました。

今回、新キャラ視点一人称あります。

 その日もトーコはいつも通りに下校して、いつも通りに自宅にたどり着いた。

 トーコは帰宅部である。

 実は今まで、部活らしい部活をしたことがない。

 中学校の頃、短期間文芸部に入っていたことがあるのだが、既にヤマトに魅せられていた先輩方によるトーコを出しにした接近計画を察知し、早めに抜けることとなった。

 実は、その先輩方から差し出された『完璧な兄と落ちこぼれ弟の禁断愛』を描いた薄い冊子に驚き慄いたことがとどめであったのだが、この件に関しては誰にも言っていない。

 言えるはずもなかったわけだが。

 ただ一言コメントを添えるとするならば、『変にリアルで怖かった』とだけ……。

 深くは語るまい。

 それはともかくとして。

 トーコはかく言う理由で帰宅部である。

 とはいえ、そのことで寂しさや楽しみの軽減があるわけではない。

 友人達と小さな手芸サークルのようなものを作って楽しんでいるので、実質手芸部のようなものだと思っている。

 とりあえず何が言いたいかというと、トーコはお隣の三人より先に家に帰ることが多いということだ。

 少し前までは、タケルもまた帰宅部でさほど変わらない時間に帰っていたが、最近はあのハーレム陣のおこす騒動によって遅くなることもしばしばなのだ。

 そうして帰りつき、いつものように自室に入り荷物を下ろす。

 そして、いつものようにカーテンを閉め忘れ、いつものように部屋着へと着替え初めて。

 そして気がついた。

 タケルが例の世界から帰ってきて、二ヶ月が過ぎ去っていたことに。

 何故気付いたかなど決まっている。

 

 窓の向こうがいつかと同じように、眩しい光を放ったからだ。






 我が国を襲った未曾有の危機。

 魔物による侵略を納めた勇者の帰還から二ヶ月。

 その時間はあっというまに過ぎ去った。

 

 自分も共に戦った、ゲート封印の戦いより後、魔物による大規模な襲撃は起きていない。

 はっきりとわかるほどに魔物の活動は沈静化した。

 だが、それまでに国内外に与えられた打撃は大きかった。

 襲撃を受けた近隣の街や防衛施設の再建、復興の為、国力も人間も、時間も大きく割かれることなったのは、自明の理だったろう。

 タケル帰還後、自分も、自分が仕えるエリシア姫も、睡眠時間すら削るほどの多忙スケジュールに翻弄されることとなった。

 エリシア姫は王国の第二王女だ。

 幼少時より類稀なる魔術の才を発揮し、魔法使いとしても神官としても高位をお持ちの方で、とても聡明であられる。

 既にご結婚なされた姉姫は現在ご懐妊中ゆえに、父君であられる国王陛下と、その補佐を務められる姉君の夫の王太子殿下と共に、激務をこなされることとなった。

 ましてや姫は、ゲート封印の当事者であられた。

 他国の会合にも顔を出さねばならないことも多いというのに、少しでも空いた時間があれば、傷ついた兵士で溢れる各地方の神殿や病院を回り、時に癒し、時に励まし、国の代表の一人としての責務を果たす。

 かくいう自分もそんな姫の騎士である。

 護衛として、共に国内外を飛び回った。

 ゲート封印の立役者、勇者一行の一員。

 その肩書きを持つ者は、一様に忙しい日々を過ごしたのだ。

 そんな日々に私達が耐えられたのは、理由がある。

 

――――二ヶ月後、再びタケルと逢った時に胸を張って成果を報告する。

 その為に。

 

 タケルは最後まで、一人先に離脱することを気に病んでいた。

 ゲートのある場所までの旅で、またその後の宴や街の歓迎ぶりで、タケルは知ってしまった。

『勇者』とは人の心の支えとなりうることを。

 嘆き悲しむ人々に、絶望しうずくまる人々に、勇気と希望を与えることのできる象徴であることを知った。

 最初にこの世界に飛ばされてきた彼は、少しばかり卑屈なところのある、優しい、優しすぎる少年だった。

 そんな彼がこの世界で学んだものは、きっと多い。

 そして、背負わされたものもまた。

 優しすぎる少年は剣を手に、戦うことを覚えた。

 命を奪う罪悪と、そうしてでも守りたいものを手に入れ、勇者という名の重さに耐えうる心の強さを身につけた。

 そんな彼にとって、これからこの国を襲うであろう苦難を目の前にして、一人先に故郷へ帰ることは気が引けたのだろう。

 この世界にとって、魔物とはけしてなくならない黒い染みのようなものだ。

 ゲートを封印したとて、消え去るわけではない。

 低下した国防機能を取り戻すまでの剣として、盾として、もう少しここに残った方がよいのではないか、と、真剣な顔で相談してきた彼を笑い飛ばしたのはパーティの魔道士で、いいからとっとと帰れと突き放したのは自分だ。

『これ以上滞在が長くなれば、元の時間軸に戻せなくなるから。後はまかせて』

 そう言って優しく微笑んだのが姫様。

 お人好しで心配性で、自分のできることがあるなら、と無茶をしがちの勇者を説得して、送り返す。

 その時に皆で決めたのだ。

 二ヶ月後、大丈夫だったと報告する為に、がむしゃらに働くと。

 後ろ髪引かれる様子で帰っていったタケルに、そんな心配は杞憂なのだと教える為に。

 安心させるために。


 目まぐるしい二ヶ月は過ぎ去り、今日という日が訪れた。

 自分と姫君は王都中心部にある大神殿の地下にいた。

「とうとう、この日が来ましたね」

「ええ。……ええ、キース」

 目の前に広がる大規模な魔方陣は、光る青い文字や絵柄をもって不可思議な文様を描きあげている。

 これこそが、タケルをこの国に招いた召喚陣。

 そして、タケルの元へと赴くことができる送還陣でもある。

 隣に立つ姫君の表情は感慨深げだ。

 何を思いだしているのかなど、分かり切っている。

 タケルとの出会いだろう。

 柔らかい赤を内包したような、淡紅色のドレスを纏った姫君。

 そのドレスはタケルが褒めていたものだ。

『綺麗な桜色だね』

 よく似合う、と照れくさそうに笑っていた。

 サクラというのは、故郷の花でとても美しい大好きな花なんだと語るタケルの傍で、姫君は幸せそうで。

 初々しく可愛らしい二人。

 その場に漂った空気に誰もが顔を見合わせてくすぐったそうに笑い、おもむろに席を外していくのがまた二人の羞恥を煽ったらしく、真っ赤になっていたものだ。

 姫を襲った多忙さは、一つだけ、良い事があった。

 タケル不在の寂しさを、少しなりとも軽減させてくれていたことだ。

 寂しいとは言わない。

 逢いたいとも言わない。

 そんな彼女が何より楽しみにしていた今日。

 自分とて、この日を心待ちにしていた。


「姫様! キース様! 準備が整いました!」

 文様が輝きを増し、その魔方陣を取り囲んでいた魔術師の一人がそう声をあげる。

 その声に頷きを返し。

「行きましょう。姫」

 先に陣に足を踏み入れ中央に立ち、姫を振り返る。

 そこにあったのは嬉しそうな笑み。

「はい」

 真っ直ぐに歩を進め、同じく中央に立ち、魔術師たちに合図を送る。

 直後、召喚陣は光を増して。


 そして私たちは世界を超えた――――。




 視界を埋め尽くしていた光が消え去ると同時に、周囲に警戒の目線を走らせた。

 自分の本質はあくまでも姫君をお守りする騎士である。

 視界に飛び込んできたの、農民の納屋よりも狭い小部屋。

 今までいた場所に比べれば、狭苦しいが、足元は絨毯が敷かれ、ベッドや書棚、机など、居心地がよいように整えられていた。

(ここがタケルの部屋か?)

 勇者には似つかわしくないみすぼらしさだ。

(そういえば、王城内に与えられた部屋が広すぎて落ちつかないと途方にくれた顔をしたいたな)

 何を大げさな、と思っていたが、これが普通なら、確かにそう思うのかもしれない。

 そんな他愛もないことを考えながら、危険はないかと更に周辺を確認して。


 見てしまった。

 

 窓の外。

 向かい合った部屋からこちらを見ている黒髪の少女。

 その上半身のほとんどが温かみのある柔らかな肌色で占められているのを。

「なぁっ!?」

 一気に顔が赤くなるのがわかった。

 自慢ではないが、女子供を守る誠実で清廉な騎士となる為に鍛えられていた自分は、女性に慣れていない。

 同僚や部下達が堅物と陰で言っているのも知っている。

 年の差はあまりないと見受けられる女性、それも、その半裸な姿などに免疫があるはずもなく。

「うおあ! しししつれい!?」

 情けなくも声を裏返らせて、回れ右。

 不可抗力とはいて、なんということをしてしまったのか。

 恐らくは嫁入り前であろう女性の露わな肌を見るなど。

 その少女は悲鳴を上げるか、罵倒し、軽蔑するか。

 どちらにせよ甘んじて受け入れねばと思った。

 だが、いつまで経っても彼女がこちらを責める様子はない。

 代わりに返されたのはのんびりした声。

「えっと……もしかして、タケルの異世界のお友達、仲間のお姫様ご一行かな?」

「あ、は、はい!」

 動揺した声は姫のもの。

 さしもの姫も予想もしない出来事と反応に目を白黒させているようだ。

「ああやっぱり。……んー、まだタケルは帰ってきてないんだよね。ちょっと待って、連絡するから」

「も、申し訳ありません」

「いいよいいよ。ただそうだね……他の人にばれないようにちょっと静かにしててくれる? 今そっちの家には誰もいないみたいだけど、念のためね」

「はい。わかりました」

「んじゃ、ちょっと待ってて。すぐ呼び戻す」

「ありがとうございます。でもあの……」

 そんな会話を背中で聞いて。

 戸惑った姫の声に振り向きかける。

 だが。

「先に、服を着た方が」

「ああ、そうだね。風邪引いちゃうもんね」

 おずおずと勧めた言葉に、あっさりと応えた少女の台詞で、まだ先ほどの半裸のままであることが、鮮明な映像と共に脳裏に蘇り、的外れな返答に怒りすら覚える。


(そういう問題じゃないだろう!?)




――――心の中で彼があげた絶叫を責められる者は誰もいない。

 


 

勇者様パーティーは

1.勇者(戦士で剣士)前衛

2.騎士(剣士)   前衛

3.高位神官(僧侶で補助魔法使い)後衛

4.魔道士(魔法使い) 後衛


の四人で構成されてました。

もちろん、他の兵士も部隊構成して同行していましたが、連携可能な高レベルパーティとしてはこんな感じ。


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